ヨーゼフ・メンゲルと言う人物にスクリーン上で出会ったのがまだ学生の頃、テレビでの「洋画劇場」でした。テレビで観たのは「ブラジルから来た少年」。この作品でヨーゼフ・メンゲレは「悪魔の天才医師」「死の天使」として名優グレゴリー・ペックが演じてました。良心的なアメリカ国民を演じ続けてきた彼にしては珍しい作品です。そして彼を追うナチ・ハンターのリーバーマン(多分モデルはかの有名なサイモン・ヴィーゼンタールだと思う)をこれまた名優の中の名優ローレンス・オリビエが演じます。この2大俳優の激突を「猿の惑星」「パットン大戦車軍団」「パピヨン」の名匠フランクリン・J・シャフナー監督がメガホンを撮りました。面白くないわけがない。なのに公開は1978年、当時16歳。見果てぬ夢の甲子園を目指してグランドで汗と涙を流していた時期とはいえそんなに宣伝や話題で賑わっていたと言う覚えもない。数年経ってからの「洋画劇場」を観て衝撃を覚えたのを思い出します。内容はヒトラーのクローンを作ろうとしたメンゲレをリーバーマンが追うと言う、サスペンスと言うよりSF映画として描かれていたもんね。今じゃクローンなんて夢と言うほどでもなくなってます。現に羊のクローンはできました。SFの世界ではなくなってます。メンゲレと言う実在した悪魔のような天才医師を登場させた荒唐無稽な物語でしたがこの作品の公開から48年と言う時を経て、今度は「死の天使」と言われた男がナチス・ドイツ崩壊後、どんな人生を歩んだか、彼の真の姿を追った作品が公開されました。それが本作「死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ」です。物語は戦後、彼が逃亡する主に南米での生活を圧倒するようなモノクロ映像で描きます。そして時々、差し込まれるナチス時代のアウシュビッツでの彼の人体実験の日々、これが彼にとって最良の日々やったんでしょうね。この部分だけをカラーで描くのですが、これがえげつない。モノクロとカラー、普通は逆でしょ。しかし南米で逃亡生活をつづける、彼の半生はまさに色彩のないモノクロに沈んだ人生やったんやろなと思います。
1945年ナチス・ドイツ敗戦後、アウシュビッツ収容所で「死の天使」と恐れられた科学者ヨーゼフ・メンゲレは数年間、国内で潜伏した後、1949年南米アルゼンチン・ブエノスアイレスにいた。妻イレーネは逃亡生活に耐えきれず離婚したが反米を掲げるアルゼンチン大統領ペロン大統領の庇護の元、メンゲレはナチス・ドイツの高官たちと共に比較的自由な生活を送ることができた。だが1954年クーデターによりペロン政権が崩壊すると密かに一時ドイツへ帰国。資産家の父から逃亡資金の支援を取り次いだ。ブエノスアイレスへ戻った彼は父の勧めで死んだ弟カールの未亡人マルタと再婚。だが世界中にネットワークを広げるナチ・ハンターたちの執拗な追跡にブエノスアイレスを逃れパラグアイへ...。1960年ブエノスアイレスで「ユダヤ人問題に対する最終的解決(ホロコースト)」の責任者として指名手配されていたアドルフ・アイヒマンを逮捕...の報が入るとマルタと別れブラジルへ逃亡した。ブラジル・サンパウロの郊外で地元の家族と農場を共同経営し偽名で暮らしていたが捜索の手が伸びると農場を出てサンパウロ郊外の街で独り暮らしを始める。年老いた彼を一人の青年が訪ねてきた。別れたイレーネとの間にできた息子ロルフだ。ロルフは父に問いかける...「父さん、アウシュビッツで何があったんだ?」メンゲルは頑なに阻んでいたが遂に重い口を開く...。
ヨーゼフ・メンゲレが死亡したのは1979年。と言うことは1978年に公開された「ブラジルからきた少年」は知ってるんですよね。観たかもしれない、それは作品でも描かれてました。南米へ逃れ、裕福な悪魔の科学者として描かれているのを観てたとしたらその心中は察して余りあります。しかもヒトラーのクローンを作ろうなどといまだに狂信的な信仰に近いものを持っていると描かれています。しかし彼の真実の姿は怯えて怯えて怯え続けて哀れに死んでいく老人でした。双子に異様な興味を示し、幼子どうしを手術によって結合させる、黒い瞳に青い溶液を注射し瞳の色を変える、麻酔を使わず生きたままの人体解剖、などと言う狂った研究を続ける悪魔のような科学者...作品ではユダヤ人の障害者を無残に殺害し、まさに屠殺し牛や豚を解体するように人体を破壊するシーンをこの部分だけカラーで描きます。見るに堪えないシーンが描かれます。まさに戦争は異常。人を狂わせます。狂った指導者は狂った世界を創り上げます。ナチス・ドイツが蹂躙した当時のヨーロッパはまさに地獄絵図だったでしょう。確かにメンゲレは司法から逃げ切りましたが大戦以降の逃亡生活は疲れ、恐怖に怯える人生の半分は死よりも過酷だったかもしれません。ヨーゼフ・メンゲレは死後、彼だと言うことがDNA検査で分かりました。正式に認定されたのは1990年代です。死後、墓が暴かれ人骨は大学の研究で標本とされたと言うのはあまりにも皮肉です。
しかしね、やはり戦争はやはり負けたらあきません。ドイツがアウシュビッツの人体実験を暴かれたのに対し、我が国、日本ではハルピンの731部隊がとやかく言われます。ドイツ、日本...いずれも敗戦国です。あまりにも無残な人体実験は当然批判されるべきです。けどこういう事が医学の発展になっている事もまた事実。ドイツは医療の最先端を行っており、また日本も然り。人体実験を肯定するつもりは毛頭ありませんがアメリカは?ソ連は?ほんとに何もやってない?歴史は勝者が作ります。戦後、東西の二大国はドイツの科学者たちをこぞって亡命させてますよね。その中に人体実験を行った科学者はいませんか?これはあくまでも私の想像ですが...。実際、中国は21世紀になった現代でも人体実験を行っています。ウイグル人女性に対する避妊手術、臓器移植の売買...やっていることはナチス・ドイツと変わりません。
「ブラジルから来た少年」はアメリカの作家アラン・レヴィンが1976年に発表した原作です。「ローズマリーの赤ちゃん」なんてぞっとするような作品を書いた作家さんです。ヨーゼフ・メンゲレが悪魔的天才科学者だったと言うことから発想を得た作品でしようね。興味のある方はこっちの方もNetflixかなんかで観てくださいね、WBCのために契約したついでに。そういう陰謀論的なお話しが好きな方にはぜひお奨めです。先週の「ブゴニア」よりはずっと面白い「陰謀論」作品です。



