アシュリー・ウェイン(Ashley Wain)による2005年の博士論文**『演技と本質:スタニスラフスキーとコポーの演技伝統における本質、プレゼンス、元型の体験(ACTING AND ESSENCE: Experiencing Essence, Presence and Archetype in the Acting Traditions of Stanislavski and Copeau)』**です。 この論文は、演技における「本質(Essence)」や「プレゼンス(Presence)」といった体験を、トランスパーソナル心理学(特にA.H.アルマースのダイヤモンド・アプローチ)の視点から探求し、スタニスラフスキー・システムやコポー(ニュートラル・マスク)の伝統を再解釈したものです。 以下にその内容を要約します。 1. 論文の目的と背景 著者は、自身の演技経験(特にデヴィッド・レイサムによるニュートラル・マスクの訓練や、観客として体験したサム・シェパード劇の『フール・フォア・ラブ』など)を通じて、演劇には言葉にできない「聖なるもの(numinous)」や「深み」に触れる瞬間があると感じていました 。本研究は、こうした**「本質的な体験(essential experience)」**が、スタニスラフスキー、マイケル・チェーホフ、グロトフスキ、ピーター・ブルック、コポー、ルコックといった現代演劇の主要な指導者たちの中心的な関心事であることを論じ、それを現代のスピリチュアルな枠組みで再定義することを目的としています 。 2. 理論的枠組み:トランスパーソナル心理学と演技 著者は、**A.H.アルマース(A.H. Almaas)の「ダイヤモンド・アプローチ」**を理論的基盤として採用しています。 本質(Essence)とプレゼンス(Presence): アルマースによれば、「本質」は個人の根源的な性質であり、現象学的には「プレゼンス(実存感)」として体験されます 。 基礎的知(Basic Knowledge)と通常の知(Ordinary Knowledge): 過去の記憶や概念に基づく「通常の知」に対し、今この瞬間の直接的な体験に基づく「基礎的知」を区別し、演技における「即興性」や「今、ここ」の重要性と関連付けています 。 元型(Archetype): ユング心理学的な元型だけでなく、プラトン的な「イデア」やアルマースのいう「本質の側面(Aspects of Essence)」として、愛、意志、真実などの質が演技にどう現れるかを探求しています 。 3. スタニスラフスキー・システムにおける精神性 著者は、スタニスラフスキー・システムが根本的にスピリチュアルな探求であったと主張します。 ヨガの影響: スタニスラフスキーは「ヨギ・ラマチャラカ(Yogi Ramacharaka)」の著作を通じてヨガの影響を深く受けており、「プラーナ」の放射や「I am(私は在る)」という概念を取り入れていました 。 体験(Experiencing)と超意識: スタニスラフスキーのいう「体験(perezhivanie)」は、アルマースのいう「個人的本質(Personal Essence)」の状態と同義であり、観客に「超意識的感情」を感染(伝達)させることを目指していました 。 レオニード・ヴェルズボ(Leonid Verzub)との作業: 著者は、スタニスラフスキー直系の演出家ヴェルズボから「アクティブ・アナリシス(能動的分析)」を学び、それが自己のイメージを忘れさせ、真の「I(私)」を目覚めさせるプロセスであることを発見しました 。 4. コポーとルコックの伝統:ニュートラル・マスク ジャック・コポーに始まり、ルコックやデヴィッド・レイサムに受け継がれた「ニュートラル・マスク」の訓練は、俳優から個人的な癖(過去)を取り除き、普遍的な「本質」へと至る道として位置づけられています 。 発見の旅: マスクのワークは、自然界の要素(火、水など)や元型と同一化することで、俳優が「基礎的知」にアクセスし、変容するための具体的な方法論です 。 5. 実践的研究と発見(リサーチ・プロジェクト) 著者は、自身が俳優・演出家として行ったスタジオでの実験(『Palaces in Ruin』や『Dear Sisters, Sweet Sisters』の上演など)を通じて、以下の元型や本質の側面が演技にどう作用するかを検証しました。 A. 愛と「愚者(The Fool)」 愛の力: 愛は単なる感情ではなく、演技における「有機性(organicity)」や「フロー」を生み出す存在論的な力です 。 愚者の元型: タロットの「愚者」や「個人的な愛(ピンクのエッセンス)」の元型を用いることで、俳優は判断を手放し、リズムに乗り、観客との深い接触(コンタクト)と遊び(Play)の状態に入ることができます 。 B. アイデンティティと「点(The Point)」 マイケル・チェーホフの「センター」: チェーホフの「イマジナリー・センター」は、アルマースのいう「本質的アイデンティティ(Essential Identity)」あるいは「点(The Point)」と対応しています 。 効果: この「点」の感覚は、俳優に明確さ、自発性、そして自己意識からの解放(ナルシシズムの克服)をもたらし、「今、ここ」に強烈に存在することを可能にします 。 C. 「I am」と「真珠(The Pearl)」 I amの状態: スタニスラフスキーの目指した「I am」は、アルマースの「個人的本質(真珠/The Pearl)」に対応します。これは、自律性、接触(コンタクト)、実存感(Being)、人間味といった質を含みます 。 二重意識: 俳優の「二重意識(Dual Consciousness)」は、観察する静寂な「創造的個性(Creative Individuality)」と、行動する「日常の自分」の統合として再解釈され、これにより本質的な演技が可能になります 。 6. 結論 この研究は、演技とは単なるスキルの披露ではなく、**「本質的な体験の伝達」**であり、俳優自身の魂の変容プロセスであることを示唆しています。著者は、トランスパーソナルな視点を取り入れることで、スタニスラフスキーやチェーホフのテクニックがより深く、精神的な次元で理解・実践できると結論付けています 。同時に、こうした体験をエゴの強化に使う「スピリチュアルな唯物論」に陥らないよう警鐘を鳴らしています 。
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