日本の「チーム」思考は時代遅れか!
いま、なぜ21世紀型の「チーミング」が世界で注目されているのか?


1 今世界が注目するエイミー・エドモンドソンの「チーミング」理論
エイミー・エドモンドソン博士。米ハーバード大学ビジネススクール教授。ハーバードでは「リーダーシップと経営」を担当。「世界で最も影響力のある経営思想家」のトップ50人をリストアップする「Thinkers50」(2013年版)で第15位にランキングされる。この「Thinkers50」は「経営思想家のアカデミー賞」にもたとえられるほどの権威と影響力をもつ。
長年にわたって「チーム」を研究する彼女は、特に「チーミング」(teaming)のエキスパートとして世界的に著名である。メンバーが固定した安定的で「静的」なチームではなく、人材をより流動的に配置しながら、短期間のうちに、情報技術を駆使しながら、国境/境界や領域を超えて協働する「ダイナミック」な「チーミング」こそが、21世紀のグローバル市場環境にフィットする働き方だと彼女は解説する。実際に、たとえば、スイス系のある証券会社では、インド、アメリカ、スイス、シンガポールや香港の各支店で働いている同僚が様々なチームを編成し複数の短期プロジェクトが同時並行的に実施されている。メンバーは、ときどき出張して直接意見交換をするが、ほとんどの場合、コストと時間節約するため、情報技術を活用して遠隔のチームとして運営される。あるいは、中国人の起業家のために日本人のコンサルタントがサポートする場合、全ての準備がインターネットで行われる。電子メールで、簡単な雇用契約書を作成し、ビザ申請書類もメールで送付される。ミーティングや意見交換は、スカイプで行われ、コンサルタント業務が終了すれば、自動的に報酬が銀行に振り込まれ、このプロジェクトは完了する。こうしたチーミングが、グローバルなビジネスシーンで普通に行われるようになっているのが現在だ。
特に、エドモンドソン博士の主張のなかで注目したいのは、チームではなく、チーミング、つまり「-ing」の動詞になっていることだ。それは、チームという「静的な実態」ではなく、「動的なプロセス」が重要であることを示している。そもそもこのチーミングを可能にした要因として、インターネットなどに代表される技術革新があることを見逃してはならない。技術革新がますます加速してきて、またその規模や影響度が大きくなり、複雑さが増している。その結果、組織も臨機応変に継続的に変革を行い、絶えず変化している環境のなかで競争していく必要がある。そうするために、企業や組織全体が効率よく学習しなくてはならない。すなわち、「学習する組織」(learning organization)である。チーミングは、組織が「学習する組織」に変わるためのキーコンセプトでもある。
エドモンドソン博士は、2012年に発表された著作『Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy』(邦訳『チームが機能するとはどういうことか』(2015年、英治出版))では、トヨタ、IDEO(米デザインコンサルタント会社)などの豊富な事例にもとづき、「チーミング」という新しい概念を提案。21世紀のグローバル市場で競争優位を獲得するために、学習する組織と実行する組織の両面を兼ね備えた新しい組織作りのあり方を解き明かしている。

2 日本の経営者やビジネスパーソンが「チーミング」理論を理解するためのヒント
(1) 日本人に馴染み深いチーム作り、チームワークは、時代遅れで、21世紀には通用しない!?
エドモンドソン教授が唱える「チーミング」という概念は、日本人に馴染み深い「チーム作り」「チームワーク」とは異なった21世紀型の概念である。時間的な余裕がたっぷりあり、静的な環境のなかで、企業内の固定的な人間によって構成される「常に成功を効率的に追求する」目的をもったグループや集団を「チーム」とみなす考え方は「時代遅れ」だと彼女は指摘する。つまり、従来の「チーム」概念では、企業は21世紀の激動する市場環境を生き残ることは不可能だと彼女は考える。
(2) アメリカ人の目には、カイゼンで成功している日本企業のトヨタは「例外的な企業」に映っている?!
エドモンドソン教授は、チーミングで「学習する組織」として成功している企業の例として、検索エンジン最大手グーグル、国際的食品会社ダノン、トヨタ、デザインコンサルタント会社IDEOなどをあげる。もちろん、これまで、トヨタのカイゼンは、日本の多くの企業でも研究されてきた。つまり、日本人にはよく知られた経営手法である。だとしたら、日本人には、エドモンドソン教授の「チーミング」は目新しい考えではないのではないか。だが、そこに「落とし穴」がある。
トヨタのカイゼンを研究し、世界市場で好業績をあげている日本企業はいったい何社あるのか?アメリカ人の目には、トヨタは「例外的な成功企業」に映っているのだ。
(3)エドモンドソンの「チーミング」を日本に導入するには、日本の組織において「失敗は成功のための途中プロセスであり、失敗とは学ぶもの。そして、失敗することを賞賛すべきである」というような根本的な発想の転換が必要である。
「チーミング」においては、組織内の小規模グループが、「個人として学習する社員」と「学習する組織」を結びつける重要な役割を担っている。その小規模グループが良好に機能するためには、「部下が上司に率直な意見を述べることができる」環境が必要となる。残念ながら、普通の日本企業では、上司の権限が強く、部下が上司に意見を率直に述べる企業文化は整っていない。つまり日本の部下にとって上司は怖い存在である。依然として、日本では、上司に反論をせず上司の指示を忠実に実行する者が、理想的な部下だとみなされる傾向が強い。そうした部下は、自分で物事を決定したり、自発的に日々の改善を行ったりはしない。
しかし、それ以上に問題なのは、日本人や日本企業における「失敗」に対する考え方や対応の仕方である。どんな企業や組織においても、一般的に失敗は望ましいものではないが、日本では、その考えが顕著である。だから、日本の企業では、失敗する社員は高く評価されない。そして、多くの日本企業はそもそも失敗から学ぶ強い姿勢をもっているとはいいがたい。21世紀の激動する市場環境を日本企業が生き残るためには、そうした考えを捨て、「失敗は、成功へのプロセス。失敗は学べるもの」として捉え直す根本的な意識改革が必要だ。それにより、リスク回避の傾向が強い日本企業のスタンスにも変化が表れるに違いない。そうした意識改革がないままで日本企業が「チーミング」を導入しようとしてもうまくいかない。
3 エドモンドソン博士の単独インタビュー(2014年4月21日実施、一部抜粋)
(質問)あなたの研究の多くは「学習する組織」をテーマにしている。その「学習する組織」をどのように定義するか。目立った特徴は何か。「学習する組織」とその特徴は国によって異なるのか?
エドモンドソン:「学習する組織」(learning organization)とは、組織を取り巻く環境の変化を把握し、必要に応じて継続的に改善(カイゼン)とイノベーション(技術革新)を行い続けるように適切に対応している組織であると定義できる。こういった組織は、あらゆる事業環境において絶えず起きている実際の変化に耐えられる。このような説明は抽象的である。したがって、人々がこの概念をどのように解釈するかによって、「学習する組織」が不可能な存在なのか、またはどこにでも存在するものなのか、どちらかに受け止められることは理解している。「学習する組織」は不可能ではないし、一方どこにでもあるわけでもないと私は考えたい。実際、ほとんどの組織は「学習する組織」ではない。しかし、数少ない「学習する組織」は多様な産業において、長期に及ぶ、並外れた成功を成し遂げる傾向が強い。組織が「学習する組織」になることはひとつの熱望だといえる。もちろん、ある組織が「学習する組織」かどうか、二分されるものではない。むしろ、それは、組織として改善を追求できる能力の集合体であると表現できる・・・
(質問)あなたと デービッド・ガービン(David Garvin)が「ハーバードオンライン」(harvardonline.org)のインタビューを受けたときに、デービッドはGE社を学習する組織の例として言及した。その他の例はあるか。グーグル社も学習する組織だいえるか。日本企業の中では、学習する組織は存在するか。
エドモンドソン:・・・・・・私の視点で見ると、日本の企業ではトヨタが本質的な「学習する組織」だといえる。同社はとても早い時期に、学習する組織とは何か、そして、企業運営を左右する遺伝子として継続的な学習を取り込む必要性を示した。トヨタがほぼ完成させた種類の学習の主なイメージは継続的改善である。このカイゼン(kaizen)では、それぞれの従業員は、職種に関係なく、絶えず何かが完全ではない兆候を探す作業を奨励される。それを改善する方法も提案するように促される。つまり、従業員から率直な意見を募る仕組みが社内に整っている。私の考え方では、トヨタの例をみると、組織の文化の中に組織学習とそれにともなう作業プロセスを組み込むときに発揮される力が観察できる。その結果、トヨタという組織は成長を成し遂げてきた。優れた業績、高い品質、市場におけるほとんど比類なき顧客満足。こうした点において、トヨタの例は、日本のどの企業を見ても際立っている。
(質問)2011年のハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の記事に関連したインタビューでは、あなたは、失敗から学ぶために、組織は失敗を検出し、分析し、また逆説的に、それを創造する体系的な能力を発展させなければならないと述べている。一体なぜ、組織は意図的に失敗を創造しようとするのか。「学習する失敗」と「何も学べない失敗」はどう違うのか。
失敗したいと思う組織などは存在しない。その点は明確だ。しかし、事実は、途中で失敗せずに、イノベーションを行う組織はひとつもない。なぜだろうか。それは、イノベーションが、ある市場または他の場面において、真新しくて、誰かが望むもので、そして役立つものを意味することと関係している。単に、魔法の杖を振るだけで、「じゃじゃじゃーん」と、真新しく、望ましく、役立つものを思いつくこと(つまりイノベーションを生み出すこと)は、完全に不可能ではないが、事実上不可能に近い。反対に、イノベーションは実験を行うことにより創り出される。それは、試行錯誤、改善、試し、フォーカス・グループなどを通して生み出される。市場で成功を収めるような、本当に新しくて、革新的なものを創り出したときは、その途中で、組織は、必ず、失敗したはずである。イノベーションを容易にするマネジメント上の秘訣は、私が名づけた「intelligent failures」(賢い失敗)にある。すなわち、それは、競合相手より速くイノベーションが行えるような「速い失敗」を体験することだ。失敗なしでイノベーションや基礎研究を行う方法があったならば、そのほうが望ましい。しかし、そういう方法は存在しない。だから、われわれは失敗を受容し前向きにとらえなければならない。
4 理論のテストドライビング
自動車の試運転を意味する「テストドライブ」(test driving)。エドモンドソン教授の「チーミング」理論をあなたの会社でテストドライブしてみよう。エドモンドソン博士は、組織を従来型の「効率を追求しながら実行する組織」と21世紀型の「学習しながら実行する組織」とに区別する。下の表の点検項目に従って、あなたの会社がどちらに該当するかチェックしてみよう。仮に従来型の「効率を追求しながら実行する組織」に当てはまると判断した場合、個人として、そして課、部として、どのような行動をとれば、21世紀型の「学習をしながら実行する組織」に近づくことができるか、「チーミング」の発想を活かして検討してみよう。
「チーミング」理論のテストドライビング用点検表
A 効率を追求しながら実行する(従来型)
B 学習しながら実行する(エドモンドソン型)
1 リーダーの役割
A リーダーは「答え」や「解決策」を持っている
B リーダーの役割は方向性を定めることである
2 作業の定型化/流動性
A 決まった作業プロセスが導入されているか?
B 出発点として意図的に仮の作業プロセスが設けられる
3 変化/変革に対する考え方
A 組織内で「変わること」「変革」は大変な労力を伴う仕事だと考えられている
B 絶えず少しずつ変わることが日常的になる
4 フィードバックの形態
A 一方通行のフィードバックがなされる
B 双方向のフィードバックがなされる
5 組織の下層にいる社員の判断/意見の重要度
A 社員の判断は必要ではなく、むしろ阻止される
B 社員の判断は不可欠である
6 部下と上司の関係
A 部下が上司を「恐れる」のはふつうのことである
B 部下が上司に直言することに不安があると、かえって試行、分析、問題解決が妨げられる
7 目標
A 今日にも利益を勝ち取ること
B 長期的な価値を生み出すこと
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このブログは、ジョーが執筆し、皆様にお届け致します。ジョーことジョセフ・ガブリエラ は、2000年に来日したアメリカ人。格闘技ファンなら誰でも知てる、K-1ファイターのアンディー・フグ氏にそっくり!1989年米国ワートン・スクールを卒業。その後ペパーダイン大学を皮切りに、イリノイ大学、南フリダ大学を卒業。MBAを含め2つの修士号と博士号を取得しました。日米合弁IT関連企業、スイス系証券会社、米系銀行、そして日系外食企業など幅広い業界の勤務を通して様々なビジネス経験を積みました。趣味は、水泳、読書(村上春樹氏の大ファン!)、ピアノ、そして様々な国の言葉を勉強する事です。ちなみに、2年前から新たに中国語勉強に励んでいます!この記事についてのご質問、感想、また意見を歓迎します。また、共同研究者である杉本有造氏とともにコンサルティング業務も行っていますので、お気軽にご相談ください。
また、次のような「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!!」をテーマにしたブログも公開しているので、あわせてご一読いただければ幸いです。
「アメリカ・ビジネスの最前線を切る!!」の目的
皆さんのビジネスリーダーとしての知識欲をさらに刺激するために、毎月、2回の頻度で、「アメリカ・ビジネスの最前線」を主な対象にして、「アメリカ・ビジネスでいま何が起こっているのか」「どのような最新技術に注目が集まっているのか」「日本や日本製品はアメリカでどのように評価されているのか」といった点について、アメリカ人としての見解を掲載します。日本のメディアでは、日本人による単一的(あるいは一方的)な見解が主張される傾向が強いように思えます。このブログ記事では、「世界には多様な考えがある」ということを日本の読者に具体的なテーマで知ってもらうことを意識しています。日本や日本人に対する外国人の見解、考え方を知ることで、読者自身の世界観を広げ、最終的にはビジネスチャンスにつなげてもらえればと願っています。とりあげてもらいたい「旬の話題」や建設的なご提案など、お気軽に著者までご連絡いただければ幸いです。
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