東北芸術工科大学で教鞭を取っていた前田哲監督。


今回の映画「こんな夜更けにバナナかよ」は、久しぶりの前田監督らしい作品である。


YMF山形国際ムービーフェスティバルでも、過去3年に渡り、市民大学や市民ワークショップを開催した際にお力をお借りした。


「ブタのいた教室」や「ドルフィンブルー」を上映し、市民大学では映画製作の解説や、YMFでは松山ケンイチさんと舞台挨拶をしていただいた。



そんな前田監督の作品は、ほのぼのとしたテイストの中に、現代社会が抱える課題や問題があり、それらとどう向き合っていくかを描いている。



幼い頃から筋ジストロフィーという難病を抱える大泉洋演じる鹿野靖明34歳。

体で動かせるのが首と手だけで、24時間365日、誰かの助けを借りないと生きていけない。

しかし、彼は、病院でのケアを拒否し、大勢のボランティアの方々(ボラと言う)と一緒に自立生活を送っている。

「生きていくには、迷惑を周りにかける」
「ずうずうしく、お願いしまくる」

…「障害ってそんなに偉いの?ほんとサイテー!」と、新人ボラの高畑充希演じる安堂美咲から言われてしまう。

しかし、鹿野は、「自分は、頼まないと生きていけない!」と、「本音を語らないと生きていけない自分」「明日はどうなるかわからないから、今やりたいことをやる自分」を伝える。

美咲は、葛藤の末に、次第に鹿野を理解し、鹿野の理解者となっていく。



その葛藤を受容したボランティアの人達が、本当の家族のように、進行する難病の絶望感へ立ち向かうのである。



これは「闘病日記」ではないと、前田監督は話す。

鹿野の生きたいという生命力と、それを受け入れ支えるボランティアの「最強の家族」の物語。



実話であり、鹿野さんの地元でもある札幌市での撮影。
実際の鹿野さんの部屋が、たまたま空室になり、そこで撮影ができたそうだ。



人は一人では生きていけない。
多くの人へ迷惑をかけながら生きていく。

切実なほど、距離が近いほど、「要求」が強く多い。

それを、どう受け入れ、どんな距離感を保って繋がっていけるのか…。
個々人の選択なのだろう。

ボランティアを辞める人も、最期まで鹿野さんを見届けた人も、それぞれに物語はある。

そんな人間模様を、大泉洋さんが演じは鹿野靖明さんは、解っていたように感じる。


是非、観て欲しい一作である。

ムービーオンで上映中。