「パリ近郊の家族」ポエトリーリーディング | サンドアート集団SILT船本恵太のアメブロ

「パリ近郊の家族」ポエトリーリーディング

 

 

目が覚めてベッドから跳ね起き

5秒で着替えて靴を履く

白いレースのカーテン越しに射す陽光が

少年の栗色の癖毛を光らせている

起きたばかりとは思えない速さで階段を降りる

ママおはよう

おはよう私の可愛い坊や

両頬にキスを交わし

軽く髪を撫で寝癖を整えようとしたが

 

この子の癖毛では

ラチがあかないから諦め

エプロンのポケットから

コインを数枚取り出し手渡した

行ってきます!

行ってらっしゃい。車に気をつけて

と言い終わる前にバタンとドアは閉じられていた

石畳を駆け

朝日を浴びたこの町の空気を吸い込んでゆく

手にコインを握りしめて

 

パン屋の前にくる50mくらい前から

いい香りが漂ってきてので

足の速度を速めた

いつも通りもう長い列が出来ていて

木のカゴを持った近所の老婆に朝の挨拶をする

ちょうどその時

町の教会の鐘の音が遠くから聞こえた

いつもより少しはやくパン屋に到着できた合図

少年は少し飛び跳ねた

 

おはよう

おはよう。バゲットを一つ

ありがとう。またね。

またね。

買い物を終えると再び少年は走り出した

紙袋に包まれたバゲットを片手に

家の近くに見慣れない黄色いシトロエンが止まっていたので歩みを遅め

眺めながらバゲットをかじった

家に戻ると

木製の丸い食卓の上に

 

ナイフと小さなスプーンが置かれ

グラスには水が注がれた

どれくらい食べる?

バゲットを指差すと

ママがその位置までの長さでカットしてくれた

ナイフでバターを塗り口に頬張りながら

おばあちゃんの手作りのアンズジャムの蓋を開けようとしたけど

今日も開けられなくてママが開けた

 

瓶から二杯目の水を注ぎながら

ママ、リンゴ食べてもいい?

もちろんよ

木の籠の中には

洋ナシと青リンゴとバナナが入っていた

青リンゴをかじりながら

コーヒーを淹れに台所へゆく

それも少年の役割だった

チョコ食べる?

ママはまるで一緒に悪さしようという笑顔で見つめた

 

笑顔で見つめ返し

コーヒーのいい香りが部屋中に立ちこめた

いつもと変わらない

パリ近郊の家族の

人生の中の

一ページの物語