幸せの記憶 Remembrance
作 ダニエル・スティール 訳 天馬龍行
アカデミー出版


意識が戻って、集中治療室に居たとき、あまりの暇さ加減に悲鳴をあげた。

担当の看護士さんにお願いして本を持ってきてもらった。


そして持ってきたのが、この本。

折角持ってきてもらった看護士さんには悪いが、この本は入院中の患者が読む本ではありません。


辛い。あまりにも辛い。


もちろん小説の中の架空の人物なのだが、僕は思いっきり入れ込んで読めた。

なんと厚い3巻を1日半で読みきった。


この小説の登場人物達は、物語を通して一貫して変わらない。

最初に性格付けられたままの言動を繰り返す。

善良なものは、何処までも善良で、嫌味なものはどこまでも嫌味なのだ。

そうした意味では期待を裏切らない。

彼らは変わらないが、彼らを取り巻く運命が大きく変転する。


主人公は落ちぶれた身寄りの無いイタリアの元王女様。

舞台は第二次世界大戦の直後。

アメリカの軍人との恋愛模様が繰り広げられる。

その軍人は良家の出身で、家柄を重んじる嫌味な母親とか、綺麗なだけで鼻持ちなら無い元カノとか、お決まりの悪役達の意地悪をうける。

そして、苦労の末、幸せを掴む。

前半は、シンデレラとスカーレットオハラを足して2で割ったような感じ。


やっと幸せを掴んだとところで、物語はやっと半分。

僕は、後半部分の厚さにいやーな感じがした。


そこからの運命の過酷さは、想像を絶していた。

さらに物語は、3分の1を残して、主人公が突然居なくなってしまう。


「幸せの記憶」という題名の記憶の持ち主は、主人公の娘だ。

主人公の死により、娘は幸せの記憶の半分を失う。

最後の3分の1は、母親の死を乗り越えて、残り半分の幸せの記憶を取り戻す物語だ。


僕は、人生を10に分けたなら、1の幸せな生活のために残り9の生活があると思っている。

主人公は、苦労して掴んだ幸せが終わり、また次の幸せを掴む為の苦闘をはじめる。

次に掴んだ幸せは、ほんの一瞬だ。

そして苦労と幸せのバランスの取れぬところでサドンデス。


浮かばれないのだ。

苦労が報われない。


この読書後のイヤーな感じは、このアンバランスのせいだ。

最後は、主人公の娘が、母の死を乗り越えて逞しく生きるという終わり方なのだが、全く持って不愉快だ。


このやな感じは、そう、あのビョークの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を見終わったときのあの感じ。

運命が不平等で、過酷なことは、もう十分知っている。

物語くらいハッピーエンドにしてくれ。


それに比べてやっぱり水戸黄門はよいなー。