「な、ないって。ただのカツどんやで。ほんまにないの?」
「ありません」
「ほな。カツは?」
「トンカツならございます。」
「それを刻んでごはんの上に乗せるねん」

「わかりました。カツどんというのはあ・・」
「ごはんにカツをどんと乗せるという誰かの
洒落は言わんでええよ」
「なんでわかったんですか」

「わかりました」
「またわかったんかいな」
「じゃあ、ご飯の上にキャベツをばら撒いて
その上にトンカツを置いたらいいんですね」
「あのねえ。それいかにも不味そうでしょう」

「しゃあないなあ。雪平なべある?」
「ございますよ。食堂なんですから」
らちがあかないとみた二人は、そのまま奥さんを
連れて調理場に踏み込んだ。そこにはやはり
カツどんを知らないご主人がいて、目を丸くして
二人を迎えた。

「そうそう。たまねぎを刻んで。はいそこに
カツを入れる。ここからが勝負やで。卵を
とくやろ。そんなに仇みたいに混ぜたら
あかんねん。ふわーと。ふわーと。もう
火い。とめい」

まあ。要するに二人は調理指導をしながら
カツどんを食べたということですな。やがて
二人は食べ終えるとお金を払い、夫婦に見送られて
店を出た。
「わたしらもあとで、作って食べてみるきに。」
「おまんらに教えてもろて、メニューが増えたきに」

「あのな。ほんまは自分で作ったほうが早いし
美味しいとは思ってん。離婚してだいぶになるし
料理の腕も上がったしな」
「でもな。食堂で自分で料理して自分で金払う
いうのはなんか腹たつやろ。思えへん?」

はははは。それはそうや。