自動車の営業マンになって早1年目の春を迎えようとしていた。
車の製造では食券を1か月分ぐらいまとめて買い、いつも決まった時間に食事をしていたが、営業職では自由になる。
私が、S自動車直営の販売店にいた頃の話である。外出先から戻ると事務所には、誰もいなかった、いつも事務員の女性が3人応接室で食事をとっているのだが、今日は外食に出たのだろう。
私は、いつもより早い食事をとってきたので「さて、何をしようか」と
思っていると心地よい風を体に感じたのでどこかの窓が少しあいているようだ、来客用のテーブルと椅子を見ると明らかに春の光がさしておりその光にひときわ輝く色を見てすぐ横の窓だと気づいた。
私は社員用の椅子に腰掛けて暫らくじっとしていたのだが、どうも落ち着かなく誰もいないのも幸いして両足を机の上に上げてうとうとと眠っていた。人のけはいがすれば両足は元に戻せばいいと思っていた。
突然「入社1年目でこのざまは何だ」という声がしたと同時に足を片手でたたくように掃われたかと思うと背広姿の大きな男が立っていた。
会社の関係者でなく車を買いにきた客でもなく部外者であるこの男に、私は不意をつかれたのと腰をかけていた椅子からずれ落ちそうになるのを必死にこらえながら、やっとでた言葉は「あんた誰」だった。
言葉がいい終わるか終わらないうちに「パシッ」という音がして頬を叩かれた。叩かれたと思うとともに今度は右手がくるのを予感し反射的に左手でよける態勢に入った。
相手の行動はスロウな動きに見えた。このへんは45秒で車を作るライン作業の仕事をやった経験の賜物である。
つづく![]()