アーケードスティックのお話・その23 スティックかパッドか〜その歴史 | ONCE IN A LIFETIME

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フィリピン留学から人生が変わった一人の男のお話です。

YouTubeを見ていると、たまにプロゲーマーの人たちに対してアケコンかパッドかという質問がなされているのを見かける。まさに家庭用が主流となった現在ならではの質問という感じではあるが、正直家庭用から入った人たちにとってはパッドがゲームの入り口であるはずなので、なんの違和感もなければそのままでいいというのがとりあえず私の結論である。

 

当然、ファミコン登場以前はアーケードしかなかったので、スティック以外選択肢はなかった。そこでパッド、十字キーという概念が生まれたのは任天堂が発売したゲームアンドウォッチからである。これをそのままファミコンにも採用したのであるが、これは任天堂の特許であったために、十字ボタンの操作性において他のメーカーは長らく超える事は出来なかったのは有名な話だ。そして、ここからスティックを介さずに、ゲームの世界を知った人たちが生まれてきたという事でもある。

 

当然、ファミコンが入り口だった人たちは、十字キーでプレイするのが当たり前という事もあり、何の疑問も持たずにそれでプレイし続けていた。しかし、スーパーマリオ以前のキラーソフトといえば、ゼビウスをはじめとするナムコの移植作が中心であり、当然任天堂のドンキーコングやマリオブラザーズなどもアーケードがオリジナルであった。となると、当然それ目当てにファミコンを購入していった人たちも多かったのだが、もちろんスティックが当たり前の彼らにとって十字キーでのプレイはストレス以外の何物でもなかったのだ。

 

そんな中でも、かの毛利名人のように十字キーで1000万点を達成した達人も居た訳ではあるが、次第にスティックの欲求が聞こえてくるのも当然である。そこで、1985年に遂にスピタル産業からファミリーキングという名のスティックが発売されるが、こちらは操縦桿のような形状、かつ右手持ちという何の役にも立たない代物だった。当然、多くの人間にとっては眼中になかったのだが、直後にハドソンが発売したのがかの黄色いハドソンジョイスティックである。

 

こちらも同じく操縦桿スタイルであったのだが、根本をつまんで持つという独特なやり方であればまあそこそこ使え、さらにかの高橋名人のブームもあって当時最も有名なスティックのひとつとなった。しかし、あくまでスターフォースと、翌年のスターソルジャー専用的な代物であり、他のゲームには不向きだった。そして、同年ようやくアスキーから発売されたのが、もはや伝説的ともいえるかのアスキースティックだった。

 

確か定価で8800円ほど、2台あればファミコン本体を超える、とまずはネガティブな方面から話題となった代物だが、現在の概念であれば妥当な金額と言える。そして、もちろん完全にアーケードと同じセイミツパーツを使用した造りはアーケード出身のゲーマーにとってはまさに待望であり、その方面にはおそらく大好評だったはずである。はずである、というのは当時私も含めて所有している人がおらず、そしてレビュー自体もネット以降のものしか知らないからである。のち、筐体をプラスチックにしたり、連射装置が搭載されたバージョンも発売されていくが、同時にレバーも独自のものになっていたりしたはずなので、今でも最も評価が高いのが初代である。

 

しかし、歓迎されたのも束の間、1986年以降のファミコンはRPGとスポーツ、特に野球ゲームが中心となっていったがために、スティックの需要は決して大きいものではなかった。1987年、PCEが発売されると再びアーケードの移植作品が中心となっていったのだが、当然本格的なジョイスティックは発売されず、またこの時代はアーケードとの性能差が大きい時代でもあったがために、アーケードゲーマーと家庭用がはっきり色分けされていたのも、スティックの需要が少なかった理由と思われる。

 

それに風穴を開けたのが、1992年に発売されたSFC版ストリートファイターIIである。元々、SFCには6つボタンが採用されていたので、周辺機器を買わずともそのままプレイできたのであるが、ゲーセンのコンパネを前提としたその操作性を、そのまま家庭用の十字キーでプレイというのは到底無理な話であった。よって、カプコンも発売と同時にCPSファイターというアケコンを発売したのであるが、1万円近くした割には操作性もボタン配置も極めて劣悪であり、アーケードの雄が発売したとは思えない代物であった。

 

私はそこまで余裕がなかったので、我慢して十字キーでプレイして行ったが、翌年1月にとうとうゲーメストの広告にあったシグマのアケコンを購入した。そして、これ以降は今の今まで、格ゲーやシューティングをプレイする際には完全にアケコンオンリーである。もちろん、当時は十字キーよりもアケコンに慣れ切った感じでもあったのだが、それ以前にアーケードゲーマーとしてのプライドがあった。これは前も触れたかも知れないが、かつてのゲーメストアイランドの投稿を見てもわかるように、アーケードと家庭用の間には常に確執があった。もちろん、アーケードゲームの難易度は総じて高いので、自然とプライドが芽生え、そしてRPGなど誰でもプレイできるゲームばかりしている家庭用の連中を見下す傾向があったのだ。

 

そんな連中が使っているコントローラーなど使いたくない、今思えばしょうもない話なのであるが、やはり当時のアーケードゲームは家庭用に対して圧倒的な性能差かつ難易度だった事もあって、今の概念では想像もつかないぐらいにプライドというものが高かったのである。そんな歴史的経緯もあり、コントローラーの違いはイコールそのままアーケード出身か家庭用か、というそれだけの違いであった。

 

なので、1990年代から格ゲーに慣れ親しんでいるアーケード出身のゲーマーであれば、今でもほとんどがアケコンであろう。実際、コマンド入力の複雑さからなどでも、普通にアケコンの方がやりやすいとは思うのであるが、Twitterなどを見る限りではアケコンは難しい、などという意見もあるし、普通に技が出しさえすれば好みで選んで良いのでは、とは思う。

 

ただ、さすがに2Dシューティングに関してはスティックの方がやりやすいだろう。ドット単位の動きや、斜め入力などはどうしても十字キーでは限界があるので、これに関しては絶対にスティックの方が上だし、今でも十字キーでシューティングというのは考えられないものだ。