あの娘の嫁ぎ先から、巨峰が届いた。
息子さんが、あの娘を好きで好きでしょうが無いとの話を聞き、嫁がせることにした。
いつも、レッスンが終わっても、いつまでも残ってあの娘を触っていたという。
いつまでも、僕のところに居て、くすぶっていても、あの娘の為にもならない。
それより、大事にしてくれるその息子さんにあげたほうが、あの娘は幸せだろう。
あの娘とはピアノのことです。
(隠し子とか若い愛人ではないぞ。そう思った方...殺す(笑)。)
そのピアノは、西麻布男前店の前身、西麻布美女店の女子から譲り受けたもの。
自分で店でもやる時に使おうと、倉庫に保管してあった。
大事にされてとても綺麗なピアノ。
倉庫代もバカにならなくなって、手放すことにしたのだ。
会社のアルバイトの女の子が、ピアノの先生をやっていて、彼女にピアノが欲しい生徒さん居ないか聞いてもらった。
小学校6年生の男の子。ピアノが大好きで大好きで、家には、鍵盤の足りないキーボードしかなくて、音楽教室のレッスンのあと、いつも居残っていつまでもピアノを触っているような子だという。
ピアノを上げることがきまると、そのピアノ教室の代表の女性から、手紙とハンカチを頂いた。
手紙には、その子が如何にピアノが好きかということと、お礼の言葉を頂いた。
そこで一つの疑問。何故に先生から???親からではないのか??
アルバイトの子にそれを聞いてみると、そうなんです。
親御さんはボーっとしてるんです。と答えが返ってきた。
送り先の住所を記入しているとき、受取人の名前を子供の名前で送った。
その意味は、あんた達に送ったんじゃないよ。子供に送ったのだよと意味を込めて。
すると、親御さんから、高級梨が送られてきた。
よしよし、少しは感謝してもらえたなと満足する。
で、しばらくして、昨日。今度は巨峰が送られて来た。
お礼を2度に分けて送ってくるのも変だね。とアルバイト女子に聞いたら、
実際に来たピアノを見て、ものの良さに今更気付いたのだろうと言っていた。
どうやら、ボケボケだが、いい人達ではあるらしい。
ピアノをその子にあげたのは、べつに見ず知らずのその子の為ではない。
僕的には、ピアノの為なのだ。
世の中の楽器の中で、一番好きなのは、断然ピアノ。
そのピアノには、前の持ち主の愛情が確実に篭っている。
弾かない僕より、常に弾いてもらえる好きなひとにあげることが、僕のピアノへの愛情。
とても、良いところに嫁いだようだ。