歴史的にみると、この三環系抗うつ剤が認可されたころには、うつ病というのは、中年から老人に発病するうつ病でした。この頃のうつ病の定義は、全く動けない位の症状を指していたのです。こうした症状には三環系抗うつ剤は、劇的に効いたようです。

SSRIの発売と前後して、このうつ病の定義が拡大解釈されはじめ、ついには、かつてはノイローゼと言われていた神経性のうつ症状まで、うつ病とされたのです。

SSRI以前の抗うつ剤は、現在、うつ病とされているうつ病とは定義が違うのです。

うつという適用名があるということだけで、そのうつの中身を考慮せず三環系抗うつ剤を投与しているということです。

さらに、パキシルなどのSSRIの大うつ病(これがかつてのうつの定義に近い)への効果は、治験でも、プラシボで50%に対して60%の効果しかありません。さらに、予後もプラシボ群のほうがずっと良いという報告も出ています。
大うつ病に対してパキシル効果がある人は、10人に1人ということです。
(海外では、この治験のやり方に対しても疑問が呈されています。)
これは、発売元の製薬会社のデータです。つまり、製薬会社は、この程度の薬にたいして、うつ病受診の大キャンペーンをして被害を拡大させているのです。

それでも、実際に薬を処方するのは医師です。
医師には、薬の説明書きにある10人に1人しか効果がないということを前提に、患者に向き合う必要があります。麻薬指定のモルヒネでも医師は処方できるのですから。

患者が求めるから処方してしまうとの言い訳が聞こえてきますが、それは違います。
「10人に1人しか効果がないけれど、使いますか?」
同じように、ベンゾに対しては、
「依存してやめられなくなったり、酷い離脱症状が出ることがあるが、使いますか?」
と答えるのが正しい。
(まあ、そうなら、だれも精神科に行かなくなるなるが。それが正しい。)

ここまでは、日本だけじゃなく世界共通の問題です。

ここからは、日本独自の問題。
多剤併用の話です。

百歩譲って、抗うつ剤が効果があるとしましょう。

薬物療法の基本は、除外診断です。
ある薬を使って効果がなければ、別の薬を使う。
この繰り返しで、病気の原因を突き止めていくのが本筋です。
(病気が治らず、転々と病院を代わり、除外診断の結果、本来の病気の原因に辿りつくことを指して、’最後の医師が名医’なんて言葉もありますね。)

精神医療の現場では、最初から、複数の薬を処方するという医師が少なからずいるのです。

ベンゾと抗うつ剤のセット。
抗うつ剤とジプレキサのセット。

作用機序の違う薬を最初から出すから、何が効いたかわからない。
効かないだけなら良いが、何が合わないのかもわからない。
ジプレキサにもうつ適応はあるが、作用機序は全く逆なので、副作用は倍増する。

モノアミン仮説を信じるのなら、こんな処方はできない。
薬の効能書きの’うつ適応だけ’信じて、出してみているだけだろう。

ベンゾの離脱も含め、副作用を認めないから、ここから迷走が始まる。

自殺念慮が出たから、リスパダールを出す。
ベンゾが効かなくなったからベゲタミンを出す。
心配だから抗パ剤をだす。
もうこうなると、何が病気で何が副作用だか、大混乱である。

CYPの代謝阻害を考慮しないから、パキシルやルボックスに変えると副作用は激増である。

セカンドの笠医師が、児戯に等しいと嘆いたが、そのまんまである。