今日だけだよん
(BL/OS/お山妄想小説)
*SFファンタジー小説
(5)
明け方、そっと、手紙を大事に持って家に入る。
封筒を見つめて、描きかけの絵を見た。
この絵の人が、この手紙の人のような気がした。
「返事、まだ書いてないのに、また書いてくれたのかな? それとも俺の手紙は届かなかったとか?」
ゆっくり封筒を開けた。
『大野智様
信じられないかもしれませんが、俺はあなたの恋人です。
2020年の夏に出会いました。
そして一緒に、住むようになりました。
1年くらい前です。
今は、2021年の8月20日です。
今のあなたは、どこで何をしてるの?
あなたがいるのは、今、何年ですか?
櫻井翔より』
思わず、間違いかと読み返すが、何度読んでも同じだった。
「未来の……恋人?」
未来って、どうなってるの?
俺も返事を書くことにした。
『 櫻井翔様
俺は、今、2018年の8月17日です。
展示会と知り合いの講演会を見に、9月1日から大阪に行きます。
一週間後に、家に帰ります。
あなたの話は、まだ、信じられないけど。
できたら何か、教えてください。
2018年に、これから起きることを。
大野智 』
返事は、すぐ次の日の夜明けに、届いた。
『大野智様
2018年は、台風があります。
9月4日に、台風21号が徳島県に上陸して、1961年の第二室戸台風と似た経路をたどります。
近畿は猛烈な風で、大阪も大変な被害がありました。
どうか、気を付けて下さい。
櫻井翔 』
手紙は、これからの台風を教えてくれた。
「本当に、来る?」
信じられない気持ちだったけど、手紙の教える台風は、確かに書いてあった通りのコースで近畿地方を襲った。
展示会も、講演会も中止で。
いろんな対応に追われる日々の中、大変なのに、どこかワクワクしていた。
手紙は、本当に未来からなんだ。
櫻井翔は、この世のどこかにいるんだと思った。
そして、2年後の夏に……出会えるんだろうか。
「櫻井翔くん……早く会いたいな」
大阪から帰って、すぐに手紙を書いた。
未来の恋人なら、きっと心配してるだろうから。
『櫻井翔様
あなたの教えてくれた通りでした。
大阪は、台風で大変な被害でした。
展示会は中止になり、講演会も中止になりました。
違う展示会をするために、色々走り回っています。
でも、どうしてこの手紙は、未来のあなたに届いてるの?
もっと、あなたの事を教えて下さい。
大野智』
本当に心配してくれていたらしい返事は、すぐに来て。
『大野智様
あなたが、無事で良かったです。
俺は、東京の千代田区のKSCという会社に勤めています。
あなたと会う前の俺は、多分、毎日のように会社から近いデイジーという喫茶店や東京ドームの中の遊園地の中の店で、
同僚と仕事の打ち合わせや、食事をしていると思います。
できたら、その頃の貴方に会ってみたかった。
俺の知り合いに、展示会に詳しい人間がいます。
品川駅のそばにある会社の人で、名前は相葉雅紀と言います。
連絡先を書くので、頼ってはどうでしょうか。
東京都港区……XXXX7階 株式会社XXXX 営業部……
櫻井翔』
彼の優しい気持ちを感じて、その手紙を思わず抱きしめた。
「櫻井君……ありがとう」
本当に、君は……いるんだよね?
探しに行ってみようか、そう思った。
でも……手紙はそこから、2度と届かなくなったんだ。
櫻井君……何か、あったの?
続く