梅雨がはじまり

夜じゅうざーざーよく降って

気の滅入る部屋で

お酒いっぱい、もういっぱい、と、

飲んで、

それで、失う

精神を失う

何かぼんやりとして、

壁をながめて

あなたがいないことを

かなしく思う

雨はざーざーやかましく

まったく

こんな夜が

冗談だったら、

どんなによかったろう

と、

思う

あなたの、

声がききたい

と、

思う



死者の国はさぞ賑やかだろう

きっとその国では

痛くもないし苦しくもなく

いちばんよい頃に捥ぎ取られた果実のように

みな青々とさっぱりとしている

忌野清志郎もピンピンとしている

桂枝雀も

中島らもも

あなたの崇拝している池田晶子も

ピンピンとしている

そうして、あなたもやはりピンピンとしていて

そうだ、志ん生の落語なんぞ聴きに行っている

聴くあなたも、もう痛くもなし、苦しくもなし

笑っている笑っている

ただ、もう、如何様にも自由に

如何様にも自由に

如何様にも自由に

痛くもなく

苦しくもなく

そうだ、あなたの、国は、そうだ、そうだ

何もかも叶うのだ

死者の国はさぞ、賑やかだろう

楽しいことばかりで、忙しいだろう


 


汚い部屋である


散らかった部屋である


始末をしようと思いもするが 


思うだけ


立位から胡座位となり


やがて横臥位となる


横臥したまま


安酒を啜り


ぼんやり眺める


部屋


一面の、僕の絵画


絵画のこと


よいように思う日もある


自信なく 


まずく思う日もある 


気持ちは行ったり来たりというわけで


よく思おうが


まずく思おうが 


僕の絵画は 


僕の絵画の顔である


ひとが絵画に己をみるのであれば


自分もまた御多分に洩れずというわけだ


しかし


そんなことを思うてみたところで


そんなことは 


何でもよいような気持ちでもある


一面の絵画


横になる


一面の絵画



レクサスの霊柩車が走っているのをみた

僕が死んでもレクサスはごめんだな

昔兄貴がレンタカー落ちのオンボロの軽自動車に乗っていて

エアコンは壊れてる 窓の開閉もむつかしい

まー、とかくオンボロの車であって

走るのもぎこちないのだがそれが随分愉快だった!

ガタガタ走る車に乗って2人で魚釣りに行って

お互い釣るつもりもないからぼんやり海を眺めて

ぷかりぷかりとタバコを喫んでさ

あーあのオンボロの車!

あれに乗せて運んで欲しいな

だってさオンボロに生きてきたんだから

棺は要らないけど、パジャマを着せてね

助手席に寝かせて運んで欲しいな

まるで海を見に行くみたいにさ


兄が高校生の頃、ホームセンターで随分傷んだサボテンの鉢植えを買ってきたことがある。可哀想に思ったそうだ。

せっせと世話をしてサボテンは見事に蘇った。


その後、県外の大学へ通うこととなった兄はサボテンを大切に包んで持って行き、帰省の際にはやはり大切に包んで持って帰り、まめまめしく世話をした。


ようよう日光に当てたらんといけんのんよ、と言って、昼間は縁側のよく日の当たる場所に出していたのだが、ある日そのサボテンがなくなっていた。


盗まれたんじゃ‥修司、車乗れぇ‥まだ犯人が近くにおるじゃろぅ、探し行くで許さんけぇのぅ‥、と怒りで青ざめながら言った。

私は車に乗せられ、怪しい人物を探す係を務める羽目になった。町内を走ったが怪しい影はない。

仕方なしに家に帰ると、部屋にちゃんとサボテンがある。

何のことはない、雨が降りそうということで母が取り込んでいただけのことであった。

兄は振り上げた拳を下ろすあてなく憮然としていた。


普段温厚な兄があれほど怒ったのを見たことがない。

なんだか笑ってしまう、可笑しい思い出。




魚は真面目な顔をしている

笑っている魚の顔をみたこともないし

困っている魚の顔をみたこともない

真面目な顔をして泳いでいる

食卓に並んだときにも

真面目な顔をしている

うまいうまいと食べて、秋

自分の残酷を

苦しく思うことがある


何か立派なことをいってみたく


あなたを元気づけるような


勇気づけるような


そんな言葉を使ってみたく


しかしなにも思いつかないので


仕方がないので


黙っている


貝のようか


貝のようさ


うっとりと


陶酔するような


キンモクセイのような


香りのような


幻のような


煙のような


そんなことを


いってみたく


縦になり


横になり 


缶チューハイをあけてみて


檸檬のかおりが出現する


さわやかなそれは


暗い部屋を一瞬明るくする


トパアズいろの香気が立つ


と高村光太郎はうたった


それはそうと


八木重吉が夭逝したのち


その美しい詩を世に出すために


高村光太郎は奔走したんだそうな


ふたりとも立派な方だ


こともなく


立派なことをいうだろう



思考はめぐり


幻の檸檬畑


そんなものを


あじわいながら


伸びたり縮んだり


している



曇天の

秋の日

古いコインパーキングの片隅で

タカラ缶チューハイを啜りながら

ハラハラとしている


ある朝 僕は 空の 中に、
黒い 旗が はためくを 見た。


と中也はうたった


中也は立派な詩人である

偉大な詩人である









酔って、

ぼーとして、

手を見て

絵を描いて、

みて、

生活のふりして、

まじめな顔して

歩いて

寝る



生活、

というのはすさまじいものだと思う

夜に目を瞑り、朝に目を開ける

目を開けたのち顔を洗う、洗った顔をあげると鏡面から40のおじさんが、こちらを見ているものだからギョっとする

働く食べる寝そべる、芸術家を気取って絵なんて描いてみる

一丁前に深刻な顔、!

しかしまぁ、僕のどこに深刻があるか、

とも、思う

安酒を飲む、忘れる、目を瞑り、朝に目を開ける

薬罐いっぱいの湯を沸かし

薬罐いっぱいの麦茶をつくる

ままならぬ世の

ままならぬことで


顔を洗う、顔をあげる、