前回、少年の日の思い出をエーミール目線で読んでみました。
今回は、主人公の方を見てみます。
普通は主人公目線で読むものなのかもしれないですけど、わたしはどうしても少年の心理が理解できなくて(したくもなくて)、感情移入が難しいなぁと感じたんです。
感情移入というと、少年の立場になって読むってことかと思うんですが、同級生の宝物を勝手に盗んで故意ではないとはいえ結果的に壊してしまったことを庇うつもりはありません。
「気持ちわかるなぁ~」という経験は、わたしにはないので。
そこまで魔が差すほど欲しいと思うものって無いから。
先日、ローラースケートが欲しかった話を書きましたが、玄関先に置かれた友人の靴をちょっとの間だけだからと無断で履いてみたなんてこともありません。そういう発想はない。
過去記事⇒ローラースケートが教えてくれたこと
「うわー、ローラースケートだぁ。いいなぁ、欲しいなぁ」と、それを見て思う事はもちろんあったとしてもね。
又吉さんは、その魔が差してる状態の少年を【完全に魔法にかかってる】と表現していましたが、優しいなぁと思いました。魔力に魅了された状態ってことね。
このくだりを読んでいたら、思い出した物語がありました。
ビブリア古書堂の事件手帖2の第三章『足塚不二夫 UTOPIA 最後の世界大戦』です。
足塚不二夫は、藤子不二雄のデビュー当時のペンネーム。
昭和28年の作品だそうです。
幻のマンガです。
これが復刻版らしいです。
初版本は数百万で取引されるくらいの作品みたいですね。
子どもの頃から熱心な藤子不二雄の大ファンだった亡くなった父のコレクションであるこの作品を、息子がビブリア古書堂に持ち込むところから話は始まります。
1980年代、古書専門店にこの幻のマンガが出品されました。
どうしても一目見たいと、彼は東京まで出かけていきました。
しかし、何者かにマンガは盗まれてしまい見ることが叶わなかったと、がっかりした様子でその後もずっと落ち込んだような状態でした。
数週間後、彼は手放してもいいコレクションを数冊売って、そのお金で食事をしてドライブにでも行こうと息子に声を掛けます。
押し入れに仕舞われた段ボール箱に本を詰め、古書堂に持ち込んだのですが、途中血相を変えて本を査定する途中で家に帰ります。
ネタバレになるのでここらへんであらすじは書かずに置きますが、マニアの心理と言うものが共通しているなーという物語です。
エーミールの大事なクジャクヤママユを、万一首尾よく手に入れたとしても、その後にこっそりと自室で見るたびに恍惚な気持ちになんてなれないと思います。
物はただの物だなんて、割り切れるものではないはずです。
マニアが喉から手が出るくらい欲しいのは、それが高価だからとか希少だからというだけではないと思うんです。
希少な蝶は他にもいくらでもいるでしょう。でも、少年にとってはクジャクヤママユは特別な何かだったんでしょう。
だからこそ、その魔力に抗えず魔が差したと。
しかし、正気に戻れて良かったよね。
エーミールにその後軽蔑されたって、自分自身も自己嫌悪にさいなまれても、盗んだままずっと隠していたよりずっといいよ。