夜を賭けて 2004年2月11日
分断
在日の歴史は分断の歴史であるという。そもそも民衆の歴史は分断の歴史かもしれない。分断を強いる力に抵抗する歴史が民衆史かもしれない。それでも敢えて在日の歴史は「分断の歴史」であると言ってみよう。
両班制度(注1)で分断され、解放前日本の植民地政策により「分断」され、解放後は南北に分断され、来日することが「密入国」になって分断され、朝鮮戦争で分断され、貧困や差別や抑圧により分断され、帰国船で分断された。そして族譜(注2)や「儒教」(注3)で分断された。映画の舞台となる集落(表現の歴史的正確さを問うなら「朝鮮部落」であると思われるが、映画の中でも監督の言葉中にも登場しないので、集落と表現する。梁石日は著作の中で「朝鮮長屋」と表現している)の重鎮的存在の男の息子(朝鮮学校の制服を着ている)が共和国へ帰ると言い出す。貧困と暴力と無知の集団に飽き飽きしている秀才である。父である男は少年にこう言う。
「もう家族がばらばらになることは止めよう」
主人公の青年(ヨシオ)は両親を済州島四・三事件(1948年)(注4)で失っている。
ここまで「分断」され続けた人々がいただろうか?
日本によるアジア侵略の象徴である、あるいは奴隷労働の象徴である兵器工場から10年以上も放置されている金属片を盗むことが彼らの生活の糧となる。そこには抑圧された人々のふてぶてしいエネルギーもある。そして若い人たちの「生」への思いもある。
その中でヨシオは、分断され抑圧され差別され全てを打ち棄てられた女性ハツコと出会う。このふたりの出会いは悲しい。彼女は全てを奪われ性労働に従事させられている。彼女の存在そのものが悲しく、残酷である。
くず鉄窃盗で知り合った詩人の妻の家に招かれ彼女の歌を聴いてヨシオが涙を流すシーンがある。ヨシオの溢れるような色々な思いが伝わってくるようだった。同胞に知識階層がいることを知った感動もあったろうが、優しさに触れた感動でもあったであろう。「優しさが貴重な時代」を背負わされた世代なのだ。
結局は警察権力により徹底的に破壊される。不法に住んでいる地域も完全に破壊される。その後に彼女ら彼らに残されたものは何か?何だったのか?
監督の金守珍(キムスジン)によれば「一世に限りなく近い二世、ボクらを育てた世代」の物語である、という。全ての植民地支配、全ての戦争に関わる歴史の中で問いただすべく核心であると位置づける。
明治から大正・昭和と辿った日本という国のカタチのひとつであることは間違いが無い。さらに高度成長を支えた人々であることも間違いが無い。
原作者の梁石日(ヤンソギル)は「在日の文化を誰が育てるか?」と問う。「在日」は朝鮮半島には存在せず、日本にも「存在しない」のかもしれない。「在日」の文化は「在日」以外残せない。そしてそれは紛れもなく日本という国のあるひとつのカタチでもあるのだ。
梁石日は夫寛(プーカングァン)の歌詞にある「夢破れて」に共感し妻にそのことを話すと彼の妻はこう言ったという。
「破れる前に夢などなかった」
映画は資金的な問題からキャスト・スタッフのすべてをオーディションで募集した。募集するときに「やりたいもの」(キャスト・スタッフ・なんでも)とあり希望ギャラを書く欄には「いくらでも」と印をつけるところもあったと言う。「なんでも・いくらでも」と記入した者が優先的に選ばれたという。
私はそのキャスト・スタッフ達に大きな敬意を払いたい。映画の持つ力を感じたからだ。
監督が新宿梁山泊のボスであるのでほんとうに力強い集団劇になっている。
2004年2月11日民団フェスティバルの上映会にて鑑賞。
2002年133分
監督 金守珍
原作 梁石日
脚本 丸山昇一
撮影 崔灯友
注1 両班(ヤンパン) 朝鮮の高麗や李氏朝鮮の時代に、官僚を出すことができた支配階層。後に血縁的身分として固定化され、特権階級として地主階層として民衆を支配した。
注2 族譜 元々は両班の血縁を証明する家族譜。あくまで父系血縁結合重視である。身分を証明するものでもあるし、族譜の関係で結婚できない場合もある。
注3 儒教 両班支配の根元となった。儒教の学識に基づく威信が国家官僚につながり権力を持った。また、男尊女卑の根源とも言われている。しかし本来の儒教思想は男尊女卑ではない。
注4 済州島四・三事件 1948年5月10日、米軍政下の南朝鮮(大韓民国建国以前であるためこう表記する)では大韓民国建国にむけた「単独選挙」が予定されていた。四・三事件はこの「単独選挙」に反対する武装蜂起として始まり、米軍と李承晩政権による軍と警察と右翼分子を使った鎮圧過程で3万人から5万人におよぶ犠牲者を出した。 「白色テロ」「赤色テロ」「左翼冒険主義」等々種々の見解が出されているが実態はまだまだ不明である。民衆が何万人も死んだ事実だけがある。この事件で日本に「密入国」した人々が少なくなかった。 歴史の闇に埋もれていたが2001年金大中政権が調査と死者の名誉回復を約束した。 (金石範著『火山島』参照)

