3.中毒死に至るまで




中毒死に至るまでの経緯を説明します。




第1段階:精神科受診のきっかけ


 


以下は、ここ数年の間に、精神医療受診への国民の敷居を下げ、受診率の向上に寄与した主なキャンペーンです。




・鬱は心の風邪キャンペーン(製薬会社のキャンペーン)


・気分が3週間落ち込んだら病院へキャンペーン(製薬会社のキャンペーン)


・うつ病自己診断チェックシート


・眠れないお父さんは、病院へキャンペーン(内閣府)


・自殺対策、精神科早期受診キャンペーン(厚生労働省)


・企業の産業医から精神科へ


・学校から精神科へ(ADHD、発達障害)




キャンペーン趣旨そのものに問題があるわけではありません。しかし、それはその受け皿たる精神医療にそれを受け止めるだけの資質が備わっていればという前提が必要です。




これらのキャンペーンは成功し、精神科受診へのハードルが下げられました。


結果、今までは、病院にかからなかった軽症のうつや不眠の人々が、精神科を受診することになりました。




昨年(平成21年度)の内閣府の自殺対策白書には次の記述があります。




(自殺者の52%の人が、自殺の直前まで精神科を受診していたという事実は、)


従来から指摘されている、「自殺既遂者の9割以上がその直前には何らかの精神障害に罹患した状態にありながら、精神科治療につながっているのは少数である」という知見と、矛盾する。




さらに


死亡前1年以内に精神科受診をしていた自殺既遂者には、次のような特徴があることが明らかにされた。すなわち、比較的若年の成人が多く、うつ病などの気分障害だけでなく、統合失調症への罹患が推測される者も少なくなく、比較的継続的な治療関係を持っていたが、最期の行動には治療薬の過量摂取の影響が疑われたのである。これらのことは、2030代の若年成人に的を絞った自殺予防対策は、中高年のそれとは異なるものである可能性があるとともに、単に精神科治療につなげるだけでなく、精神科治療の質の向上が必要である可能性を示唆している。


    


つまり、もう十分に精神科受診キャンペーンは成功していると言う事です。




留意頂きたいのは、軽症の不眠、軽症のうつの患者が、数多く精神科を受診しているということです。




2段階:薬物治療偏重、過剰診断


 


 精神科を訪れた患者には、殆ど例外なく、最初から薬物治療が開始されます。


 


 これが、のちの被害を招く、最初の誤りです。(資料3)




軽い不眠、気分の落ち込みを訴え精神科へ行くと、取りあえずといった感じで、薬が処方されます。第一選択肢として出される薬は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬、抗不安薬です。近年では他科でも処方されるようになりました。


安易に処方するのは、「依存性の少ない安全な薬」として誤認識されているからです。




欧米では、ベンゾジアゼピン系の薬は、殆ど処方されません。80年代にその依存性・離脱症状の酷さが問題となったのがその理由です。


これらの睡眠薬や抗不安薬は、数週間から2、3カ月で耐性が形成され効果が無くなり、


処方薬による常用量依存が形成されるというのが、国際的な合意です。




また、英国では、軽、中程度のうつ状態に対しては、薬物治療そのものを否定しています。(英国は、自殺対策先進国、人口当たりの自殺者は日本の3分の1)




厚生労働省は、今年、自殺・うつ病対策PTを立ち上げました。そのPTが、99日に発表したのが「過量服薬への取組」というレポートです。その参考資料に、英国、米国の診療ガイドラインが紹介されています。




英国立医療技術評価機構(NICE)、米国精神医学会(APA)が作成している診療ガイドラインでは、


・軽症の場合には認知行動療法などの精神療法を薬物治療に優先して実施する方が有効であること、


・依存性の高い薬物(睡眠薬、抗不安薬等)については長期に使用しないこと、


・プライマリーケアでは、抗うつ剤の併用療法は行わないこと


などとされている。


 そもそも、薬物治療を必要としない患者が、薬物治療を受けるとどうなるでしょう?


薬の副作用で医原性の精神疾患になります。精神科処方薬の副作用には、精神症状が含まれています。




 ここが運命の分かれ目です。


 覚せい剤の依存者が、なかなか薬をやめられないように、一度依存すると、それをやめるのは容易ではありません。




 覚せい剤であれば、乱用防止の最大の手段は、覚せい剤を使わないことです。




 うつ病早期受診キャンペーンで、精神科クリニックに訪れた、薬物治療の対象でない患者が、薬の副作用や薬物依存の危険にさらされていると言う事です。


 


 それも、その危険性を伝えられないまま、いきなり、依存性の高い睡眠薬や、抗不安薬が投与されているのが実態です。