これまで散々香港の事を語っておきながら、MTR、いわゆる香港の地下鉄にちゃんと触れてこなかった事に気づいたので、今更ながらここで語ってみる。
香港港鐡、英名Hong Kong Mass Transit Railway、通称香港MTRは香港のあらゆる場所を接続する香港版地下鉄である。旧KCR路線などは地上区間も多く、厳密には地下鉄として一括りは出来ないので、香港マニアからはMTRという通称で通っている。
詳しい事などはWikipediaでも読んでいただくとして、普通免許こそあれ、私自身車もバイクも生まれてこの方全く関心がない人であるので、もっぱら普段の移動と言えばスポーツサイクルもしくは電車の2択である。前者はもちろん趣味の範疇であったが、後者に関しても、幼少期にドラえもん鑑賞と共に初めて出来た趣味のひとつであった。それは小学校低学年程度までしか続かなかった趣味であったものの、それでも親におねだりしてそれに関する本などを買ってもらっていたので、今でも興味がなくもない。
もちろん、海外旅行で車の運転などは容易ではないし、そもそも都市部ではその必然性すらもない。まして狭い香港となれば当然である。そこで、旅行者が真っ先に頼るものとなればやはり地下鉄だろう。最初の渡航先はフィリピンであったが、セブは軌道系交通機関が存在しなかったので、この香港MTRこそが人生における初の海外鉄道体験であったのだ。
前にも触れたように、香港ではとにかく乗り物の種類が豊富なので、別にMTRを使わずともどこでも行ける。しかし、バスは初心者には敷居が高いし、ましてミニバスなどもってのほか。タクシーはどこでも通っているが、金さえあればどこへでも連れてってもらえるタクシーを利用しては一人旅の醍醐味は台無しである。香港島ではトラムも通っているが、渋滞にモロに影響されるので、時間に限りがある旅行者にとっては移動手段としてはいまいちである。そうなるとやはり移動となればMTR中心になるのは必然だ。
とは言っても、山岳部の多い香港、今でもRepulse Bayや、Stanleyなど、未だに車でなければ行けない主要部は存在する。その時はもうバスに乗って行くしかないのであるが、やはり不便であるので香港好きの自分ですらそう毎回は行けないのである。さらに、現地では海産レストランなども多く存在するのであるが、ここまでの道のりはかなりうねりが激しいので、車酔いを考慮するとどうしてもここで食事をするのは躊躇ってしまう。なので、今でもここで食したものと言えば、マックカフェのコーヒー程度であった。
話は飛んだが、それなりにバスを使いこなせる自分であっても、やはりMTRは便利であり、滞在中はそれこそ何度も乗車してしまう。香港島や九龍はほとんど地下なので風景の楽しみはないのであるが、私がそれより楽しみにしているのはアナウンスである。広東語、普通話、英語の順に流れて行くのであるが、何度も耳にしていると、英語はもちろん広東語ですらも真似出来てしまう。もちろん、なんて言ってるかはダイレクトには理解は出来ないのだが、「スピードラーニング」のごとく、広東語と英語を繰り返して行くうちになんとなく広東語だけでも意味が分かるようになっていくのだ。
また、英語はかなりネイティブな感じであったので、当初は普通にイギリス人などのネイティブが話しているのかと思っていた。しかし、数年前にSCMPがアップロードした"Most recognizable voice in Hong Kong"的なビデオにおいて、このボイス担当の女性が紹介されており、なんと広東語も英語も同一人物であったのだ。普通話は明らかに別人だと思うが、前述のように香港ネイティブだとは思わなかったので、このビデオを見た時はその流暢さに驚いたものだった。
そして、英語が公用語なだけあり、全ての公共物には英語表記が義務付けられている香港であるのだが、もちろんMTRも例外ではない。そして、公用語という事はそこでの英語表記が「絶対に合っている」というのが英語学習者にとってはためになる事この上ない。日本だと、どうしても「これ合っているのか?」という表現に出くわす事が多い。さすがに鉄道関係はまだマシであるが、それでも稀に「もっと良い表現があるんじゃないのか?」と思う事もままある。それが香港では絶対にないし、実際にPeople in need.など、そこで覚えたイディオムも多い。こういう環境にいれば、それはローカル香港人の子供も自然と英語に馴染むというものである。
また、英語以外にも、どこの駅構内にも改札周りには数件のコンビニや飲食、そしてATMも必ず存在するのも大変便利である。ひとつ欠点を挙げるとすれば、旧KCR路線以外にはほとんどの構内でトイレが設置されていない事ぐらいだろうか。「電車に乗る前イコール事前にトイレに行っておく」と言う考えが染み付いている日本人にとって、ここが香港旅行について注意すべき点と言えるだろう。得てして海外では日本のように容易にトイレが見つからないのが普通なのであるが、辛うじて台湾や深センでは全駅に設置されているので、意外にもこの点に関しては大陸の方が便利であるのだ。まあ全て1990年代以降の開通だからそれも当然かも知れないが。
また、もちろん駅ごとに切符を買う事もできるが、前にも紹介したように香港版Suicaとも言えるオクトパスカードなるものが存在する。もっとも、オクトパスカードの誕生は1997年と日本のSuicaよりも早く、しかも世界初の実用Felicaでもある。なので、正確にはSuicaこそ日本版オクトパスカードと言えるかも知れない。そして、これ一枚あれば、露天での買い物以外はほぼキャッシュレスで行けるので、一度これを味わってしまったら帰国しても現金生活には戻れないだろう。私はすでに10年近く前に経験しているので、なんと香港は進んでいるのかと感嘆したものだった。