タルコフスキーについて | leraのブログ

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タルコフスキーについて

 「必ず眠ってしまう。目が覚めると魅かれる。眠っていた間のシーンを見たくなり再度見る。すると別の所で眠ってしまう。また見たくなる実に不思議な作品群」とは、友人評。言い得て妙。


 私のソビエト映画の印象というのは、暗いモノクローム画面で、アップになった俳優たちが抑揚の無いセリフを延々と呟く。そんな退屈な印象だった。タイトルとしては『石の花』が思い浮かぶが、これは無関係かもしれない。


 『僕の村は戦場だった』を観た時、ひょっとしたらその印象を形成したのはこの映画かもしれないと思った。この作品は高校生の時に観ていて退屈という印象しかなかった。しかし、今回はけして退屈ではなかった。あの意志の塊りのような少年はたいへんな存在感だった。


 それにしてもこの時代からモチーフは水と泥なので驚いた。その他の共通するモチーフとして子どもがあるが、この作品以外に今回初めて見た『ローラーとバイオリン』も大変印象に残る作品だった。


 子どもの描き方が全く違うのである。といってもいかにも子どもらしいのだ。『僕の…』の少年も実は子どもらしいとも言えるのと似ている。この子どもの描き方にタルコフスキーの才能を感じたのだ。


 『ローラー…』のテーマは格差だ。子どもにバイオリンを習わせる裕福な家庭と、工事労働者の青年。労働者の国ソビエトで、その裕福な家庭を批判する訳ではなく、工事労働者を英雄のごとく持ち上げたりもしない。


 その子どもと青年のほんの短い交流を描く。

 どちらにも期待と不安があり、その表現がなかなかいい。工事労働者の女性が映画館の前で靴を履きかえるシーンがある。なんとも複雑な思いで見た。けして労働の否定という訳ではないが、ソビエト(当時の)の中で、娯楽の占めていた位置が分るような気がした。


 『サクリファイス』は、ある戦争に対し家を焼くというサクリファイスすることにより救済をしようとする教授がメイン。プロローグの音楽はマタイ受難曲で画像は東方の三賢人、日本的な「植木」、子どもの存在、郵便屋の言葉、マリアの存在、実にプロットは多彩なのだがその結び付きは観客に託される。


 長回しず多用され、しかも家が湿地に建っているためアンゲロプロスを連想させる。

 ロングショットは常に美しく、犬まで演技しているように見える。


 ところが教授は病院の護送車に乗せられ、核を思わせる戦争は跡形もなく消え、彼のサクリファイスが成功したようにも見えるが、妄想だったようにも見える。


 『惑星ソラリス』は冗長さが味を出している稀有な作品。しかし、亡くなった妻の自己存在に対する悩みは底が深すぎてついていけないかもしれない。『砂の女』を連想した。


 『ストーカー』ゾーンと呼ばれる人が近づいてはいけない地域。それは厄災によってそうなったのだが、その理由は明らかにされない。チェルノブイリを連想させるがチェルノブイリは1986年でこの作品の製作は1979年である。ところが、娘が歩行困難だったり、沼地の向こうに見える廃工場群などチェルノブイリの暗喩に見える。


 ストーカーはその地への案内人、彼が案内するのは学者と作家でインテリ層を象徴しており、それはソビエト社会の暗喩に思える。彼らを「希望のかなう部屋」に案内するが、彼らが実はそれを希望していないことを知り、もう誰も案内しないと言う。それを不遇な結婚をしたと言われている妻が慰める。

 つまり本来なら抑圧された市民をリードすべき知識階層がその役を為さない。三人のセリフはほとんどモノローグの連続。


 美術がすごい。水と鉄と廃墟。


 ラストのベードーベンの9番はコーラスはないもののシラーの詩を連想させ「はらから」「分ちを解き」を示しているのかもしれない。


 『ノスタルジー』

 ローリー(レール)を使ったパンで、しかもそれが極めてゆっくりだし往復もある。当然長回しになり、とんでもない資金がかかっているのかと思う。トスカーナの温泉の湯を抜いたり、そこをローソクを持って何度も往復する。


 ラストでは家が実は廃墟の礼拝堂の中にあることがわかる。そのシーンもすごい。男優の憂いと迷いを湛えた存在感に圧倒される。エピローグはベートーベンの9番のコーラス付で、あれ?ストーカーと同じと思わせる。


 『鏡』難解といわれているタルコフスキーの作品の中でも「難解」と言われている作品。タルコフスキーの少年期がテーマだが、確かに難解。人物設定ですら把握できない。実は時代も大祖国戦争の映像から原爆投下、文化大革命と挿入される。


 モチーフを結びつけることに苦労する。


 ただシーンの作りは見事で、母が男性と農場の柵に腰かけるシーンや、少年が裸足で隣人を尋ねるシーンなど、とても魅かれる。