映画『山と谷と雲』
戦後映画製作を再開した日活のスターの一人が北原三枝であった。
松竹歌劇団に所属していたプロポーションまよさもあったが、今の言い方だと正しくアジアンクールビューティーという言葉が使えると思う。
私は北原三枝を知る前に「狂った果実」の女性を知った。あのバス停でのシーンの衝撃は他の追従を許さない。「出」での感嘆なら『山猫』のクラウディア・カルディーレがそうだが…
当時日活の女優陣としては北原の他に芦川いづみ、浅丘ルリ子、吉永小百合が第一線で続くのが笹森礼子、和泉雅子、清水まゆみ(マリ子)か…別格は中原早苗か…
ところが北原三枝が大スターだったというイメージを持っている人が少ないのは何故なのだろう?石原裕次郎の影に、文字通り影に隠れてしまったのか…
そんな疑問を払拭する意図など全く無いだろうが、阿佐ヶ谷のラピュタで「昭和の銀幕に輝くヒロイン『第72弾』」と称して彼女の特集上映が2月9日から始まった。(4月5日まで)個人的な目玉は『夏の嵐』『色ざんげ』『逆光線』。
プログラムピクチャーにはそれ特有の面白さがあるのだが、この作品のそれは金子信雄と石原裕次郎が兄弟という設定であることだ。普段(笑い)金子信雄は悪役で、それもいやらしい役が多い。だからやや戸惑ったが、戸惑いは他にもあり彼が北原と結婚するのだ。石原が二十代後半という設定なのだが、金子は何歳という設定なのだろう?
石原は珍しく山岳カメラマンという芸術家で、義姉である北原に密かな恋慕の情を寄せるメロドラマなのだ。日活が初期に製作していた文芸路線の一作だ。原作は壇一雄。
北原は石原が遭難した時に山に行くとき以外は着物を着ている。それも珍しいと思う。ストーリーは二人の密かな感情を軸に進展するが、あまり動きは無い。しかし退屈ではない。
石原が恋慕の情を断ち切るために兄夫婦の山荘の対岸に作った自分の山小屋に火をつけるところはびっくりした。放火、立派な重犯罪だからだ。
地元の人々との軋轢などステレオタイプで安直感が漂う。
北原の良さも、石原の良さも描ききれていない。
1959年
監督:牛原陽一、脚本:池田一朗