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Pepmalibuのブログ

こんにちは(^-^)このブログでは、アメリカ人と日本人の2人の博士号/MBAホルダーが、世界や日本で起こっている出来事に対する多元的な見方、アメリカの最新ビジネスや最先端の情報テクノロジーなどを紹介しています。どうぞよろしくお願いします!!




南カリフォルニア大学マーシャル・スクール
(経営大学院)ナサナエル・ファスト博士

「権力、自信過剰が組織内に強い影響力を及ぼす」


スタンフォード大学博士(組織行動論)。研究分野は、集団や組織における権力と社会的地位の決定要因やその帰結、組織内のいじめ、文化の伝播に影響を与える心理学的なプロセスなど。著名学術誌で多数の論文を発表。ウォールストリートジャーナル、フォーブス、ニューヨークタイムズにも記事を寄稿。「世界のビジネススクールの40歳以下の最も優秀な研究者40人」(2014)に選出される。



1.組織内の権力の影響

これまで、あなたの最も顕著な研究は、組織内の権力(パワー)が判断と意思決定にどのような影響を与えるかということに焦点を当てている。この研究の概観を示してください。そもそも何がきっかけで、この研究分野を選択したのですか?


私の研究の多くは、権力の保有や権力の欠如が、個人の知覚、態度、意思決定をどのように変化させるかを理解することに焦点を当てている。特に、リーダーが誤った決定を行うとき、人々は好んで「権力は腐敗する」(power corrupts)という格言をしばしば指摘する。しかし、私は、もっと体系的に権力と行動との関係を理解したかった。そのため、私と私の同僚は、科学的手法を用いて、権力がそれを持つ人に与える様々な心理的な影響を研究してきた。その過程で、ある場合は、権力が順応効果をもつ可能性があり、他の場合は、不適応効果をもつ可能性があることを明らかにした。例えば、私が、同僚(Deb Gruenfeld、Niro Sivanathan、Adam Galinsky)と一緒に行った一連の研究において、権力は支配の幻想的な感覚を感じさせる傾向を強めることを解明した。状況が困難になるときに、(権力にともなう)この幻想は、個人に対して大胆に前進し続ける決意を与える意味で順応的である。しかし、正確性が要求されるときには、自分の能力の過大評価に繋がり、望ましくない結果を生み出す可能性もある。最近になって、私は、資源や結果に対する支配の形成という視点から、権力が、自己が知覚した能力や社会的地位のような要素とどのように相互作用しながら行動に影響しているかを研究している。

私が覚えている限り、私は、権力にずっと関心を持ってきた。権力への関心について、私の最初の記憶の一つは、私が幼いところに過ごしたザイール(現在のコンゴ民主共和国)にさかのぼる。そこで、父はボランティア医師をしていた。私の家族は、独裁者モブツ・セセ・セコ(Mobutu Sese Seko)が統治していたときにそこに住んでいた。そこでは、(普通に)指導者が自分の方針に反対する人に対して暴力を振るい、ましてやその人々を殺害するという考えが存在していた。私はそうした考えに不安を覚えた。そのとき以来、私は、指導者が権力を悪用するのか、あるいは他人に役立つように使うのかを左右する要素を解明する研究に魅了されている。



2.優秀教員賞の資質

あなたは、研究で認められることに加え、何回か優秀教員賞を受賞したこともあります。あなたのどのような資質が学生指導における成功の原因だと思いますか。


たぶん、学生たちは、私が、彼らの個人的な成長とプロフェショナルとしての成長を気に掛けていることを知っていることがもっとも大きい理由だと思う。また、私は、新しいことを学ぶのが好きだし、できる限り、私の学習に対する情熱を教室で学生に伝えるように努力している。



3.組織における「いじめ」対策

「いじめ」は歴史的に日本の公教育制度の問題になっています。その「いじめ」によって、複数の被害者が自殺するまでにいたっています。あなたの研究にもとづき、日本における「いじめ」を根絶するために、校長や政策立案者にどのようなアドバイスをしますか?もしも可能な場合、被害者が身を守るために、何ができますか。社内で「いじめ」にあっている被害者は、窮地を改善するために何ができますか?


「いじめ」は、重大で、複雑な問題である。ひとつの救いは、「いじめ」に対する戦いで道を開いている「Workplace Bullying Institute」 (職場のいじめ研究機関)のような組織がそれに正式な名前を与えたことである。「いじめ」に対して、公式な名称を付けたことにより、それが、被害者も政策立案者もともに解決しなくてはならない問題として特定できるものとなる。「いじめ」に直面している人々ができるもう一つのことは、その状況から暫く距離を置き、考えをまとめ、その対応戦略を検討することだ。「Workplace Bullying Institute」のような組織が「いじめ」への対応策を検討したい被害者にとって、有益な情報源となる。それから問題を適任者たちのところに持ち込み、個人的な問題としてではなく、むしろ、組織の利害に係わる課題として、組み立てることが有益である。また、個人としてではなく、グループ(集団)として、その対策を考えることが有効だ。上層部は、「いじめ」の被害者に責任を押し付け、そうした個人が過度に敏感なだけだと、簡単に判断する誘惑に負けてしまう。しかし、「いじめ」についての報告が組織の健全性に関心を抱いている従業員グループから伝えられたら、上層部はそのような安易な応対はできなくなる。他方、政策立案者が実施できる対応策としては、まず、「いじめ」に公式の名称を付けて、それを国民全体に知らせることである。



4.権力と自信過剰

2009年3月10日付けのタイム誌の記事に紹介された、権力が生み出す自己管理の能力にともなう幻想に関するあなたの研究に興味をもちました。あなたと共著者デボラ・グルエンフェルド(Deborah Gruenfeld)のコメントを引用すると、「権力は、自信過剰な意思決定をさせるという点で、人間を現実から疎くさせる可能性がある」。どのような状況下でこの結果が起こりうると考えますか。権力者が自信過剰な決定をする確率を減らすために、企業は何ができますか。権力者自身は何をしたらよいでしょうか。


繰り返し成功を体験する。また、リーダーの権力に挑戦したくない人たちに囲まれる。こうしたいくつかの要素が支配の幻想的感覚を強化しうると考える。私たちは、失敗または対立を経験しなければ、特定の決定の賛否両論を熟考する必要性を感じなくなってしまう。そのため、企業は、権力者に対して熟考を促進するような環境を醸成しなければならない。権力をもった上層部の人間も、自分自身で、次のような対策をとれる。権力者は、支配の幻想的な感覚を体験する傾向が強いことを意識する。また、自分の弱点を自覚する。そして権力者自身が、自分に対して率直に意見を述べる人たちの中に身を置くことだ。



5.起業家と自信過剰

自信過剰な意思決定が、利益をもたらす状況はあると思いますか。例えば、起業家がその恩恵を受け、他人が回避するリスクを取る傾向が強くなると考えますか。


確かにある。起業家として成功するために、リスクを取る必要があり、自信がその重要な一部を構成する。これに関連して、Cameron Anderson と Sebastien Brionは自信過剰がグループ(集団)における社会的地位を高めるのに、役立つという研究結果を発表した。要するに、自信過剰がいつも悪い訳でない。



6.人気が持続する理由

そもそも人間は才能があれば、才能が衰えた後でも長い間、人気を保つことができる。その理由は、人間が共通の関心課題を探し、関心を共有したいという欲求をもつことにある。そう提唱するあなたの研究を読んだときに、初めのうち、半信半疑でした。この研究について説明してください。その結論は、西洋の文化と完全に異なる日本にも当てはまると思いますか。これらの研究結果は、ビジネスにおいてどのような示唆を与えてくれますか。


私たちは、つぎのような単純な仮説を証明したいと考えた。人間には共通話題を話し合うことにより、絆を築く心理的な傾向がある。そうした心理的傾向が、有力な考えや有名人が、純粋のメリットだけで「説明できる」より長い間、大衆文化のなかに生き残る社会学的な発見の基礎になっているという仮説である。私たちは、成績の影響を調整したうえで、野球選手が、前の数年間、メディアに自分の名前が出た場合は、オールスター・ゲームの投票をより多く獲得し受賞数も増えることを発見した。人々が、これらの選手についてオンライン・チャットルームで話し合う傾向がこうした効果を生み出す仕組みだった。面白いことに、異なったパターンを見せた唯一の集団は、野球に詳しい「専門家たち」であった。彼らが、もっと面白い、成績のよい選手について語る傾向が強かった。しかし、そうした傾向も、話している相手が同じ「専門家」であることを知っていた時だけに見出された。結論から言えば、有力な考えと有名人は、単に私たちに他人と絆を築く方法を提供するために存在するのかもしれない。集団主義的文化と個人主義的文化の中で、この現象の潜在的な違いを検討する研究は面白いだろう。そうした研究は、私たちはまだ行っていない。



7.組織内の批判は伝染する。それを防ぐには?

あなたが、実験社会心理学の学術誌「The Journal of Experimental Social Psychology」で発表した研究は、人を責めることが組織内で伝染することを示唆しています。こうした悪影響を阻止するために、2010年の HBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)のブログで掲載された記事で、あなたは、従業員の誤りに報酬を与えることを提案しています。こういった報酬制度を導入している会社の例を教えてください。これらの制度の有利なところは何ですか。ビジネスに対するこうした報酬制度の影響をどのように計測したのですか。


もちろん、正しい間違いを奨励することが大切だ。ここでいう正しい間違いとは、将来の業績を改善する学習を促す間違いのことを意味する。失敗に対して、新種の取り組み方を採用している企業が数社ある。インドのタタ・グループは、毎年、最高の失敗に対して賞を与えている。イントゥイット(Intuit)、 イーライリリー(Eli Lilly )、P&Gの各企業は、失敗は会社の運営上不可欠な部分だと見ている。この方法の利点は、心理的な安心感を生み出すことである。ハーバード大学経営大学院のエイミー・エドモンドソン(Amy Edmondson)が行った広範囲の研究結果が示すように、失敗に対するこうした態度は全体的な業績の向上につながっている。



8.海外経験と研究領域の関係は?

あなたは、小さい頃、北米、欧州、アフリカに住んだことがあると聞きます。なぜ、幼いころ、三つの違う大陸に住むことができたのですか。欧州とアフリカの経験を教えてください。それらの人生経験があなたの研究にどのような影響を与えたのかをお話しください。

医者である私の父は、他人を助けるだけでなく、旅行も好きだった。そのため、彼は、「Doctors Without Borders 」(国境なき医師団)のような組織に志願した。ベルギーでは授業がフランス語で行われていた学校に通い、コンゴでは、私と私の兄弟たちは村で唯一の白人であった。これらの経験から、わたしは次のようなことを真剣に学ばざるを得なかった。つまり、人間の行動を導く根本的な基準(ノーム)と原則を理解しようと、個人と集団について学んだ。その経験により、私は、人間の行動の土台を解明しようとする研究への終生の関心をもつようになった。海外で暮らしたことは良い経験であるし、今でもその機会に感謝している。



9.今後の目標

あなたはまだ若い。学者としてのあなたのキャリアはこの先長い。どのような目標を持っていますか。本を執筆する予定はありますか。もしあれば、詳細を説明してください。


現在、私は研究と教育の両方をとても満喫している。確かに、今後数年間で、この両方の成果を本にまとめたいと思っている。それまでの間、私は、権力、影響力、指導力(リーダーシップ)に関する研究の最新の結果を定期的に私のホームページで公表していきたいと思っている。下記のサイトを自由に参照されたい。

http://www-bcf.usc.edu/~nathanaf/

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本ブログの著者ジョセフ・ガブリエラと杉本有造は、両者ともにMBAの保有者であり、英語と日本語の両方でエレベーターピッチを実施する豊富な経験を有しています。くわえて、両者の経験を活かして、ビジネスパーソンに対して、仕事の現場で直ちに活用できるエレベーターピッチの技法について指導しています。エレベータースピーチのテクニックを習得したいと思われている方に、二人の共著『エレベーター・スピーチ入門~アメリカビジネスで成功するためのプレゼンテーション&自己イメージ作りの技法』を読まれることを強くお勧めします。

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このブログは、ジョーが執筆し、皆様にお届け致します。ジョーことジョセフ・ガブリエラ は、2000年に来日したアメリカ人。格闘技ファンなら誰でも知てる、K-1ファイターのアンディー・フグ氏にそっくり!1989年米国ワートン・スクールを卒業。その後ペパーダイン大学を皮切りに、イリノイ大学、南フリダ大学を卒業。MBAを含め2つの修士号と博士号を取得しました。日米合弁IT関連企業、スイス系証券会社、米系銀行、そして日系外食企業など幅広い業界の勤務を通して様々なビジネス経験を積みました。趣味は、水泳、読書(村上春樹氏の大ファン!)、ピアノ、そして様々な国の言葉を勉強する事です。ちなみに、2年前から新たに中国語勉強に励んでいます!この記事についてのご質問、感想、また意見を歓迎します。また、共同研究者である杉本有造氏とともにコンサルティング業務も行っていますので、お気軽にご相談ください。

また、次のような「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!!」をテーマにしたブログも公開しているので、あわせてご一読いただければ幸いです。

「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!!」の目的
皆さんのビジネスリーダーとしての知識欲をさらに刺激するために、毎月、2回の頻度で、「アメリカ・ビジネスの最前線」を主な対象にして、「アメリカ・ビジネスでいま何が起こっているのか」「どのような最新技術に注目が集まっているのか」「日本や日本製品はアメリカでどのように評価されているのか」といった点について、アメリカ人としての見解を掲載します。日本のメディアでは、日本人による単一的(あるいは一方的)な見解が主張される傾向が強いように思えます。このブログ記事では、「世界には多様な考えがある」ということを日本の読者に具体的なテーマで知ってもらうことを意識しています。日本や日本人に対する外国人の見解、考え方を知ることで、読者自身の世界観を広げ、最終的にはビジネスチャンスにつなげてもらえればと願っています。とりあげてもらいたい「旬の話題」や建設的なご提案など、お気軽に著者までご連絡いただければ幸いです。

ジョセフ・ガブリエラ  博士/MBA
東洋大学
gabriella@toyo.jp
jjapan1802@yahoo.co.jp

「世界のどこでも働ける日本人になろう」

「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!」

「Venture Into Japan」

杉本 有造  博士/MBA
IES全米大学連盟・東京センター
(The Institute for the International Education of Students, Tokyo)講師
gpmalibu@yahoo.co.jp

© 2015 Joseph Gabriella, Ph.D., MBA. All rights reserved. 無断複写・転載を禁じます。


マイケル・シンキンソン博士

ペンシルベニア大学ウォートンスクール(経営大学院)准教授。担当は、ビジネス経済学と公共政策(応用ミクロ経済学と産業組織論)。ハーバード大学/ハーバード・ビジネス・スクール博士(ビジネス経済学)。研究分野は、新聞産業、技術、電気通信産業。「40歳以下のビジネス・スクール(経営大学院)ベスト教授40人」の中にランキングされている。(2014年5月15日インタビュー実施)

1 世の中のすべてのことを情報として取り扱うメディアの影響力

あなたは、紙媒体の新聞がもつ政治への影響に関する研究をいくつか行ってきました。なぜ、この分野に関心を持っているのですか。あなたが、計量経済分析を適用した、他の研究分野はありますか。米国連邦政府のどのような政策分野において、もっと深く徹底した計量経済分析から恩恵を得ることができると考えますか。



(1)メディアは意思決定に必要な情報を提供する

あらゆる分野に及ぶという理由で、新聞紙とメディア媒体に非常に関心を持っている。メディアは情報を扱う。情報欠如や偏った情報にもとづけば、どのような政府、企業、個人も正しい決定ができない。したがって、私はメディアが(世の中の)すべての中心となっていると理解した。たとえば、私とある共著者は、政治に対するメディアの影響を検討した。具体的には、いかに新聞社が競争し合うか、どのように市場で代表する視点の類型を選別するかを研究したのである。くわえて、政治的な帰結(選挙結果)に対する新聞紙の影響力を探った。例を示せば、実際にある市場では、人々が新聞を読めば読むほど、政治過程に参加する人数が実際に増えるという結果を確認できた。仮に民主主義が良いシステムだと思うなら、この点が重要なポイントになる。つまり、価値のある情報を提供する点で、ニュース媒体が重要だということがすぐ分かる。メディアは魅力に富んでいると私は思う。メディアはすべてを対象にしている。このように、メディアは、私のひとつの関心領域であり、長期的に研究を行ってきた、


(2)非価格競争—電気通信、製薬、広告

他の分野でも研究を行った。私の研究分野は、技術、メディア、電気通信における非価格競争に関するものだと表現してもよいだろう。私が「非価格競争」という専門用語を使うことで、企業は価格を正しく設定すると私が仮定していることを理解できるだろう。それは、市場に均衡をもたらす価格のことだ。商品の一群が市場に出たら、そうした均衡化が必ず起こる。それを前提にした適切な質問をすれば、「どの商品の組み合わせが市場に出るか」になる。新聞社の例を考えれば、おそらくどのような視点(見解)を代表したいかということになる。つまり、その新聞の特徴として何を選択するかということだ。


電気通信市場に関しては、独占契約に関する研究を私は行った。無線通信会社(携帯電話会社)はそれぞれ異なった携帯電話機メーカーと独占契約を結ぶ。携帯電話メーカーは特定の通信会社を通して商品を提供している。これは、非価格競争の一種である。その場合、市場では、競争を合理化する水準で価格が設定される。ここで問題となるのが、なぜあるメーカーは通信会社1社のみしか利用しないのか、ということである。たとえば、アップル社はなぜ他の会社を通して同社の携帯電話機を提供しないのか。アップルがアメリカの市場でiPhoneを売り出したとき、AT&T社からしか手に入れられなかった。日本も同様である。長い間、ソフトバンクがiPhoneの独占的販売会社であった。これも非価格競争の一種である。


(3)製薬業界

最近の研究でもう一つ重要な領域が広告である。これも非価格競争の重要な類型である。アメリカでは処方箋薬がテレビで広告されている。ほとんどの国では、そうした広告は許されていない。つまり、処方箋薬のテレビ広告はとてもアメリカ的である。これも非価格競争の一種だ。企業は、テレビ広告を通じて情報を直接消費者に伝えることにより競争し合っている。私は非価格競争の効果を理解したいと思った。これは、公共政策の分析の点でとても重大な研究領域である。私たちは、これらの広告が経済学で「正の外部性」と呼ばれる好ましい波及効果を生むことを確認した。この広告を見る消費者が医師の診察を受け、自分の健康上の問題について相談する。それによって、広告を放送した製薬会社が必ずしも意図したわけではない恩恵を受ける。


公共政策のどのよう分野で経済分析が役立つか、というあなたの質問に関しては、この正の外部性の分野が大きなひとつになると私は答える。私が具体的に言いたいのは、企業が行っている活動の多くが好ましい波及効果を引き起こすということである。社会は、企業がもっとこれをするように、促すべきである。この分野は定量化しにくいが、公共政策へ経済分析を適用する研究にとって優れた機会だと考える。たとえば、アメリカの連邦政府は、研究開発の税額控除の有効期限を延ばすかどうか、現在、論争している最中である。長い間、経済学者は、研究開発が社会に好ましい波及効果を及ぼすと信じているので、この税額控除を恒常的なものにすべきだと主張している。この分野は容易に政治問題化されてしまう傾向がある。しかし、経済学者としては、好ましいと考えられる波及効果を引き起こすための適切な補助金水準はどのくらいかといった研究を提供できる。



2 iPhoneの独占販売契約

あなたは、スマートフォンのデータを使って独占契約における価格決定と市場参入動機を研究しました。その概観を紹介してください。研究の動機は何だったのですか。この研究の知見は、どの程度他の産業に適用できますか。また、どの程度、日本のような他の国に当てはめることは可能ですか?


(1)iPhoneとAT&T

前述のとおり、2007年にアップル社がiPhoneを売り出したときに、AT&T が独占販売業者だった。私は、個人的にiPhoneが欲しかった。でも、ベライゾン(Verizon)社が私の携帯電話会社であった。つまり、iPhoneを手に入れるために、携帯電話会社を換えなくてはならなかった。AT&Tのサービスがひどく、私の研究室で携帯電話が受信できなかった。音声の質もひどかった。そのとき、「これは道理にかなっていない」と考えた。第1に、なぜ、アップル社がiPhoneをただ1社の携帯電話会社を通して提供しているのか。第2に、なぜ、アップル社は信頼できる無線信号すら提供しない、つまり音声の質がよくない通信会社、つまりAT&Tを選んだのか。(AT&Tの無線の状態が悪いために)私のiPhoneは、(事実上)高い留守番電話の状態になっていた。私のiPhoneはメッセージを受信するだけだった。


この苛立ちによって、私は、アップル社がAT&Tと独占販売契約を結んだ背景にある理論を考える刺激を受け、それが面白い結果につながった。すべての通信会社がすべてのメーカーの携帯電話機を販売したならば、唯一の差別化ポイントは、それぞれの携帯電話会社が提供するサービスということになる。それは消費者にとって好ましい。なぜなら、完全競争が生まれるからだ。企業が独占契約を持てば、明らかに少し価格を値上げられる。なぜなら、同種の携帯電話機を提供している他社の「サービスパッケージ」(商品とサービスの組み合わせ)と競争しているわけではないからだ。その企業は独占契約下のiPhoneの価格を上げられるだけではなく、二次的な効果として、ブラックベリーも含めて、他のすべての携帯電話会社も自社の携帯電話の価格が上げられるようになる。この場合、産業全体が恩恵を受けることになる。私の研究は、この効果がとても大きくなる可能性があることを示した。この効果がどの程度大きいかを見せるために、私は携帯電話会社からデータを収集した。



(2)iPhone独占契約と2番手の通信会社

この研究を進めるなかで、もう一つの発見をした。どの携帯電話会社が、独占契約を結ぶために、より多くの対価を支払う意志が強いかということが分かった。なぜ、一番大きいベライゾンではなく、AT&Tがより多くの対価を支払ったのか。理論を考え抜けば、産業内の一番大きな企業が独占契約を締結すれば、2番目に大きい会社がより多くの損失を受けることが理解できる。アメリカでは、ベライゾンは非常に強力なネットワークをもっている。したがって、ベライゾン社はiPhoneの(独占)契約を締結しなくても、多くを失わないだろう。一方、AT&Tのネットワークは相対的に弱いので、仮に最大手のベライゾンがiPhoneを提供するようになれば、AT&Tは多くを失ってしまう。このため、AT&Tが多額の対価を支払う覚悟をしたのである。


類似的に日本を比較すれば、NTTドコモが最大の携帯電話会社だった。そして、ソフトバンクがボーダフォンの携帯電話ネットワークを買収した。ある意味で、ソフトバンクは反乱の会社だった。仮にiPhoneがNTTの独占契約になったら、ソフトバンクは大きなトラブルに陥っていただろう。つまり、ソフトバンクはNTTドコモがiPhoneの独占契約をもったら、競争する方法はもうなかっただろう。だから、ソフトバンクは、iPhoneの独占契約を手に入れるために、多額の対価を支払う覚悟ができた。そして、これによりソフトバンクは、NTTドコモと差別化する手段を手に入れた。世界のマーケットを調査すれば、アップル社が、ほとんどすべての場合で、同じ戦略を採用したことが分かる。中国では、アップル社は、2番目に大きい電話会社と提携しiPhoneを売り出した。他の国でも、アップル社は2番目の企業を通じてiPhoneを販売した。なぜなら、2番目に大きい企業がより多額の対価を支払う意志があったからである。


私は、通信市場の文脈でこの効果を研究した。他の経済学者は他の産業で、この効果を研究している。同じ問題がビデオゲームシステムに当てはまる。この産業では、問題はより複雑になる。というのは、Xboxを購入する際に、10個の異なるゲームを一緒に購入するかもしれないからだ。この場合、比率が違う。携帯電話メーカーと携帯電話通信会社の場合とは異なり、もはや一対一の関係ではない。複数の研究者たちが、異なったゲーム装置に関して、ビデオゲームの独占販売契約を研究した。ネットフリックス(Netflix)、フールー(Hulu)、アマゾンの各社が、現在、独占販売のコンテンツにどのように対応しているかを考えると、同じことがいえる。コンテンツを独占的に提供することで、ネットフリックス社は、競合他社と差別化を図っている。企業のこうした動きは、実際、市場の力学に変化をもたらした。



3 アベノミクスに対するプラスの評価

あなたはご存知だと思いますが、日本の安倍晋三首相はアベノミクスを旗印にして、現在、抜本的なマクロ経済改革を導入しています。ミクロ経済に関するあなたの専門知識に基づいて、既に実施されている改革の効果をさらに強化するために、移動体通信と家庭用電化製品のような特定の産業に対してどのような提案をしますか。


あらかじめ国際貿易とマクロ経済は私の得意分野ではないということを断っておきたい。安倍首相の政策が、企業に対して投資を行い近代化する誘因になった。これは良いことだと思う。現実的には、家庭用電化製品や電子通信産業の市場はグローバルになっている。最終的には、市場の勝者は最も効率的で、最も高いクオリティーの製品を提供するメーカーになる。あなた方の他の質問の一つが保護貿易政策、政府救済措置などについてだったと思う。企業は競争力をもたなければならない。設備投資を行う誘因を創り出せば長期的な効果がある。だから、そうした政策は企業に好影響を与えると信じる。企業は、正しい誘引を与えられなければならない。そうなれば、企業は、不況を耐え抜き、これから10年、20年先にも確実に存続できるようになる。 



4 インターネットと紙媒体新聞の将来



インターネット技術が進化するにつれて、伝統的な新聞社や雑誌出版社が存続に向け悪戦苦闘しています。名門ワシントンポスト紙がアマゾン創業者のジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)に買収されたことはご存知だと思います。技術が引き起こしている混乱のなかで現在の紙媒体の企業が生き残るためにあなたはどのような方策を提案しますか。


(1)「全国紙化」が生き残り策のひとつ

現実的には、これらの企業は現在の形で存続しないかもしれない。歴史的に、印刷媒体は地域的に保護されてきた。一般的には、自分の市場のなかで孤立していた。もちろん、オハイオ州クリーブランド市の新聞なら、(潜在的に)その周辺の他の新聞紙からの競争に曝されていた。状況が変化した最初の兆しは有線テレビのニュース・チャンネルであった。突然、現地の視聴者の好みに合わせていたクリーブランドの新聞とテレビ放送局が、全国のニュースを放送していた有線テレビと競争しなくてはならなくなった。現地の視聴者は、より自分の好みに合ったチャンネルと放送局に乗り換えるようになった。


インターネットはこうした傾向を徹底化した。現在、あらゆる視点のメディアにアクセスすることができる。あなたの個人の好みや趣味に関係なく、それを満たすブログまたは他の情報源が見つけられる。その結果、現在、特定の地域市場の嗜好に合わせることが難しくなっている。クリーブランド市の様々な市民が異なるニュース内容を求めている。特定の嗜好に合わせるブログや他のオンライン媒体が、その好みを共有するすべての地域市場の視聴者をすくいあげている。これらの媒体が視聴者の基盤をまとめあげ、ほとんどの印刷媒体を排除していく。ニューヨーク・タイムズ紙やウォールストリート・ジャーナル紙のような一部の成功した新聞のみが、この環境下で、次のような2つの手法で成功を収めている。第1に、地域的な限界を克服するために全国紙になる。そして、第2に、高い質の記事を提供する。こうした新聞は、質の高い記事を提供することで、プレミアム(割増)料金の支払いを惜しまない上位顧客を引き付けることが可能となっている。この戦略は、オハイオ州クリーブランド市にある地域新聞には有効ではない。



(2)オンライン化と「超」地域化

今現在起きていることを見れば、選択肢がいくつか考えられる。新聞紙のなかにはオンライン媒体になったものもある。たとえば、シアトルポストインテリジェンサー(The Seattle Post-Intelligencer)紙はオンラインメディアになるために、印刷部門を閉鎖した。その判断は良さそうに思える。だが、それにともないニュース編集室もかなり縮小しなければならなかった。そのような方策を実施すると、根本的に異なるメディアになってしまい、消費者にとって都合の悪いものになる可能性がある。新聞記者は、不祥事を暴露し、公共財を提供するので、編集室の縮小は必ずしも好ましいものではない。一方で、ビジネス・モデルの観点からは、こうした縮小は数少ない選択肢の一つである。従来のビジネス・モデルはもはや通用しない。近い将来を見据えると、多くの伝統的な新聞社は生き残れないかもしれない。


オンライン化に代わる他の唯一の選択肢は、サンディエゴ新聞紙が目指しているような「超地域化」を選択する(集中的に地域の新聞紙になる)ことである。同新聞は記者を近所に派遣し、(日常の)あらゆる出来事を取材させている。このように、超地域化された内容はもうひとつの戦略である。サンディエゴ新聞がこうした戦略を試しているが、彼らが成功するかどうかは分からない。しかし、私たちは、必ず、新規のビジネス・モデルの登場を目撃するだろう。なぜなら、つい10年前のビジネス・モデルももはや通用しなくなってきているからだ。



5 バーテンダーと教授

「私がビジネス・スクールの教授にならなかったならば、起業家になっていた」とあなたはかつて語ったそうですね。起業家活動のどのような点にあなたは関心をもっているのですか。この分野に関する研究を行ったことはありますか。大学院生のときに、バーテンダーとして働いたアルバイト経験を通じて、起業家活動について何を学びましたか。


(1)起業家と教授の共通点

最初に、なぜ私が起業家活動に関心を持っているかというあなたの質問に答えたい。起業家活動と教授としての学術的な仕事について私が好むのは、自分の興味を追求する自由があることだ。よかれあしかれ、自分が自分自身の上司である。自分の失敗も、自分の成功も自分のものである。私は自分がやりたいことを追求する自由や責任が好きだ。私のような人間にとって、学究的な生活が理想である。例えば、なぜベライゾン社からiPhoneが購入できないのか。こうした疑問が面白いと思えば、それを検討し研究できる。私を学究的な生活に魅了したこの特徴が起業家活動にも当てはまる。その意味で、実際、この2つ分野は関連していると思う。学界では、あなたが起業家なのである。研究者として自分のブランドを持ち、自分の成果に基づいて評価されるわけである。成果を出さなければ、学者としての終身在職権が手に入らない。学究的な生活は、(一般のビジネスよりも)少し大きなセーフティーネット(安全網)を持つ起業家になることにたとえることが可能だ。こうした学界との共通点が、私が起業家活動に魅了される理由だと思う。



(2)バーテンダーの体験で将来の夢を発見

次に、私がバーテンダーとして何を学んだかというあなたの質問について答えたい。そのひとつが、最前線にいることにより、事業運営の問題や挑戦に関して、直接的な経験を豊富に積んだことである。市場や産業を把握する素晴らしい方法であったし、問題の解決法を学ぶ良い機会でもあった。バーテンダーとして、あらゆる種類の問題を目撃した。オーナー(持ち主)やマネージャーが関わらなかったので、わたしはいつも問題を解決しなくてはならなかった。起業家として、本格的に成功したいなら、誰もまだ発見していない問題を発掘し解決すべきである。それが、私がバーテンダーとして学んだ1つ目の教訓である。2番目の教訓は、自分の残りの人生で、ずっとバーテンダーでいたくないことも分かった。この経験は、私が終生バーテンダーを続けなくてもいいように、より高い教育を受けるために努力を継続する動機付けになった。



6 知識の獲得のための努力

あなたの学生によると、あなたは、学生の質問に詳細に答えられないことは決してないと聞きます。年齢がまだ若いにもかかわらず、いかにしてそんなに幅広い知識を習得できたのですか。情報過多に対する適切な対応と、有益な知識の蓄積について、学者と会社員にどのような提案をされますか。


世界に関して強い好奇心をもつ人間は学究的生活や教職に惹きつけられる傾向がある。そうした人間は学習が大好きである。これらの人間にとって、学習は生涯をかけて追求するものとなる。私がこのような好奇心を持っていると、学生たちが感じていることを嬉しく思う。なぜなら、それが私の希望だからだ。

知識を維持することは、課題である。情報が氾濫しているため、私も作業を進めることが困難となるときがある。恒常的に、私のところへ電子メールが殺到する。自分の自由になる日をとっておくことが解決策だった。打ち合わせをしない。その日は、メールに返信しないし、頻繁に受信メールも確認しない。その代わりに、自分の研究に集中する。ホワイトボードのところに行き、考えに集中する。電話を手放すことを不自然に感じる人間もいる。しかし、特に、難しく、複雑な問題を解決したければ、そうした手法が重要であると私は思う。5分~10分ごとに、何かに気を取られてはいけない。

私は早起きでもある。授業を教えている学期中、普段は5時半には起きている。最初の授業が9時からなので、その前に、数時間の自由がある。朝早いから、誰も電子メールを送信してこないし、ドアもノックしない。しかも、誰も電話をかけてこないのである。私は静寂のなかで研究に集中できる。講義を周到に準備することも確認できる。このような朝は、誰も私と連絡を取ろうとしないので、最も好ましい作業時間となっている。1日のうち、そして1週間のなかで、スケジュールに圧倒されずに思考し問題を解決する時間を私は必要とする。 



7 「教える」という兆戦

あなたは、「Poets & Quants」誌の「ビジネス・スクールの40歳以下のベスト教授40人」のリストに入りました。その特集記事で、あなたは、自分にとって教育が終生の関心事であると語りました。教育のどのような点が楽しいですか。学生たちから何を学びましたか。教育について、どのような点が厄介で楽しくないと思いますか。



(1)学生たちは高いお金を払っている「顧客」

私は、勤勉に勉強に取り組んでいる聡明な学生と意見交換することを楽しく思う。ウォートン・スクールでは、3クラスで約200人の学生の授業を担当している。すべての学生が鋭くて、手を抜くことなどまったく許されない。ある課題を本格的に教えるために、まず、自分が完全にマスターする必要がある。広範囲の話題について、なぜ私が詳しい知識もっているか、というあなたの前に質問に戻ろう。聡明な人に質問されるときでも、私が正解を答えるくらいに、ある課題について詳しく学ぶのが好きだ。自分の答えが正しいと確信する。さらに、その答えを完璧に説明できる。その水準まで、ある課題を極めることにワクワクする。そうしたチャレンジが大好きである。学生たちが、私に妥協しない高い基準を保たせている。授業料を支払う「顧客」で、良い商品を要求するのである。彼らの存在があるから、私は課題を知り尽くし、その知識を彼らに提供できるのだ。


(2)私から学ぶ学生から、私自身が学んでいる

私は学生たちからたくさんのことを学んでいる。特に、学生は多様なので、彼らが現実の世界や職場で直面している問題を知ることは有意義だ。ある学生は軍隊に携わり、他の学生は様々な業界で働いた経験をもつ。現在、現役のプロスポーツ選手やその経験者も学生のなかにいる。学生たちは幅広く、異なる活動に関与している。学生たちが、自分の経験に経済原則を適用する話を聞くのは、素晴らしいことだと思っている。経済理論の適用について、学生から、次のような電子メールを頻繁に受信している。「あなたが説明したゲーム理論が適用できる素晴らしいサッカーの試合を観戦した。ほら、見て」。こうした学生たちの経験は将来の授業に生かすことができる。なぜなら、将来の授業でこれらの例を利用することができるからだ。私は、教育全体のプロセスを好循環と見ている。つまり、私から学ぶ学生から、私自身も学んでいるわけである。


学生の生い立ちは様々だ。だからこそ、教えることが挑戦でもある。ある学生は、大学(学部)のとき、経済学を専攻した。他の学生はこれまで経済学を勉強したことがない。にもかかわらず、私は、すべての学生にとって、面白くて、刺激的な講義を組み合わせなくてはならない。この要求に応えることは挑戦である。でも、(部分的に)学生の好みが異なるから、時々、心配にもなる。グローバルな事例を知りたい学生もいるし、反対に、アメリカの事例の方がよいと思う学生もいる。ある学生は厳格な経済理論や数学を学びたがるが、全然必要としない学生もいる。これらの異なった要求をバランスをとって満たし、くわえて、面白くて、刺激的な講義を設計することはとても難しい。 



8 本の出版

多くの学者は自分の研究成果をもっと広い範囲の読者に伝えるために、本を執筆します。近いうちに、あなたは本を出版する予定がありますか。ある場合は、その詳細を紹介してください。

正直にいえば、私にはまず完全に達成しなくてはならない十年先までの研究計画がある。私の研究生活の現時点では、本の執筆に取り掛かる意味はまったくない。付け加えれば、政府や産業にインパクトを与えると思った考え、つまり書く価値のある考えがあると思ったときに、本を書きたいと考えている。躍起になって書籍を執筆する人を見かけたことがある。でも、私は、政府のよりよい政策決定を支援することにより貢献できると思う場合にしか、出版したくはない。書籍の出版は私の優先課題の中では、現在、優先順位は高くない。しかし、今から10年後、同じことを聞かれれば、異なる答えをするかもしれない。
  

9 行動経済学

行動経済学について、どのように評価していますか。自分の研究に、どの程度心理学的理論を採用したいと考えていますか。

過去10年間ぐらいわたって、行動経済学の人気は高まっているし、様々な進展がある。研究分野として、行動経済学は面白いと私は思う。問題はモデルの欠如である。まだ、質の高いモデル、つまり、全ての個人的な違いを統合した包括的理論は存在しない。モデルが欠如しているため、研究の観点から行動経済学を利用することに私はフラストレーションを感じる。よく冗談で、それが、私が企業を研究することを好む理由だという。企業はもっと合理的である。その結果、人間を対象とするより、研究しやすい。

しかし、行動経済学の課題はマネージャーにとって大事である。私の学生たちはしばしば次のようなコメントをする。「私という人間は完全に合理的でないかもしれないなかで、なぜ、その選択をするのか」。しかし、私は、ひとつの講義の半分しか、行動経済学の説明に割いていない。むしろ、私は時間の大分部を費やし、企業の合理的で経済的な行動を説明する。行動経済学が重要で、有益で、しかも面白いと思うが、私の専門分野ではない。近い将来、他の若く優秀な研究者が行動経済学に関する包括理論を打ち出すことを願っている。行動経済学は、将来の研究のためには素晴らしい道具箱となるだろう。現段階では、行動経済学の結論は、「我々人間は完全に合理的ではない」と主張しているように思える。

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本ブログの著者ジョセフ・ガブリエラと杉本有造は、両者ともにMBAの保有者であり、英語と日本語の両方でエレベーターピッチを実施する豊富な経験を有しています。くわえて、両者の経験を活かして、ビジネスパーソンに対して、仕事の現場で直ちに活用できるエレベーターピッチの技法について指導しています。エレベータースピーチのテクニックを習得したいと思われている方に、二人の共著『エレベーター・スピーチ入門~アメリカビジネスで成功するためのプレゼンテーション&自己イメージ作りの技法』を読まれることを強くお勧めします。

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このブログは、ジョーが執筆し、皆様にお届け致します。ジョーことジョセフ・ガブリエラ は、2000年に来日したアメリカ人。格闘技ファンなら誰でも知てる、K-1ファイターのアンディー・フグ氏にそっくり!1989年米国ワートン・スクールを卒業。その後ペパーダイン大学を皮切りに、イリノイ大学、南フリダ大学を卒業。MBAを含め2つの修士号と博士号を取得しました。日米合弁IT関連企業、スイス系証券会社、米系銀行、そして日系外食企業など幅広い業界の勤務を通して様々なビジネス経験を積みました。趣味は、水泳、読書(村上春樹氏の大ファン!)、ピアノ、そして様々な国の言葉を勉強する事です。ちなみに、2年前から新たに中国語勉強に励んでいます!この記事についてのご質問、感想、また意見を歓迎します。また、共同研究者である杉本有造氏とともにコンサルティング業務も行っていますので、お気軽にご相談ください。

また、次のような「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!!」をテーマにしたブログも公開しているので、あわせてご一読いただければ幸いです。

「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!!」の目的
皆さんのビジネスリーダーとしての知識欲をさらに刺激するために、毎月、2回の頻度で、「アメリカ・ビジネスの最前線」を主な対象にして、「アメリカ・ビジネスでいま何が起こっているのか」「どのような最新技術に注目が集まっているのか」「日本や日本製品はアメリカでどのように評価されているのか」といった点について、アメリカ人としての見解を掲載します。日本のメディアでは、日本人による単一的(あるいは一方的)な見解が主張される傾向が強いように思えます。このブログ記事では、「世界には多様な考えがある」ということを日本の読者に具体的なテーマで知ってもらうことを意識しています。日本や日本人に対する外国人の見解、考え方を知ることで、読者自身の世界観を広げ、最終的にはビジネスチャンスにつなげてもらえればと願っています。とりあげてもらいたい「旬の話題」や建設的なご提案など、お気軽に著者までご連絡いただければ幸いです。

ジョセフ・ガブリエラ  博士/MBA
東洋大学
gabriella@toyo.jp
jjapan1802@yahoo.co.jp

「世界のどこでも働ける日本人になろう」

「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!」

「Venture Into Japan」

杉本 有造  博士/MBA
IES全米大学連盟・東京センター
(The Institute for the International Education of Students, Tokyo)講師
gpmalibu@yahoo.co.jp

© 2015 Joseph Gabriella, Ph.D., MBA. All rights reserved. 無断複写・転載を禁じます。
テレサ・アマビール博士

ハーバード大学ビジネススクール(エドセル・ブライアント・フォード記念講座)教授

及び同スクールの研究ディレクター


スタンフォード大学博士(心理学)。彼女の最近の研究の対象は、日常の仕事における心理学的側面の探求である。具体的には、「インナー・ワークライフ」(inner work life)、つまり社員の仕事に対する気持ち・主観的態度が、創造性・生産性・コミットメントにどのような影響を与えるかを研究している。世界経済フォーラム(ダボス)やTED Talkでも講演。コンサルタントとして、IDEO、P&G、Motorolaなどにもアドバイスしている。



1. あなたの「Componential Theory of Creativity 」(直訳: 創造性の構成要素理論)は高い評価を受けた。それぞれの構成要素の具体例をあげて、その理論の概要を説明してほしい。企業の職場(現場)で、マネージャーがどのようにその理論を適用すれば、従業員の創造性を伸ばすことができるだろうか。

私の提唱する「componential theory of creativity 」(創造性の構成要素)では、個人が創造性的になるためには、3つの内的な構成要素と、もう1つの外的な要素が必要であると考える。では、内的な要素から説明しよう。第1の構成要素は、個人が創造性を駆使しようとする「分野についての専門知識」である。たとえば、ビジネスのシーンで、マーケティングの問題を解決しなくてはならない個人を考えよう。おそらく、その個人は新製品の発売計画を作成しなくてはならない。その分野におけるその人の専門知識とは、マーケティング分野について知っていることのすべて、その分野でできることのすべてを意味する。その専門知識には、その人のビジネスについての正式な教育、特に、マーケティングに関して受けてきた教育が含まれる。また、過去における類似問題に関する経験、具体的には、それに実際に取り組んだ経験、新製品発売に関する他者との非公式な打ち合せ、新製品のマーケティングに関して学習することができる環境におけるあらゆる事項に配慮することも含まれる。おそらくこのような分野に関する専門性には、先天的な要素もあるかもしれない。つまり、個人によっては、このような問題について考えることが生まれつき得意な者もいる。しかし、かなりの程度まで、このような専門性は、正式と非公式な教育や経験で左右される。分野に対する専門性が創造性の第1の構成要素となる。

第2の構成要素は、創造的に考える能力(創造的思考能力)であり、個人が関与し、解決策を見出そうとしている多様な分野で一般的に観察できる能力だ。この能力を、ほとんどの人がいわゆる「創造性」と考えている。創造的思考能力には、思考方法、問題から新しい側面を捉える方法、アイデアの間の新しい関係を見出し、また新規のアイデアを発想する観察方法が含まれる。例えば、個人のなかには、問題を逆さまにして、他人が考えもしない視点から問題を観察できる者もいる。これらの人々は、問題解決にあたって妥当な範囲でリスクをとるのが特に得意である。なぜなら、彼らは物事を、他の誰も(もしくは少数の者しか)見ない視点から観察できるからである。これらの創造的な人々は、困難に耐え、掘り下げて、新しい選択肢を探り、多種多様な発想をブレーンストームし、それから最高のアイデアに絞り込む能力を持っている。これらの性格特性や技能は、部分的に先天的なものであるが、訓練でも後天的に獲得できる。かなりの程度で訓練によって習得することが可能である。これこそが、創造的な問題解決(CPS=Creative Problem Solving)、シネクティクス(多様な分野の人が集まって自由に討論することによって問題の発見や解決を図る方法。創造工学)、トゥリーズ(TRIZ、発明的問題解決理論) など数多くの他の研修が目指している所である。より詳しく言えば、こうしたプログラムは、広範囲の創造的思考力を養成する目的をもつ。

第3の構成要素は、私の研究が最も焦点を絞っている要素である。それは、内因性動機付けである。つまり、それは、何か面白い、楽しい、個人的に挑戦できる、満足できるから、何かをやるという動機付けである。内因性動機付けの反対の概念が外的動機付けである。例としては、金銭や報酬、昇進、認知、締め切り、競争で勝ちたい意欲、好評価を得たいという願望がある。これらのすべては、外的な動機付けであり、仕事自体の特性とは区別されるものだ。私たちはみな、内因性動機付けと外発的動機付けの両方に向いている。そして、私たちの仕事にも両方の動機付けが存在する。しかし、ある人にとっては、内因性動機付けがより顕著であり、他の人にとっては、外発的動機付けの方が顕著になる。もちろん、こうした傾向は、部分的に人間の先天的な性格に依存しているが、内因性動機付けは、かなりの程度で、人々が働いている身近な社会環境によって左右される。この点が極めて重要である。

そして、この社会環境の議論が第4の構成要素を導く。それが、職場環境の要素である。これは個人の外部にある外的な構成要素である。この要素に関する重要な問いかけは次のようなものである。「職場環境が社員の仕事に取り組む内因性動機付けをサポートするか。あるいは、そうした環境には、内因性動機付けから注意をそらすような、あまりに沢山の外発的動機付けの要素と制約があるので、仕事における内因性動機付けにもとづくやる気が低下するか」。企業内のアンケート調査と観察調査に加え、数十年におよぶ実験研究を通じて、私たちが名づけた「創造性の内因性動機付けの原則」を発見した。人々が最も創造性を発揮するのは、外発的動機付けが原因ではなく、むしろ、内因性動機付けが主な動機付け(つまり、その楽しさ、興味、個人的な挑戦や仕事への満足感)として機能する場合である。

マーケティングの例に戻ると、仕事の場面では、社員にはもちろん、マーケティング分野の技能が必要である。また、新たな視点から問題を見て、問題が困難になってしまうときに耐える能力という創造性の技能も要求される。加えて、取り組んでいる問題に対して、内因性動機付けを持つ必要がある。その問題には自分の関心を引く何かがあると感じなくてはならない。おおむね、この内因性動機付けは職場環境に左右される。例えば、周りのチームで行われること、彼らに対する上司の発言、組織の文化、社内で何が行われるかである。私の研究の多くは内因性動機付けを支えるために、マネージャーは何ができるかを検討した。(加えて、内因性動機付けを弱体化させるマネージャーがよくすることも研究した。)より最近の研究が内因性動機付けの範囲を超え、仕事に対する社員の感情や認識の検討に発展してきた。



2. あなたの著書『The Progress Principle』(直訳: 進歩原則)のなかで「inner work life」(意訳:心の中に感じる仕事に関する気持ち)という概念を紹介されています。具体例を挙げて、この抽象的な概念を説明してください。なぜ、これが社員の業績を左右する要素になるのですか。

「Inner work life 」(意訳: 仕事に対する気分)とは、社員が仕事中の出来事に反応し、それを理解しようとするにしたがって体験する感情、知覚や動機付けの組み合わせである。第1の感情は、単に、起こっていることに対する人間の反応である。これらの感情は否定的にも肯定的にもなりうるし、穏やかなものまたは激しいものかもしれない。仕事中、何かが起こったら、嬉しく、または誇らしく思うかもしれないし、あるいは怒る、イライラする、怖がるまたは悲しく感じるかもしれない。

知覚が2番目の構成要素である。知覚とは、今起こっていることとその意味に対する社員の考え、印象、や判断から成り立っている。この知覚に含まれるのは、組織、自分の上司、上級管理職に対する自分の考え、判断、や印象である。また、同僚についての認識や自分がやっている仕事、そして、自分自身に関する認識も含まれる。

第3の動機付けは、今行っている作業に対するやる気のことだ。私たちは既に動機付けと創造性の構成要素理論の中のその位置づけを議論した。動機付けは仕事に対する気分の不可欠な部分である。内因性動機付けと外因性動機付けが同時に作用し、両者が補強し合うことが可能だ。しかし、私が述べたように、外因性動機付けがあまりにも顕著な場合、実際には、内因性動機付けを弱体化する。

仕事に対する気分とは、基本的に、日々の仕事に対する主観的で、心理的な体験である。仕事に対する気分という概念を理解するために、私たちは、10年間に及んだ主要な研究を行った。具体的には、社員たちが、組織内で創造的な基幹プロジェクトに取り組んでいた際、この気分が日々どのように移り変わっていたかを検討した。私たちは間近で、詳細なレベルで、社会的な職場環境の要素が、1日ごとに社員の内因性動機付けと創造性にどのように影響を与えるかを調査したかった。しかも、内因性動機付けと創造性を超える、より広い範囲で、検討したいと考えた。仕事に対する気分のあらゆる側面を検討したいと思い、感情と知覚・認識も研究の視野に入れた。また、創造性の範囲も越えて研究したかったので、仕事の成果の他のいくつかの局面も調査対象に含めた。この研究のために、社内で、重要で革新的なプロジェクトに取り組んでいた従業員を選択した。そうしたプロジェクトの多くは商品開発であった。顧客のために、複雑な問題を解決するプロジェクトもあった。しかし、すべてのプロジェクトは、成功するために新規性と実現可能性が要求された。実は、それが、創造性が意味することなのである。つまり、創造性とは、新規で、役立つ何かを、あるいは実現可能なものを作り出すことなのである。

この研究では、3つの異なる産業にわたる7つの企業に関して26個のプロジェクトに取り組んでいた238人の従業員が対象になった。彼らは、自分が関与していたプロジェクトの終了まで、毎日日記を書き続けた。その日記の内容は、電子情報の形をとり秘密は保持され、ハーバード大学のコンピューターに直接送信された。日記は、2つの部分で構成されていた。第1部は、参加者のその日の仕事に対する気分を表す動機付け、感情や知覚について尺度で評価を求める数字的な問いから成り立っていた。第2部が記述式のレポートだった。毎日、参加者がその日の出来事のなかで、印象に残る一つを説明するように求めた。それは、自分の仕事やプロジェクトに関係する限り、何でもよかった。参加者はプロジェクト期間中ほぼ毎日、つまり、週5回レポーを作成し、それは、平均で、一人、4ヶ月から4.5ヶ月の期間が続いた。長期間のプロジェクトの場合は、9ヶ月も日記を記録し続けた参加者もいた。最終的に、約12,000日分の日記の内容を収集できた。これらにくわえて、私たちは、参加者の上司と親しい同僚から参加者の業績に関するデータを、調査期間中、いくつかの時点で収集した。

私たちが、社員個人の仕事に対する気分を仕事の業績評価と照らし合せて分析したとき、最初の発見があった。それを、私たちは、仕事に対する気分の効果 (Inner Work Life Effect)と名づけた。社員の仕事に対する気分がもっとも肯定的な状態である日、週、月では、最も高い水準の成果を出す可能性が高かった。「Inner Work Life」を構成する3つ要素が、仕事の成果の4つの側面に有意に関与していることが明らかになった。第1が、従業員が職場環境に関する感情つまり、組織、同僚や上司に対する気分が一番肯定的だった時である。第2が、従業員の感情の状態が最も肯定的で、陽気なときである、そして、第3が、仕事に対する内因性動機付けが一番高いときである。こうしたケースでは、従業員が創造性を発揮する確率が最も高くなる。同時に、彼らの生産性も高くなる可能性が高まる。くわえて、仕事に対してコミットメント(責任)を示す可能性も高まる。そして、最後には、お互いが良い同僚になる傾向が強まる。これらの結果は、「inner work life」の3つの側面が、動機付けだけでなく、業績に対しても、大きな影響を与えていることを示す強力な指標であると、私たちは思っている。

例えば、ある人が、ある日、感情の状態がもっと肯定的なら、その日のみに、創造的な考えを発想したり、創造的に問題を解決したりする可能性が高くなるではなく、その翌日も、同様の結果になる可能性が高くなる。それは、翌日の気分とは関係ない。これこそが、業績に対する「inner work life」の影響なのである。



3. 部下の「inner work life」を改善するために、上司は何をすればいいでしょうか。

あなたはマネージャーが何をすれば、直属の部下の「inner work life」が改善できるかと尋ねた。では、その点を明確にしよう。マネージャーが「inner work life」を改善するために、感情的知性の天才になる必要はない。それが必要だとは思わない。また、絶えず、職場を歩き回り、部下を元気付ける必要もないと思う。もちろん、マネージャーが部下の感情の状態を深く掘り下げる必要もない。実際、それは非常にまずい考えだと思う。重要なのは、「Progress Principle」(直訳: 進歩原則)に注意を払うことである。

では、進歩原則について説明しよう。それは、上司が部下の「inner work life」を支え、人々が自分の肯定的な仕事人生を維持するために役だつ鍵となるものである。実際、個人は自分自身のためにこれができる。「inner work life」の効果を発見したのち、私たちは、何がその原動力になっているかを探ることにした。もし「inner work life」が業績を左右するのなら、何が「inner work life」に影響を与えているだろうか。この質問に答えるために、私たちは12,000個の日記を掘り下げた。社員が書いた全ての物語を読み、彼らが記録した出来事をおよそ64,000個のエピソードに分類した。彼らの仕事に対する気分が最高だった日々、つまり、社員たちが肯定的な感情や知覚を感じ、内因性動機付けが最も高かったときを検討した。これらの日を他の日と区別するために、それらの日に何が起こったかを分析した。その結果、社員たちが仕事に対する気分が一番良かった日には、目立つ頻度で、いくつかの肯定的なできごとが起こる傾向が強いことが分かった。

そのような出来事のなかで、他のすべてよりも際立ったものがひとつ存在した。その出来事は、意味のある仕事で進歩したという単純なことだった。それは、その人が、重要で、価値があると考えた仕事で、大切とみなしていた目標が達成され、仕事が前進した場合だった。これを、私たちは「Progress Principle」(進歩原則)と呼んでいる。一方で、私たちは、進歩原則には暗い側面もあることも発見した。社員の仕事に対する気分が最悪だった日に起こる最も顕著な出来事は、進歩の反対、つまり挫折だった。こうした日は、社員の仕事が妨げられ、行き詰まり、もしくは、仕事が何かしら後退してしまっていると感じていた。

社員たちが、とても漸進的に見えるような進歩を体験していたときにも、進歩原則が当てはまることが分かった。比較的小さい段階で仕事を前進させることは、その日に仕事に対する気分を劇的に改善する可能性がある。私たちは、これを「ささやかな成功の力」(power of small wins)と名づけた。事実、肯定的なものも否定的なものも含めて、28%のささやか出来事が、その日の仕事に対する気分に大きな影響を与えたことが分かった。また、否定的な出来事が否定的な方向に影響を与える度合いのほうが、肯定的な出来事が肯定的な方向に影響する度合いよりも強くなる可能性があることも分かった。この結果は、小さな出来事、大きな出来事を含め、すべてに当てはまる。もっと正確に言えば、挫折を経験し、自分の仕事が阻害された場合、仕事の進歩の肯定的な影響と比較すると、仕事に対する気分に対して、3倍から4倍程度の否定的な影響が発生する。

これらの結果はマネージャーに対していくつかの教訓を示唆する。そのひとつは、彼らは本当にささいなことでも気にかける必要があることだ。部下の主要な仕事の遂行を妨げるような日常の面倒に対して注意を払う必要がある。Jim Collins氏 (『Built to Last』を書いたアメリカ人のコンサルタント)が呼ぶ「大きくて、困難で大胆な目標」 (BHAG: big, hairy, audacious goals、ビーハグ)、つまり、高尚で、意欲的なプロジェクトの目標をもつことは素晴らしいことだ。大胆な目標は本当にやる気を起こさせる。しかし、人々に、より頻繁に小さな成功を体験してもらうには、大胆な目標をもっと小さなレベルの中間的な目標に分割すべきである。社員たちは、自分がもつ仕事に対する決定権に応じて、自分で、目標を分割することができる。プロジェクトを前進させながら、自分で中間目標を設定し、より頻繁に前進している感覚を体験できる。これが、マネージャーにとってのひとつの教訓である。

私たちは、日記の記録に戻り、マネージャーが社員の仕事の前進を支えるために何ができるかを確認した。以前の質問に対する私の答えを思い出してほしい。社員の仕事に対する気分(inner work life)を醸成するために、社員の仕事の前進を支えなくてはいけないと答えたことだ。これが、マネージャーができるもっとも重要なことである。仕事の前進は、社員の仕事に対する気分に対して、それほど強い影響を与えているし、挫折は、反対方向へ向かう強力な効果をもっている。このため、マネージャーは、私たちが「catalysts to progress」 (直訳: 前進の触媒、以下、促進要素という)と呼ぶ行動に注意しなければならない。従業員の仕事の前進を促進させるような7つの要素を私たちは発見した。それらの促進要素の多くは、直属の上司も含めて、マネージャーが強く支配できるものである。

第1の促進要素は、意義のある仕事における明確な目標である。社員たちは何をしているか、そしてなぜ重要なのかを理解する必要がる。第2の促進要素は、仕事に対する決定権である。社員が明確な目標をもつことを確かなものにするために、マネージャーはプロジェクトに関係して社員がする全ての作業を微細に至るまで管理(マイクロマネジメント)する必要はない。実際、マイクロマネジメントされたら、社員が新たな解決策を探し出し、自分の特別な知識を使って、問題の取り組み方を決定する余地がなくなってしまう。明確な目標と仕事に対する決定権は、前進の促進要素の2つの基礎なのである。

加えて、従業員が、仕事に対する必要な援助を得ていると感じなければならない。仕事が困難になったときに、従業員は、前進を可能にする情報と専門知識を手に入れる必要がある。また、従業員は仕事に関する十分な資源を必要とする。そうした資源が贅沢である必要はないが、十分でなくてはならない。その場合、社員が委譲された仕事の代わりに、必要な資源を探すことに時間を割く必要がなくなるからだ。

もうひとつの促進要素は、成功のみから学ぶだけでなく、問題から学ぶことに由来する。これは、促進要素の中で最も重要であり、同時にマネージャーにとって最も難しい要素である。なぜなら、この要素は、社員が安心と感じる職場環境の構築を要求するからだ。従業員たちが、仕事のなかで失敗した実験と誤りを正直に打ち明けても良いと感じる必要がある。複雑で、革新的な仕事を行う場合、失敗や誤りは不可欠なものである。あなたが、誤りをおかさずに複雑な作業を遂行しているならば、あなたは創造性を発揮していないといえる。基本的に、マネージャーは本質的に次のような発言をする必要がある。「いつ、誤りが発生したかを知りたい。そうすれば、何が発生したかを確認でき、前進するためにその誤りはどのような意味をもつのかを理解することができる」

マネージャーは間違いと失敗を無視してはいけない。また、責任者を厳しく罰してはならない。そうすれば、将来、リスクを回避するようになってしまうからだ。これらの過度な反応は、挫折に対応する効果的な方法ではない。上層から下層までのすべてのマネージャーが失敗や間違いから学べる安全な職場環境が整えられている。そのようにみえる企業は私たちが研究した7社の中では1社しか存在しなかった。それは、その会社の雰囲気であり、従業員の仕事の仕方であった。もし何か問題が発生したら、彼らは次のようにいうだろう。「では、打ち合わせをしましょう。何が起きたか。この失敗からどのような有益な教訓を学んだらいいですか」。他の会社では促進要素の実施はそれほど成功していない。実際に、この点で最悪だった会社が数社存在した。

他の促進要素もあるが、すべては私の本に紹介さてれている。このインタビューには時間の制限があるために、そのすべては説明しない。いずれにしても、促進要素は、仕事の前進だけでなく、その延長として、肯定的な仕事に対する気分(inner work life)を醸成することにつながることを強調したい。

マネージャーも「inner work life」に直接影響を与える行動がとれる。私たちのデータでは、促進要素ほど、目立たなかったが、それでも重要である。私はそれを「nourishers」 (助長要素)と呼ぶ。人間の士気を高める要素である。これに対して、「toxins」(毒素)は、助長要素の反対の意味をもつ。

助長要素は明確で把握しやすい。例えば、尊敬と基本的な礼儀正しさは助長要素に含まれる。称賛、つまり、公的そして個人的に社員たちの貢献を褒めることも助長要素である。仕事が困難になるときに、励ましと感情的な支えが特に重要な助長要素となる。従業員が私生活や仕事のうえで困難な時期を経験しているときに、単に自分の理解を示すだけで効果を生む。そうした行為そのものが従業員を支援することになる。最後に、友好関係と帰属感覚、すなわち、同僚たちが人として知り合い、信頼し合うようになる機会を提供することも助長要素として機能する。この効果は仕事のすべての面に当てはまり、従業員がより効果的に協力する確率を高める。



4. 日本のような危険回避志向の強い国で、起業家活動を促すために、何が必要ですか?

危険回避の態度を克服するのは難しい。しかし、組織において、人々は、危険回避傾向を克服するためにいくつかの対策をとることができる。例えば、熟年の社員は若年社員と接触を保つことができる。自分自身がマネージャーまたは幹部の場合は、後輩でもいいし、個人で働いている熟年の社員の場合は若い同僚でもいいだろう。なぜなら、若い社員はしばしば異なる視点をもっているので、耳を傾けるとよい。つまり、彼らから学ぶことができる。さらに、若い社員のほうが現在の機会をより詳しく把握しているかもしれない。新しく、斬新な発想に心を開き、若者文化に対して受容の態度を保つことが、リスク回避志向の態度を乗り越えるのに役立つ。

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皆さんのビジネスリーダーとしての知識欲をさらに刺激するために、毎月、2回の頻度で、「アメリカ・ビジネスの最前線」を主な対象にして、「アメリカ・ビジネスでいま何が起こっているのか」「どのような最新技術に注目が集まっているのか」「日本や日本製品はアメリカでどのように評価されているのか」といった点について、アメリカ人としての見解を掲載します。日本のメディアでは、日本人による単一的(あるいは一方的)な見解が主張される傾向が強いように思えます。このブログ記事では、「世界には多様な考えがある」ということを日本の読者に具体的なテーマで知ってもらうことを意識しています。日本や日本人に対する外国人の見解、考え方を知ることで、読者自身の世界観を広げ、最終的にはビジネスチャンスにつなげてもらえればと願っています。とりあげてもらいたい「旬の話題」や建設的なご提案など、お気軽に著者までご連絡いただければ幸いです。

ジョセフ・ガブリエラ  博士/MBA
東洋大学
gabriella@toyo.jp
jjapan1802@yahoo.co.jp

「世界のどこでも働ける日本人になろう」

「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!」

「Venture Into Japan」

杉本 有造  博士/MBA
IES全米大学連盟・東京センター
(The Institute for the International Education of Students, Tokyo)講師
gpmalibu@yahoo.co.jp

© 2015 Joseph Gabriella, Ph.D., MBA. All rights reserved. 無断複写・転載を禁じます。
バージニア大学ダーデン・スクール(経営大学院) ジーン・リエドカ教授
「デザイン思考」の最先端を語る!





今回は、現在、バージニア大学ダーデン・スクール(経営大学院)の教授で、以前、同大学のMBA(経営修士)プログラムの副学長であったジーン・リエドカ博士を紹介します。実務経験豊富なリエドカ教授は学者になる前に、United TechnologiesのChief Learning Office (最高人材・組織開発責任者)でした。専門分野はデザイン思考です。教授が説明するように、戦略分析に用いる道具や手法はたくさん存在するが、その一歩前の戦略を考えるプロセスについての原則・手法が十分に開発されていません。リエドカ博士はデザイン思考の行い方、しかもそれをイノベーションと会社の成長に結び付ける手法を講義と書籍を通じて、広めています。彼女の著作には、2009年に出版したThe Catalyst: How You Can Lead Extraordinary Growth、Designing for Growth: A design thinking tool kit for managersとDesigning for Growthなどがあります。



1. 具体例を挙げて、デザイン思考の概要を説明してください。この分野における現行の理論や実践の背景には何がありますか。


(1)「デザイン思考」は問題解決の代替手段

私は、デザイン思考を単に問題解決アプローチの代替手法だと考えている。ビジネスの世界では、すでに思考ツールがたくさん存在し、かなり洗練された伝統的な、計量分析のツール・キット(思考道具)もある。私が所属するバージニア大学ダーデン校(経営大学院)のMBA学生のための訓練を例にしよう。当校で欠けていると思うのは、ビジネスに関するアイデアの創出を支援するツール・キットである。自分の専門分野である経営戦略で利用される思考の枠組みを考えると、すでにある思考ツールはアイデアの分析のための枠組みであり、アイデアを創出するものではない。これまでかなりの期間、いわゆる「イノベーション(技術革新)」のプロセスにおける『曖昧な前半分』」(“fuzzy front end” of innovation)について企業のマネージャーを支援することが急務であると私は感じていた。

私はもともと企業の有機的成長(社内の経営資源を活用した本業重視の成長)を研究していた。経営戦略の教授として、企業のマネージャーに戦略上の一番の苦労について訊くと、いつも「事業における有機的成長の機会を見極めることだ」という回答が返ってきた。私はそうした答えに苛立っていた。経営戦略分野にはマーケル・ポーターのファイブ・フォース分析やSWOT分析のような枠組みがたくさんある。でも、どれもマネージャーが創造的に有機的成長の機会を考えることを支援していない。私のこの苛立ちが部分的なきっかけとなって、市場の平均成長率を大幅に超えるスピードで、自社事業の成長(つまり有機的成長)に成功しているマネージャーに関する研究に取り掛かったのである。

彼らを観察しているなかで、彼らの行動はあるときは科学者に似ているし、あるときはデザイナーに似ていることに気付いた。実験的なやり方を採用し、プロトタイプを製造したり、小さな賭け(リスクテイク)をしたりしていた。自分が売ろうとしていた商品に焦点を当てる代わりに、顧客を詳しく理解し、何を達成しようとしているかに注意を払っていた。これらのマネージャーは「学ぶ姿勢」を示した。すぐに「正解」に到達することを期待せず、試行錯誤の繰り返しで正解が見つかるという期待を持っていた。マネージャーはときどき、間違うことを予想し、それにもとづいて、途中でより良い解決策を工夫できると期待していた。


(2)有能なマネージャーはデザイナーに似ている 

私の研究データを分析した際、大成功を収めた「企業に成長をもたらしたリーダー」がデザイナーのように自然に行動していた度合いに驚いた。そのとき、行動があまり自然に感じられないマネージャーに、これらの行動を教えられるかどうかの可能性を考え始めた。それがデザイン思考の私の関心の原点だった。もちろん、当時、ビジネス系雑誌でも、アップル社やIDEO(デザイン系コンンサルタント会社)のような企業に関する議論がかなりあった。しかし、アップルの際立った業績は、ビジネスメディアの主流だった人々に、それ以前は注目しなかった「デザイン」について議論するための刺激となった。

これらすべての要素がひとつになって、私は、IDEO、Frog、Continuum、Jumpのようなデザインコンサルタント企業の方法論に注意を払うようになった。特に、こうした企業が具体的に何をやっていたかを詳細に観察し、これらの組織のツールやプロセスを「言語化」し、デザインの訓練を受けたことのないマネージャーが利用できる手法を抽出しようと考えた。私たちが最終的に開発して、ダーデン校で教えている方法を通じて、「創造性豊かなアイデアの創出の前半の部分」と「厳格かつ分析的で、仮説に基づいた後半部分のプロトタイプの製造部分」を統合させるべく努力している。私たちの目標は、どんなマネージャーでも自社事業のイノベーションを刺激する方法を探すのに役立ち、同時に教えることができる教材を生み出すことにある。

こうした考え方は何十年も前から存在している。私たちが執筆したもの、さらには開発したモデルを検討すれば、いろいろな意味で、何も新しい発明がないことが分かる。私たちが行ったことは、既にあるものを「翻訳」しただけである。デザインを専門としない人にとって往々に把握しにくい概念を、マネージャーが理解できる言葉に書き直したのである。「ユーザー・フレンドリーネス」(使いやすさ)、つまり、企業のマネージャーが利用できる教材を作ることが、この研究における私たちの第一目的となった。



2. アップル、IDEO、 IBM、MeYouHealth、とThe Good Kitchenがデザイン思考を採用している会社の例として指摘されています。その結果、こうした企業にとってデザイン思考がどのように業績に繋がっているのでしょうか。企業は、どうしたら、デザイン思考の便益やROI(投資収益率)を測定できますか。一般的に、デザイン思考を採用する際に、どのような費用が発生しますか。

(1)デザイン思考の効果測定

適切な測定値を設定するのは、解決しようとする問題によって異なってくる。デザインについての私の関心のきっかけとなった有機成長の分野では、測定方法はシンプルである。従来の成長と比較し、デザイン思考が成長率を引き上げたかどうか。しかし、同時に、デザイン思考はより測定しにくい多くの他の便益を生むと私は個人的に思っている。いずれにしても、デザイン思考に対して、一般的には、有機的成長、収入、収益性など、注目される測定可能ないくつかの成果指標群がある。

3M社の場合は、営業担当者と顧客との間のコミュニケーションをもっと豊かにするためにデザイン思考を使っているので、営業担当者にその効果を確認することができる。顧客が営業担当者とより意味のあるコミュニケーションをしているかどうか確認するために、その成果を顧客にも訊ける。IBMでは展示会を刷新するために、デザイン思考が採用された。展示会の出口で、「Hot Leads」という手法を用いて、展示会の影響を受けて見込み客になりそうな出席者の数を調べることができる。これは測定可能な数字だ。The Good Kitchenではデザイン・チームの努力の結果、人々が追加的に求めた食事の回数が測定される。

この意味で、ひとつの段階では、解決しようとする問題に関連した具体的な測定値がたいてい存在する。この数年間にデザイン思考の分野を検討して学んだことのひとつは、収入の成長を刺激するための利用は、単に一つの使い方に過ぎないということである。実際、私たちが研究してきた事例の多くは、社内プロセスの再設計のような幅広い種類の作業に対する個人的な利用についてである。特に、政府と非営利団体の分野では、デザイン思考の適用はとても有望であると私は信じている。このようにデザイン思考を様々な方法で使えるために、デザイン思考の利用を通じて達成したい目標によって測定方法が異なるといえる。


(2)もちろん測定困難な効果もある

前述のとおり、測定しにくい結果も存在する。私たちは、ある解決法の内容を改善する機能に焦点を当てているにもかかわらず、デザイン思考を検討しきたなかで、チームが協力するプロセスも劇的に改善できると信じるようになった。デザイン思考の手法の多くは、共同で用いるものだからである。創造性の分野を検討すると、想像性豊かなものを作り出す主な材料の一つは多様な考え方の存在であることが分かっている。このため、創造的な結果を目指しているチームには多様な考え方を持つ人々が必要不可欠となる。しかし、考え方が多様な人間を同じチームに入れた途端に、合意の達成が困難になる。彼らは討論したり、喧嘩したりする。多数の学術研究は、多様なチームの便益の多くは、何かを達成するために、メンバー間でさまざまな意味や解釈を調和させるのに必要な時間と引き換えに失われてしまうことを示している。

デザイン思考の協力促進ツールは、チームの世界観を合わせること、問題の定義、そして最終的に良い解決法の基準を整理するのに役立つ。初期段階でチームをこれらの課題に合わせられれば、違う代替案の選択に関連したきりのない議論や遅延に伴う時間を大幅に削減できる

これらを踏まえ、いかにチーム学習や効果の結果を計測すればよいだろうかという質問にもどろう。もちろん、学術研究者は確かにそうしたものを測定していているが、ビジネスの世界ではその便益が見極めにくいときもある。でも、最終的には、これらの測定しにくく、視認しにくい便益こそが、デザイン思考が生み出すもっとも強力な結果になると私は思う。



3. あなたは、博士号を取得する前に、経理や金融の分野でかなりの経験を積みました。その経験に基づくと、左脳思考型で、数字を取り扱うことを仕事とする人は、デザイン思考の研修が終わってから、どのように変わりますか。ご自身のコンサルタントとしての経験や研修から、興味深い例を挙げて説明してください。


(1)左脳思考とデザイン思考

デザイン思考の研究に移る前に、企業の有機成長の研究を通じて最初に学んだ教訓は次の点だ。つまり、どんな種類の人物が創造的か否かについての私たちの固定概念が基本的に間違っているということである。有機成長の研究のサンプル(標本)には、創造性が豊かではないと考えられていたエンジニアや会計士が多く含まれていた。これは、私たちが直面しているビジネス上の問題の一部だと信じる。私たちは、(アップルの共同創業者である)ステーブ・ジョブスのような人物が創造性の唯一の源泉であるという神話を持っている。確かに因習を拒否した彼らは、創造性を猛烈に発揮している。彼らは自らの個性によって、私たちとは違った方法で物事を見る。しかし、この神話は正しくないことが分かっている。創造性を発揮する方法はたくさんあるのだ。

例えば、データに基づいても創造性は発揮できる。私がブレーンストーミングに参加させられ、安全ピンの新しい使用方法を10個考えろといわれたとしよう。何もデータを提供されなければ、私は多くの使用方法を考え出せないだろう。私はこの種の創造性に卓越していない。しかし、顧客について、洞察を探求できる詳細なデータを提供してくれれば、そうしたデータをデザイン上の基準に読み換えることができる。それらの基準に沿い、ブレーンストーミングをしろといわれれば、私はかなり創造的になれるだろう。


(2)会計士はデザイン思考に向いているか?

これが中心問題だと思う。「真空」の中で創造性を発揮してもらおうとしたら、数字的な作業に慣れているエンジニアや会計士はあまりうまくやれないだろう。しかし、データの使用に長けていて、うまくパターンを認識し、テーマを見極める私たち(エンジニアや会計士)はデータに基づいたプロセスに対処するのは得意である。学会でよく私たちがいう冗談は、研究者は個人的な問題に関する研究に引かれるというものである。もしかしたら、私自身がそれほど創造性豊かな人間ではないからこそ、創造的な作業に魅了され、デザイン思考やその研究に引かれるのだと思う。私自身が創造性のプロセスに長けていないからこそ、教育者として、あまり創造性豊かでないと自信を持てない人たちをどうように支援したらいいのか、という問題に関して強い共感をもっている。

私は、デザイン思考に苦労する会計士の一人かもしれない。一方で、会計分野で仕事を始めた多くの人々が想像性豊かなデザイン思考に卓越していることがわかった。私が好きな話のひとつが、所得税の税務コンサルタント業を営む会計事務所についてである。その企業の組織内には弁護士や税理士がいっぱいいる。この事務所では、プロトタイプに基づき、顧客とコミュニケーションをとるために、デザイン思考を応用して顧客対応のプロセスを再設計した。デザイン思考に関する私の最初の本のなかで、この話を紹介している。この会社は、デザイン思考のツールを使えば、弁護士や税理士で成り立っている組織でも素晴らしい成果を達成できることを証明している。

この組織が成功した部分的な理由は、会計士、弁護士、エンジニアが強い自制心をもっている事実に由来するかもしれない。彼らはプロセスに対してとても注意深く対応する。学習プロセスに要求されるひたむきな努力に耐え、技量の改善に固執する傾向が強い。これらの専門家に(デザイン思考の)プロセスを導入したら、彼らはそれに勤勉に取り組む。私たちがデザイン原理をエンジニアに教えると、ほとんどの者が月曜日に仕事に戻ったら、それを適用する。彼らはプロセスに積極的に取り組み、結果を計測し、さらに改善するように努力する。

創造性豊かだと思われている社員は、月曜日に仕事に戻るときに、以前と同じやり方をそのまま続けることもある。そうした社員は、意欲や自制心に欠けている。あるいは、「創造性を発揮するために、なぜデザイン思考のプロセスが必要なのか」と疑い、デザイン思考のプロセスに真剣に取り組む必要を感じない。逆説的ではあるが、創造性を発揮しそうにもない人物に、これらのデザイン思考のプロセスを教える場合が多くの成功につながるといえる。



4. 左脳と右脳をつなぐ脳梁に関して、男性より女性のほうが、20%ほど密度が高いという研究があります。この結果は、女性がデザイン思考により適しているという仮説につながります。デザイン思考を理解し、適応する能力は女性と男性で異なりますか。この分野を研究するあなたの実践的経験から、その点をどのように考えますか。


(1)男女の差異とデザイン思考

私たち学者は、ジェンダー(男女の差異)のような課題について一般化するのをためらう。しかし、明確なレベルで、女性が男性より自分の感情を快適に受け入れ表現することが知られている。また、平均的に、女性は男性より他人の感情を認識している。デザイン思考には、「共感」からスタートし、人々にインタビューし、自分の感情について話してもらうようなタイプの市場調査が含まれる。そうしたことから、女性は、一般的に、男性に比べ、デザイン思考のプロセスを快適に感じる。それは、まさに、私たちの社会で、(女性の)行動について教えられていることと関係している。長い間、多くの社会で、女性は「感情の管理者」となってきた。それが、私たち、つまり女性の役割である。子供を育てたり、他人の成長を助けたり、コーチングをしたり、他人のニーズに対応したりしている。女性たちは、他人のニーズを読み取る傾向が強い。デザイン思考では、女性がもつこれらの技能がとても役立つ。デザイン思考の概念に対して、ビジネスの現場では、女性は男性より身近な感覚をもち、それが彼女らの利点になっていると私は信じる。

逸話的に言えば、デザイン思考が仕事に不可欠である管理職には、女性が多いことが観察できる。私と共著者が、『The Catalyst』というタイトルの企業の有機的成長についての書籍を執筆したときに直面した困難のひとつは、インタビューできる「組織の成長を目指すプロジェクトを率いる女性のマネージャー」を見つけることだった。確かに探すのに苦労した。その本のために、女性の物語の代表例を探し続けた。

一方で、『Designing for Growth』というデザイン思考に関する私たちの最初の本を書き始めたとき、「数人の男性を見つけないと、この本は女性についての事例研究書になってしまう」と私たちは冗談を言い合った。その本で対象とした企業では、設計サービスやユーザー・エクスペリエンス(顧客体験)の分野には女性が多かった。伝統的に、デザイン思考を採用しているあらゆる分野の担当者は、不釣り合いなほど女性が多かった。企業との付き合いを通して、女性が男性より不利な立場である他の分野とは異なり、デザイン分野では女性が男性より有利な立場にあることを私は理解した。女性に伝統的に与えられてきた役割を踏まえれば、この状況は当然だといえる。

伝統的なビジネスの行い方(左脳型の仕事の仕方)は私たち女性が育ってきたときに行動するように教えられた方法(つまり、感情の管理者、右脳型の仕事の仕方)と矛盾している。そうしたなかで、デザイン思考の原則が女性の育てられ方に適合することは女性にとって随分励みになる。もちろん、デザイン思考が女性のための「ピンク色のゲットー」(女性特有の固定的な仕事、往々にして低賃金の業務)のためのものになることは望んでいない。そうなると、組織内で、デザイン思考が単に「極端に軟派な仕事」と思われ、低く評価されてしまうだろう。この意味で、デザイン思考が不可欠な事業分野が主として女性に率いられていることは、「痛し痒し」の状況にあるといえるかもしれない。



5. ピクサーとグーグルは、革新的な職場環境をもっていることで有名です。こういう職場環境とデザイン思考の普及の間には正の相関関係があると思いますか。また、ある種の職場環境がデザイン思考を刺激すると思いますか。


(1)物理的な環境とデザイン思考の関係

最近、私はこの話題についての記事を読んだ。現在、学者の注目を集め始めている面白い研究分野であると思う。教育の観点からいうと、物理的な環境によって大きな違いが生まれることが分かっている。ダーデン校でデザイン思考を教え始めたとき、当校は伝統的で事例研究中心のビジネス・スクールだった。すべての教室には、ハーバード・ビジネス・スクールにあるような階段状に並んだ固定された机の列があった。その配置は事例研究にもとづいた指導を行うには最適な環境である。しかし、デザイン思考はこういった環境では教えることはできない。

デザイン思考の授業は、人々がテーブルの周りに一緒に座り、チームとして作業することができるような広くて開放されたスペースを必要とする。視覚資料を作ったり、壁にアイデアを書いたメモを貼ったりすることができなければならい。伝統的な企業の会議室には、役に立たない大きなテーブルが部屋の中心にある。壁は絵画で飾られているため、ポスターや展示品を設置する余裕はない。これらの会議室は、デザイン思考に必要な環境の正反対の状態にある。ダーデン校でデザイン思考を教えるために、新しいスペースを建設しなくてはならないことを私たちは直接学んだのである。


(2)「ウォー・ルーム」が必要

企業にも同じ考え方が当てはまると思う。デザイン思考を行うために、高価な資源が必要なわけではない。ただ、テーブル、椅子、スペースの広い壁がある未使用の部屋さえあればよい。このような部屋の設置の費用はそれほど高くないが、ほとんどの組織にはこうした施設はない。最新の研究によると、キュービクル(小さく区切った作業用スペース)は必ずしも悪いわけではない。人々は自省のためにプライベートなスペースを必要とする。完全に開放的な環境ではかえって気が散ってしまう。他方、協力を促進するために、キュービクルの空間を補足する広い空間が必要となる。つまり、キュービクルが悪いのではなく、それだけでは不十分だということだ。

デザインは極めて共同的な作業のため、人々が協力できる開放的な空間が必要となる。IDEOやJumpのようなデザインスタジオへ行けば、「ウォー・ルーム」(直訳: 戦争の部屋)と呼ばれる部屋があることに気づく。プロジェクトチームは、視覚資料を壁に張ったままにしておけるような自分たちの部屋を持っている。そうした部屋を使えば、他人が部屋を使えるように、資料を取り外し片付ける必要もない。その結果、部屋の壁がプロジェクトの展開や進捗状況のストーリーを物語ることになる。上司が進捗状況を知りたいと思うときは、彼/彼女を部屋に案内するだけで十分である。この質問が示唆するとおり、こうしたデザインのための空間を作ることには大きな潜在力が秘められていると考える。

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本の概要

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本ブログの著者ジョセフ・ガブリエラと杉本有造は、両者ともにMBAの保有者であり、英語と日本語の両方でエレベーターピッチを実施する豊富な経験を有しています。くわえて、両者の経験を活かして、ビジネスパーソンに対して、仕事の現場で直ちに活用できるエレベーターピッチの技法について指導しています。エレベータースピーチのテクニックを習得したいと思われている方に、二人の共著『エレベーター・スピーチ入門~アメリカビジネスで成功するためのプレゼンテーション&自己イメージ作りの技法』を読まれることを強くお勧めします。

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また、グローバルコミュニケーション能力の養成にご興味のある方は、我々が実施している研修にもご興味をもつと思います。研修の詳細は以下のリンクをご確認ください。

このブログは、ジョーが執筆し、皆様にお届け致します。ジョーことジョセフ・ガブリエラ は、2000年に来日したアメリカ人。格闘技ファンなら誰でも知てる、K-1ファイターのアンディー・フグ氏にそっくり!1989年米国ワートン・スクールを卒業。その後ペパーダイン大学を皮切りに、イリノイ大学、南フリダ大学を卒業。MBAを含め2つの修士号と博士号を取得しました。日米合弁IT関連企業、スイス系証券会社、米系銀行、そして日系外食企業など幅広い業界の勤務を通して様々なビジネス経験を積みました。趣味は、水泳、読書(村上春樹氏の大ファン!)、ピアノ、そして様々な国の言葉を勉強する事です。ちなみに、2年前から新たに中国語勉強に励んでいます!この記事についてのご質問、感想、また意見を歓迎します。また、共同研究者である杉本有造氏とともにコンサルティング業務も行っていますので、お気軽にご相談ください。

また、次のような「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!!」をテーマにしたブログも公開しているので、あわせてご一読いただければ幸いです。

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ジョセフ・ガブリエラ  博士/MBA
東洋大学
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© 2014 Joseph Gabriella, Ph.D., MBA. All rights reserved. 無断複写・転載を禁じます。
「補完的生産者」(コンプリメンター)は、ポーター理論を「補完」する6番目の競争要因だ!


バリー・ネイルバフ博士は、ゲーム理論にもとづき、プラスサム型のバリューネット(価値相関図)における「補完的生産関係」ならびに「補完的生産者」(complementors)を提唱する。たとえば、医者と製薬会社、州際高速道路と自動車、映画とポップコーン、ホットドッグとマスタード、マイクロソフトとインテルなどを想像してみよう。これらの商品の組み合わせは、補完的な関係にあり、この補完的な関係により、新たな市場を創造している。
経営戦略論の泰斗マイケル・ポーターが提唱する「ファイブ・フォース・モデル」(5つの競争要因)は、産業競争の静的な分析フレームワークだとされる。このモデルは、「一方が得をすれば、もう一方がその分だけ損をし、全体としてはプラスマイナスがゼロとなる」ゼロサムの競争状態を前提にしている。
それに対し、ネイルバフのバリューネットは、補完的な生産関係により、全体の市場が拡大し、各社の市場もそれに応じて拡大するプラスサムを前提にする動的な戦略分析フレームワークである。
ネイルバフが、このインタビューで語るように、バリューネットは、ポーター理論と対立するものではない。ネイルバフは、補完的生産関係は、ポーター理論の6番目の競争要因として考えることができ、ポーター理論を「補完」するものであると主張する。(ただし、ネイルバフによれば、ポーター博士はこの補完関係を6番目の競争要因として認めていない)。
ネイルバフは、ゲーム理論や経営理論の研究だけでなく、実際のビジネスでも大成功を収めている。それが、低糖アイスティー「オネスト・ティー」社の創業だ。甘いもの大好きのアメリカ社会で、「甘くないアイスティー」を普及させる壮大なプロジェクトは、ひとつの起業ストーリーとしてもたいへん興味深い。
聞く者(読む者)の注意をけっしてそらさない、博学多才なネイルバフのイェールからのレクチャーを、このインタビューを通じて存分に楽しんでもらいたい。
(2014年5月22日 インタビュー実施)


<プロフィール>

バリー・ネイルバフ博士(Barry Nalebuff)。イェール大学経営大学院教授。英国オックスフォード大学(博士/修士)。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)卒業。専門は、ゲーム理論と経営戦略論。ニューヨーク大学経営大学院のアダム・ブランデンバーガー教授との共著『コーペティション』で、ゲーム理論にもとづき、「バリューネット」(価値相関図)と「補完的生産者」(complementors)を提唱。コンサルタントも実施しており、顧客にはアメリカン・エキスプレス社、GE社、グーグル社、マッキンゼー社、NBAなど。イェール大学での教え子、セス・ゴールドマン氏を共同で低糖アイスティー「オネスト・ティー」社を創業し、大成功を収めた。現在、同社は、コカコーラ社に買収され同社の子会社になっている。オネスト・ティーの創業を紹介したマンガ『ミッション・イン・ア・ボトル』(Mission in a Bottle)も好評発売中。



1. バリューネット(価値相関図)とは何か?

「バリューネット」(価値相関図)の概念を明確に示す企業または産業の最近の事例を紹介してください。


(1)補完的生産者とは?
バリューネッはゲームの様々なプレイヤーに対するより豊富な考え方である。これは伝統的な視点だが、資金が顧客から企業へ流れ込み、そこからサプライヤー(供給業者)へ流れる垂直な関係がある。競合企業間の水平的な関係があることも理解している。しかし、補完的な生産関係にある企業(complementors)とその関係には注目されていない。補完的生産者(conplementors)は、競合企業と対照的な役割を果たす。競合企業は自社商品の価値を減らすのと反対に、補完的生産者はその価値を高めるわけである。実際、その意味で、競合企業より、「代替商品の提供企業」と呼んだ方が適当かもしれない。

代替商品や補完商品は、(需要サイドだけでなく)供給サイドでもありうる。ハーバード大学とイェール大学は(需要サイドで)顧客(学生)を獲得するために競争している。同時に、供給サイドでも教員の採用のために競争している。ハーバード大学の教員になる学者は、イェール大学では教えない。一方で、例えば、ハーバード大学の教授がイェール大学の教授が使うケーススタディー(事例研究)を執筆したら、両大学の教員は補完的な関係になる。

(2)インドのタタ・モーターズの補完的生産関係
次にビジネスの世界に目を向けよう。最近、インドのタタ・モーターズが世界で始めて2,000ドル以下の価格の自動車、「タタ・ナノ」を導入した。こんなに安い価格で車を製造するのは、エンジニアリング(工学)における一種の奇跡である。中古車とバイクがタタ・ナノの代替商品になるだろう。しかし、タタ・モーターズは、タタ・ナノの生産を計画したときに、これらを補完商品として考慮しなかった。具体的にいえば、タタ・ナノをいちばん購入しそうな顧客は、バイクを下取りに出す可能性が高い。にもかかわらず、タタの販売業者は、下取りのバイクを受け取る設備もないし、能力もなかったのである。

さらに、タタ・モーターズは自動車ローンを考えなかった。これまでバイクを使っていた顧客が、車を初めて買うとき、一般的に自動車ローンの信用審査をクリアできない。ここでの問題は、顧客に信用審査に抵触する履歴があることではなく、信用情報そもそもないことである。当初、タタ・モーターズは、自動車ローンを提供する準備をしなかったので、見込み客の多くがタタ・ナノを購入できなかった。最終的に、タタ・モーターズは上記の2つの問題を是正した。同社は、バイクの下取りを可能にし、銀行借り入れを利用しない層に自動車ローンを提供することになった。しかし、補完商品を考えなかった結果、同社はタタ・ナノを売り出したときに、不利な立場に置かれた。

(3)トイザらすは「デスティネーション・ショッピング」
日本の状況は違うと思うが、アメリカでは、ウォルマートがトイザらスを抜いて、最大の玩具小売業者になった。(アメリカにおいては) トイザらスは、「デスティネーション・ショッピング」 (「目的地買い物」の意味。特定の商品、この場合、玩具購入のために行く専門店である)である。一方のウォルマートは、顧客が常に買い物に出かける場所である。したがって、ウォルマートのほうが、より良い補完商品をもっている。誕生日のプレゼントを買うためにだけトイザらスに行くよりも、ウォルマートに他の物を買いに行ったときに、バースデー・プレゼントを簡単に購入できる。

私が知っている限り、日本ではトイザらスはデスティネーション・ショッピングではない。むしろ、トイザらスの店舗はショッピングセンターの中にある。あるいは、その他の小売店と隣接している。その結果、トイザらスは、アメリカに比べ、日本でより成功している。同様に、アメリカでは、人が既にいるニューヨークのタイムズスクエアのような場所に店舗を開設する必要がある。あるいは、子供用の理髪や6番通路で子供用の誕生日パーティーを開く選択肢のような補完的な商品やサービスを提供しなければならない。つまり、米国において、トイザらスは顧客に来店してもらう他の理由を創り出さなければならない。

ガソリンスタンドも補完商品に関する類似の問題に悩んでいる。世界一のガソリンを販売しても、コンビニがないと、コンビニを併設している競合ガソリンスタンドに負けてしまう。あなたは、ガソリンの事業を行っていると思っているが、実は、コンビニ事業にも関わらなければならないのだ。

(4)補完的生産関係は6番目の競争要因
マイケル・ポーターは、(自分の「ファイブ・フォース・モデル」(5つの競争要因モデル)において)、私が提唱する補完的生産関係を6つ目のフォース(要因)として認めることに消極的である。彼は、補完商品とは単に、価値を高めるものと主張し続ける。言い換えれば、そのようなものとして補完財が存在すれば、より好ましいと考えるが、特定の要因とはみなさないのである。彼の見解に対して、私は、(競争要因の)定義からして、補完的生産関係(あるいは補完材)は、フォース(要因)とみなされなければならないと反論している: 文字どおりに解釈すると、彼が、(5つの競争要因のなかで)代替商品について議論するのであれば、その反対概念である補完商品も当然考慮しなければならない。さらに、(5つの競争要因モデルで)産業を分析するのであれば、産業の補完的生産構造に着目する必要がある。たとえば、(補完的生産関係にあるコンピューターのソフトウェアと半導体メーカーを考えると)、マイクロソフトは、インテルが独占であるかどうか懸念している。もし独占であれば、インテルは、マイクロソフトと同様に業界の全利益を獲得する能力をもつことにある。だからこそ、マイクロソフトは、(それを防ぐために)インテルのライバルの半導体メーカー、AMDを支えている。同様に、インテルはマイクロソフトの独占的な地位を懸念しているので、(マイクロソフトのライバルである)リナックスを支える。つまり、補完的な生産関係にある産業構造が両社の「利益を獲得する能力」に影響を与えているという事実が、補完的生産関係(あるいは補完商品)が産業の収益構造の6番目のフォース(要因)である根拠を示している。


2.ブルー・オーシャン戦略との比較 — 女性専用ジム「カーブス」
バリューネットは、ブルー・オーシャン戦略に対して、どのように位置づけられますか。共通点は何でしょうか。違いは?両方のモデルは両立可能ですか。


ブルー・オーシャン戦略に対して、二つの考え方がある。ひとつが、競合企業が見逃した商品市場のニッチを見極め、自分だけの持てる市場を開拓することである。女性専用のカーブスフィットネスの例を参照しよう。企業が、従来、主に男性または男女混合の顧客ベースのためのジムに焦点を絞ってきたなかで、同社が女性専用のジムを開拓したといえるだろう。

もうひとつの考え方は、ジムにいる女性は他の女性が一緒にいることを「補完的」だと感じることである。対照的に、ジムに男性がいる場合、その男性が競争相手と見なされる。女性は、トレーニングマシンが男性の使用する重さのレベルで設定され、そこに彼らの汗がたくさんついている環境を好まない。さらに、男性の好む音楽が流れていて、男性の雰囲気が強いジムでは、女性は運動する関心が低くなる。例は違うが、私が、コカコーラを飲んだ直後にペプシを飲む気にならない状況に類似している。つまり、ジムに男性がいるからこそ、女性にとって、ジムという商品自体の魅力がより低下するのである。対照的に、ジムに他の女性がいることは、女性にとってのジムの魅力を高める。これは、「他の顧客」(の存在)が、場合により、補完商品にも代用商品にもなる一例だ。ブルー・オーシャン戦略の本質は、単に、競合相手がいない市場を考えることだけでなく、補完商品の使用により、いかに新たな価値を生み出すかを考察することでもある。


3.「一時的な競争優位」との関係は?
バリューネットは、「一時的」な性質がありそうです。この意味で、リタ・マックグラス(コロンビア大学)が提唱する「一時的な競争優位」の概念に類似しています。一方、あなたは、競争優位は持続可能でなければならい、あるいは最低限維持されなくてはならないという意見を持っているようです。バリューネットは、持続可能ですか、一時的ですか。バリューネットが「一時的」になり得る条件や持続可能になり得る条件は存在しますか。


「バリューネットが持続可能である、または一時的である」という表現はこの専門用語の正しい使い方だとは思わない。バリューネットとは、ある種の「地図」なのである。むしろ、競争優位が持続可能だと主張できる。ポーターやマックグラスなどが競合企業の側面から持続可能な競争優位について既に充実した解説をしているので、私から付け加えたい説明はそれほどない。しかし、補完的生産関係(complementors)にもとづく競争優位の持続性について言いたいことがある。カーブスのあとに、他の企業が「ペッパー」(こしょう)または「エグプラント」(なす)のような他のブランドで市場に参入したら、カーブスの競争優位は低減するかもしれない。他方では、他社が補完商品を導入したときに、自社商品も恩恵が受けられる。その結果、自社の補完的生産関係にもとづく競争優位が残る。そうした競争優位は消えることはない。

タタ・モーターズの例に戻ろう。他の企業が銀行借り入れを利用しない層に自動車ローンを提供し始めたら、この補完的サービスはタタ・モーターズを支援しタタ・ナノの売り上げを増やす効果がある。実際、顧客がこのような補完的サービスをより容易に、かつ安く取得できるようにしてあげるのは重要な目的となる。私は、自分で名付けた「プロプライエタリ・コンプリメント」(proprietary complements、自社のための補完商品)を、産業共有の補完商品と区別している。仮に、タタ・モーターズにとって、タタ・ナノの代替商品を販売する競合企業が存在しなければ、誰が自動車ローンを提供するかは大した問題ではない。その場合、銀行が自動車ローンを提供しても何ら問題ない。他方で、競合他社がタタ・ナノの代替商品を販売する場合を考えよう。その場合、自社(タタ・モーターズ)の自動車ローンがプロプライエタリ・コンプリメントであるとき、つまり、その自動車ローンをタタ・ナノの購入者にしか提供しない場合、競合企業が代替商品の自動車のプロプライエタリ・コンプリメントになる自動車ローンを提供するなら、タタ・ナノと自動車ローンの補完関係の価値は失われる。だからこそ、自社(タタ・モーターズ)は、競合企業より良い補完商品(この場合自動車ローン)を提供したいと考える。そうなれば、タタ・モーターズは、「一時的な補完関係にもとづく競争優位」を享受できる。要するに、自社商品の補完商品の市場が発展するにつれ、補完商品の誕生ならびに存在は、自社に損害を与えるのではなく、恩恵を与えるようになる。


4.産業かアリーナか? — グーグルの無人自動車
変化が激しい現在のインターネット時代では「アリーナ」(直訳: 競技場; 意訳: 会社が競争する場)という概念が「産業」より、戦略分析におけるもっと適切だと思いますか。あなたのバリューネットの理論から考えると、どちらの用語がより適切でしょうか。


テスラモーターズ (米国の電気自動車メーカー)の最新の動向をみると、電気自動車産業の最大の障害は電池技術なので、同社は独自に電池工場を建設している。この電池技術は改善が必要だ。この電池技術は、一社単独で生産するにはコストが高すぎる補完商品でもある。その結果、電池技術の開発について多くの提携が行われている。より進んだ電池技術は特定の1社だけではなく産業全体に好影響を与えることになる。くわえて、そうした電池技術に関する提携は、この産業に欠けている「中核をなす補完的生産関係」でもある。

グーグルの無人自動車の開発手法は、極めて詳細な地図を開発するプロセスのように映る。それは自分のラップトップのパソコンで見る簡単な地図ではない。歩道の縁石の高さから道路のくぼみまで、詳細な情報を含む地図である。グーグルのデータベースはプロプライエタリ・コンプリメント(自社のための補完商品)の一例である。つまり、無人自動車を利用したいなら、グーグルが持っている道路に関する詳細のデータが(補完的に)必要となる。

グーグルは、最近、ロボットの研究開発の世界最先端企業の一社であるボストン・ダイナミクス社を買収したと思う。同社は、オフロード(一般道路外)の地域を走行できる素晴らしい四足歩行のロボットを開発した。

なぜ、グーグルがそういう会社を買収するのだろうか。なぜなら、そのロボット技術があれば、オフロード地域の地図の作成が可能になるからだ。例えば、グーグルは、いつか、(そうしたロボット技術を活用し)ショッピング・モールのようなビルの内部に関するデータを収集したいと思うだろう。同社はデータの収集と整理に長けている。無人自動車がデータに依存して走行するだけでなく、いったん完全に機能するようになったら、(走行しながら)データを収集することも可能になる。グーグルの無人自動車は、グーグルのストリートビューのように、道路を走行しながら、様々な写真を撮影できるようになるだろう。

グーグル・カー(つまり、無人自動車)の発明は、(従来)補完的関係にあるドライバーを取り除いてしまった。でも、その結果、現在はない自動車保険サービスが必要となるが、それは、無人自動車にとって重要な別の補完商品となる。我々は、いかに無人自動車に対して保険を提供したらよいか、現在分かっていない。新たな道路交通規制も無人自動車の導入に合わせて進化しなくてはならない。それも、無人自動車に対するもう一つ補完商品/サービスであるが、現時点では明確に定まっていない。仮に無人自動車を製造しても自動車保険という補完商品を付け加えるまで、無人自動車は利用できない。いったん、保険産業がこの補完商品を創りだしたら、無人自動車が普及していく。そうなれば、無人自動車は、やがて消え去る世界で最も「一時的な商品」ではなくなる。

一方、競合企業が無人自動車を製造できるかどうかは、その会社がどのように計画するかに左右される。その競合企業がグーグルのデータベースを利用する計画なら、グーグルにライセンス料を支払わなければならない。この場合は、グーグルの競争優位が維持される。対照的に、競合企業が、無人自動車が他の自動車と情報をやり取りできる代替の技術を開発したら、その競合企業はグーグルの地図データベース(補完商品)に依存していない方法で、グーグルと競争できるかもしれない。


5.日本企業への処方箋
かつて賞賛されたソニー、パナソニック、ニンテンドーなどの日本企業は現在、世界市場で苦戦しています。バリューネットの視点でみた場合、これらの企業の競争における苦戦の原因は何でしょうか。これらの会社が、どのようにあなたの理論の原則を応用したら、成功する戦略が策定できますか。

(1)日本企業の過剰なアップグレード?
日本企業が直面するもっとも大きな課題の一つは、そうした企業の商品が良すぎるようになったという事実にある。まず、白黒テレビからカラーテレビに推移し、カラーテレビから高品位テレビや60インチのスクリーンにまで移行した。それらのすべては、顧客がお金を支払ってもいいと思う顕著な技術上の改善だった。しかし、私は、0マイルから時速60マイルへ3秒で加速してしまう自動車を買おうとは思わない。私にはそういう技術は必要ないからだ。同様に、テレビの最新版を買いたくない人もいる。私は現在持っているテレビから3Dや4Kの最新技術にアップグレードする必要を感じない。もっと大きいな画面も必要でない。スクリーンがさらに大きくなったら、私の家の壁には、そのような大画面を取り付ける空間はない。

同じ考え方がパソコンにも当てはまる。私は机の上に、スーパーコンピューターは必要ない。ほとんどの場合、コンピューターのほうが私の思考や作業を待ってくれる(つまり、現行の処理速度で十分である)。現行のラップトップの最も重要な特徴は重量と電池寿命だ。処理速度や画面サイズではない。こうしたことを理解したため、電池開発が活発になったのだ。私は現在、研究室に1台所有し、家にも1台あり、全部で、異なったタイプのラップトップを3台持っている。その中には、3、4年前のものもあるがまだ正常に稼働している。少しサイズが大きいので、いつも持ち歩きたくないが、よく考えると、文書処理を行ったり、プレゼン用のパワー・ポイントスライドを作成したり、エクセルを利用したりしている。これらの作業なら、私の現行のラップトップで十分である。ビデオ編集をする場合は、処理速度が課題になる。とりあえず、私としては、主にラップトップの携帯

性と電池の寿命が気になる。
日本企業にとって、このような技術的な課題が根本的な問題であると私が思っている。私たちは、顧客がもはや「sustaining innovation」 (持続的な革新)を重視しなくなった地点にまで辿り着いている。(ハーバード大学教授の)クレイトン・クリステンセンが言うように、日本企業は顧客の望みを超える商品を製造し続けている。顧客は、そうした望みを超える新しい特徴のために、お金を支払う意志はない。その結果、日本企業の持続可能な改善はもはや、その会社にとって価値を創り出していない。このジレンマを解決するために、日本企業は、根本的に新しい「破壊的革新」を創造しなくてはならないが、それは大きな挑戦である。もし伝統に固執した企業なら、このチャレンジは大きな苦難となる。
アップルのiPodの登場を振り返ってみよう。この商品のヒットの鍵は、違法ダウンロードされた音楽の補完商品になっていたという事実だったと私は考える。当時、ナップスターのような音楽共有サイトは、人々が基本的に無料で、違法ダウンロードされた音楽の巨大図書館を築くことを可能にした。しかし、それらのすべての楽曲を持ち歩き、整理し、または再生する良い方法は存在しなかった。しかも、すべての音楽がデジタルだったので、人々はウォークマンを使わなければならなかった。

(2)今後も困難が予想される日本企業
アップルは、人々がこうした音楽を十分に楽しむ補完商品を導入するチャンスを発見した。今はアップルのiTunesストアが音楽の購入を容易にしているが、当時、音楽の違法ダウンロードのほうが購入するよりも簡単だったわけである。今日、消費者はもはや音楽を買っていない。代わりに、スポティファイ(Spotify)、 パンドラ(Pandora)、 ビーツ(Beats)のような無料音楽サービスに加入している。消費者はもはや音楽を所有しようと思っていない。なぜなら、いつでも好きな曲を再生できるからだ。消費者は大容量のデジタル保存装置を必要としていない。唯一必要なのは、インターネットへの接続だけである。

アップルの商品、iPhoneやiPadからカメラに話題を移すと、今日、電話は基本的にカメラの代替商品になっている。アルファ(α)のカメラの商品ラインが素晴らしいソニーのように、世界一のレンズを製造しても、現在、人々が持ち歩いているスマートフォンが消費者個人にとって最高のカメラであり、それにはかなわない。あなたの携帯電話内のカメラの機能は、ソニーの高級カメラにはかなわないが、(洋服の)ポケットで携帯できるという点で勝者になる。あっと言う間に、携帯電話のカメラが画像安定やズーム機能をもつようになっている。これらの技術が進化するにつれ、ソニーがいま直面する窮地は悪化していくだけだ。全体的に言えば、ソニー、パナソニックなど、かつて卓越していると礼賛された日本企業で働く友人たちに対して、何も朗報は持っていない。

6.「オネスト・ティー」とアンデルセンの童話「えんどう豆の上に寝たお姫さま」
あなたは、ある講演で、(あなたが関与した)低糖アイスティーの「オネスト・ティー」(Honest Tea)について、「えんどう豆の上に寝たお姫さま」(アンデルセン童話)を紹介しました。そのとき、その童話の新たな解釈を紹介し、起業を希望する人々が、いわゆる「えんどう豆」に注意を払い、顧客の要望を完全に満たさない商品または顧客を苛立足せる状態を、機会の源泉として捕らえる提案をしました。最近、アメリカ市場または世界市場では、どのような「えんどう豆」があなたの関心を引きましたか。その理由は何ですか?

この童話では、王妃が8枚のマットレスの上に寝ている。一番下のマットレスの下に一粒のえんどう豆がある。王妃は、そのえんどう豆が気になって、眠れない。この童話の一つの解釈は、これによって彼女が真の王妃だということが分かることである。王妃だけが、こんなに些細な苛立ちを気にするからだ。もう一つの解釈がある。それ「もういいよ、王妃。この小さなえんどう豆のせいで、苛立ってはいけない。」。多くの両親は自分の子供たちに対し、この態度を示す。でも、私の考え方では、我々が我慢してきた「えんどう豆」の苛立ちを追及すれば、最終的には素晴らしいビジネスチャンスに行き着くかもしれない。「オネスト・ティー」の場合は、私が既存の飲料選択に対して不満だと思ったのが「えんどう豆」だった。従来の飲料は、水のように、つまらない味のもの、あるいはソーダのような液体の飴に似たもの、あるいは、危険なダイエット飲料だった。面白いことに、日本にはそういう状況は当てはまらない。日本には「ウィーク・ティー」(無糖茶や薄い味の紅茶/緑茶)、すなわち無糖または低糖のお茶の缶飲料がある。オネスト・ティーの登場の前には、アメリカでは類似商品は存在しなかった。

現在、酔いたくない人にとってのアルコール飲料は存在しない。このため、私は、最近、とても低いアルコール度の飲料を生産する会社を立ち上げた。商品名は、「KomBrewCha」(コンブルーチャ)で、発酵茶「Kombucha」(コンブチャ)からとった。会社の標語は、「Get tickled, not pickled」(酔っぱらわず、ほろ酔い気分になろう)である。ほろ酔い気分になりたいが、飲んだ後に仕事に戻ったり、運動したいときに楽しめる商品である。コンブルーチャなら極端に走らず、社交を楽しめる。


How entrepreneurs can change society - the story of Honest Tea:
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このブログは、ジョーが執筆し、皆様にお届け致します。ジョーことジョセフ・ガブリエラ は、2000年に来日したアメリカ人。格闘技ファンなら誰でも知てる、K-1ファイターのアンディー・フグ氏にそっくり!1989年米国ワートン・スクールを卒業。その後ペパーダイン大学を皮切りに、イリノイ大学、南フリダ大学を卒業。MBAを含め2つの修士号と博士号を取得しました。日米合弁IT関連企業、スイス系証券会社、米系銀行、そして日系外食企業など幅広い業界の勤務を通して様々なビジネス経験を積みました。趣味は、水泳、読書(村上春樹氏の大ファン!)、ピアノ、そして様々な国の言葉を勉強する事です。ちなみに、2年前から新たに中国語勉強に励んでいます!この記事についてのご質問、感想、また意見を歓迎します。また、共同研究者である杉本有造氏とともにコンサルティング業務も行っていますので、お気軽にご相談ください。

また、次のような「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!!」をテーマにしたブログも公開しているので、あわせてご一読いただければ幸いです。

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皆さんのビジネスリーダーとしての知識欲をさらに刺激するために、毎月、2回の頻度で、「アメリカ・ビジネスの最前線」を主な対象にして、「アメリカ・ビジネスでいま何が起こっているのか」「どのような最新技術に注目が集まっているのか」「日本や日本製品はアメリカでどのように評価されているのか」といった点について、アメリカ人としての見解を掲載します。日本のメディアでは、日本人による単一的(あるいは一方的)な見解が主張される傾向が強いように思えます。このブログ記事では、「世界には多様な考えがある」ということを日本の読者に具体的なテーマで知ってもらうことを意識しています。日本や日本人に対する外国人の見解、考え方を知ることで、読者自身の世界観を広げ、最終的にはビジネスチャンスにつなげてもらえればと願っています。とりあげてもらいたい「旬の話題」や建設的なご提案など、お気軽に著者までご連絡いただければ幸いです。

ジョセフ・ガブリエラ  博士/MBA
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