森雅之出演作品として、なかなか観る機械のなかった作品だが、NFC(東京国立近代美術館フィルムセンター)のアンコール上映会で観ることができた。アンコール上映というのは、昨年1年間に上映した作品の中で観客数の多かったものの再上映である。
作品紹介のスチール画像には森雅之が使われているし、出演者の筆頭者は森雅之になっているにもかからず、彼が主演ではないのだ。主演は伊藤久哉。
作品としてとりたてて評論するものではないが、街区の記録としてはオールロケーションなので貴重でもある。製作年度は1954年。
事務所は八重洲の鉄鋼ビルで、通勤風景として東京駅八重洲口、呉服橋交差点、鉄鋼ビル外観が写しだされる。鉄鋼ビル内部の飲食店やトイレなども実物と思われる。屋上から日本相互銀行が見えたりするが、日本相互銀行の向かいには東宝のクレイジーキャッツシリーズで多用された大和証券ビルである(現在はパソナグループ)。森雅之は中目黒で不動産業を営んでおり、呑みに行くのは五反田のキャバレーである。そのネオン煌めく大通りは、沖縄料理、泡盛の看板があったり、小さな医院がありその医院の二階の窓から入院患者が虚ろに下を眺めていたり、となかなかいいのだ。
女性を連れ込む旅館街は渋谷円山町(映画の中では「渋谷」としか言わない)だし、車で通るのは大崎の新興住宅地の高台であるが、これは実際の大崎かどうかは分らない。競馬場と競輪場は川崎とのことである。
逮捕されて入る代用監獄は大崎署であり、雨の護送シーンがある。おそらく、大崎署から東京地検。東京地検の門と建物の外観も少し出てくるのだが、現在のレンガ棟ではない。粗末な建物である。現在の合同庁舎の場所に旧館としてあったものかもしれない。
映画としては、その飄々とした刹那的な冷たさで行われる犯罪は虚無感を漂わせる。
家に在る森雅之写真集(映画読本 森雅之 フィルムアート社)の説明にはこうあった。
「外面は平凡なサラリーマンだが、借金は踏み倒し、狙った女は次々とモノにする悪い奴。これこそ森雅之で愉しみたいのに、演ずるのは新人伊藤久哉」
これでなかなか観られなかった理由がわかった気がした。
54年東映東京
監督:千葉泰樹
原作:石川達三
脚本:猪俣勝人
撮影:西川庄衛
美術:田辺達
出演:森雅之、久我美子、伊藤久哉、杉葉子他