奇跡の資産
男子優先の傾向が今でもかなり強い日本ですら、大学に進学する女性は多いです。アメリカ人の自分の母は女性だったという理由で、進学ができなかったことが信じがたいのですが、50年代のアメリカはそうでした。当時、多くのアメリカ人の考え方は、女性が高校を卒業したら結婚するもの、でした。私の祖父も、母の大学への進学を許さなかったそうです。かわりに、自分の人脈を通じて、母が関心を持った微生物学を追求できる病院の仕事を確保しました。それから、しばらく後に、祖父が予想したように、僕の母は結婚しました。しかし、その6年後に長男が生まれるまで、働き続けたそうです。おもな目的は、子育て用の資金を貯めることでしたが、その仕事の一番の魅力は、母が関心を持つ微生物学について学ぶことができたことだったそうです。
私は、以前、母と「進学が拒否されたこと」について話したことがあります。彼女が結婚を選び、数年後に子供を産み、家庭を作るために、キャリアを犠牲にした決断について、何も後悔がないことは分かっています。しかし、こんなに教育を重要視している母だから、4人の子供が大学に進学することは、生まれた日から決まっていました。正確にいうと、その前から決まっていたことだと思います(笑)。また、そのなかのうち、最低、一人が医師になることが、母の最大の希望でした。
僕は、その母の希望を尊重する一方、僕と違って、あまり勉強が好きじゃない二人の兄が毎日、母から勉強しなさいという圧力を受けたため、可哀そうだと思っていました。二人の兄に比べると、僕は勉強が好きだったので、何の圧力を感じていませんでした。大学院生になったときまで。
大学の時に、経済・経営学を専攻しました。日本と違い、アメリカでは、医師になるために、まず大学を卒業してから、大学院に進学する制度となっています。医学部の進学に必須となる化学、有機化学、生物学、物理学の授業を受ける限り、大学学部の専攻はどれでも良いのです。当時、医師になりたいという強い希望がなかったにもかかわらず、母の願いだったことに加えて、他人を手伝うのが好きなので、メディカルスクール(医学系大学院)に進学しようと思いました。
そして、医学系大学院に進学することに決めました。しかし、科学の勉強が好きなのに、人の身体に触れたり、治療したりするのに向いていないと感じました。そのうえ、解剖学の授業を受けたときに、死体のある部屋に入るたびに、吐き気がしたので、無理だと思いました。もちろん、医師は、人の治療が中心となる臨床の道のほかに、研究者になる道もあるので、検討しましたが、当時、日本語への関心が強かったので、医学系大学院を辞めることに決めました。
現在、効果的な治療法がないパーキンソン病などを患っている患者にとって幸運なことに、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授が外科医の訓練中に挫折したときに、研究の道に進むことを決めました。長い年月がかかりましたが、最終的に、マウスの胚性繊維芽細胞に4つの因子を導入することで、iPS細胞 (iPS細胞 = induced pluripotent stem cell) のような分化多能性のあるマウス人工多能性細胞を作りました。それらを利用し、再生治療が円滑になり、いまだに復帰の見込みのない患者にいつか完全に癒される希望の光が見えてきました。何と素晴らしいことでしょう。
この素晴らしい結果を成し遂げた山中教授の様子を見て、感動しました。彼を支えてきた家族に謙虚に感謝の意を示し、共同研究の貢献を認め、褒めたたえています。でも、一番印象に残ったのは、iPS細胞の特許利用に関することでした。夕方のニュースで抜粋された、山中教授の記者会見の説明によると、ほとんどの会社や組織が研究の実りに対する独占的権利を手に入れるために、特許を取っているそうです。誰かが特許を取得すれば、他人は使えなくなってしまいます。しかし、山中教授は、そんな状況に陥らないように、自分がその特許権を先に取得し、この技術を人類共通の財産にすることを考えているそうです。そうすれば、この知識を幅広い範囲で広めて、科学の進行を促進することができます。なんと偉大な考え方でしょうか。
山中教授はきっと、知識の奇跡的な力を認識しています。モノ、金、や人間などの資産は、使えば使うほど、価値が下がるもしくは完全になくなります。反対に、知識には、あえて逆説的に言えば、利用すればするほど、価値が上がる特徴があります。この関連で、語源が中国語で、それが英語でも有名になった格言が思い浮かびます。それが Give a man a fish, and you feed him for a day. Teach a man to fish, and you feed him for a lifetime (人に魚を与えれば、その人は一日生き延びられる。魚の捕り方を教えれば一生生きていける)。僕は以前からこの格言が好きです。大学の教師兼経営コンサルタントの仕事を行うとき、この格言に従うようにしています。
その中で、この格言が全てを物語る訳でないことが気づきました。まず、僕が「先生」として他人を指導するときに、僕も閃きがあります。「学習者」の意見や質問から学ぶだけではなく、それらに刺激され、新たな観点から持っている知識を見るようになる訳です。その結果、自分の知識が「学習者」とともに増えるし、適用可能な範囲も広がります。また、他人に知識だけではなく、教え方や共有の仕方を教えれば、知識が指数的に、広がります。例えば、私が教える2人が、2人ずつ教えるとしましょう。それからその教わった4人が2人ずつ教えると、細胞の増殖のように、知識も「指数的」に増えていくでしょう。
さて、いかにこの奇跡的な資産を適用して、いわゆる学習組織を構築したらよいのでしょうか。まず、上司なら、部下に自分の知識や技能を教え、将来、上司の仕事を継続できるように育てます。また、組織に新しい知識、技能を導入するために、研修を実施すべきです。それによって、その学びが会社全体に広がり、適用されるように工夫すべきです。例えば、参加者に行動計画を作成してもらい、実施してもらったら、いかがでしょうか。その実行の30日後、またその部下と結果について相談すると、お互いも学びが増えるでしょう。
一流企業では個人開発計画 (Individual Development Plan)という道具を利用し、組織全体に学習の重要性、やり方を体系的に根付かせています。具体的に、上司がそれぞれの部下と一緒に、今後6カ月、また1年間の間に部下が参加する研修、OJTと呼ばれる仕事上の訓練計画、研修の学びを検証するプロジェクトの計画を作り、同時に他人に知識を共有する機会を計画します。
この過程は時間がかかります。ですから、採用を躊躇するマネジャーが多くいるかもしれません。採用したいと考えるが、部下が多いため、とてもできないと思い込んでいる上司もいるかもしれません。良く考えれば、それが大きな間違いなのではないでしょうか。人に釣り方を教えることに時間がかかるので、代わりに毎日魚一匹与えることにする。その場合、長期的に教える時間より多くの時間が必要となります。忙しいという理由で知識の拡大に投資しないことが、かえって不合理でリスクが大きくなってしまうのです。
この発想を、業績が悪化している日本企業にお勧めします。山中教授の研究結果のように、奇跡的な資産である知識の拡大はもしかして唯一の希望の光かもしれません。
英語塾
次の格言を述べたのは誰でしょうか。当ててみてください。
格言
Facts do not cease to exist because they are ignored.
Knowledge is of two kinds. We know a subject ourselves, or we know where we can find information upon it.
I saw the angel in the marble and carved until I set him free.
Intellectual ‘work’ is misnamed; it is a pleasure, a dissipation, and is its own highest reward.
Chance favors only the prepared mind.
発言者
Michelangelo, Italian artist / sculptor
Louis Pasteur, French scientist
Samuel Johnson, English author and lexicographer (辞典編集者)
Aldous Huxley, English writer
Mark Twain, American novelist
<推薦図書>
本ブログの著者ジョセフ・ガブリエラと杉本有造は、両者ともにMBAの保有者であり、英語と日本語の両方でエレベーターピッチを実施する豊富な経験を有しています。くわえて、両者の経験を活かして、ビジネスパーソンに対して、仕事の現場で直ちに活用できるエレベーターピッチの技法について指導しています。エレベータースピーチのテクニックを習得したいと思われている方に、二人の共著『エレベーター・スピーチ入門~アメリカビジネスで成功するためのプレゼンテーション&自己イメージ作りの技法』を読まれることを強くお勧めします。
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このブログは、ジョーが執筆し、皆様にお届け致します。ジョーことジョセフ・ガブリエラは、2000年に来日したアメリカ人。格闘技ファンなら誰でも知てる、K-1ファイターのアンディー・フグ氏にそっくり!
1989年米国ペンシルベニア大学ウォートン・スクールを卒業。その後ペパーダイン大学を皮切りに、イリノイ大学、南フリダ大学を卒業。MBAを含め2つの修士号と博士号を取得しました。日米合弁IT関連企業、スイス系証券会社、米系銀行、そして日系外食企業など幅広い業界の勤務を通して様々なビジネス経験を積みました。趣味は、水泳、読書(村上春樹氏の大ファン!)、ピアノ、そして様々な国の言葉を勉強する事です。ちなみに、2年前から新たに中国語勉強に励んでいます!この記事についてのご質問、感想、また意見を歓迎します。また、共同研究者である杉本有造氏とともにコンサルティング業務も行っていますので、お気軽にご相談ください。
ジョセフ・ガブリエラ 博士/MBA
東洋大学
gabriella@toyo.jp
jjapan1802@yahoo.co.jp
「世界のどこでも働ける日本人になろう」
「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!」
「Venture Into Japan」
杉本 有造 博士/MBA
IES全米大学連盟・東京センター
(The Institute for the International Education of Students, Tokyo)講師
gpmalibu@yahoo.co.jp
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