亡妻はとある俳句結社の幹部を中心に数人の友人と指導を受けていた。
彼女がすでに発表した句や推敲のための句帳を整理していると、どの句をとっても
彼女がいつ、どこで、何を見た、聞いた、触れた、香をかいだ、そして何をどう感じたのか、
まさしく彼女が生きた時間の記録そのものである。
学生時代、銀行時代、英語のサークル、絵画教室、体操教室、そしてなんといっても花好きの彼女にとって
「草女の会」は特別であった。これは東大の植物学の講師が毎月貸し切りバスで女性を全国の
珍しい植物、樹木などの植生地へ案内するというもので、彼女は実に熱心に参加していた。
これらの活動は私とは別の彼女だけの時間であった。
これほどに幅ひろい活動ゆえに、詠んだ俳句も多岐にわたるが、それらの地を訪ねてみようと思いたった。
それは彼女の時間に私の時間を重ねることであり、彼女のさまざまな体験や感動を追体験して彼女の生きた時間を甦らせたかった。彼女を偲ぶ想いに胸がつぶされそうな日々にあって、私自身がこれからをどう生きるのか、なんのあてもないまま
ともかく旅に出てみようと思った。
「君偲ぶ旅」の最初に選んだのは信州の「野尻湖」であった。