日本人の英語習得者を悩ますもののひとつに、カタカナの英語、もしくは外来語がある。意味は良いとして、問題は言うまでもなく発音だ。発音記号を一切無視、基本的にその綴りのままの事がほとんどなため、和製英語などと同じく、そのまま発音してしまうと英語話者にはまともに通じない事が多い。これはもうすべてを挙げていくとキリがないので、ここでは私が体験、見聞きした例にのみ絞って挙げていく。
まずそれを最初に実感したのは、まだ英語を本格的に始める前の話である。1990年代後半、日テレの電波少年が爆発的な人気を誇っていたが、レギュラー枠とは別に特番の電波少年インターナショナルというのが年2,3回ぐらいのペースで1994年より放送されていた。その中で、のちのヒッチハイクのヒントとなったと言われているのが、キャイーンの二人による「国境でコント」シリーズだ。インドとスリランカのような海上もあったが、基本的には別の国から陸上の国境を目指し、そこで落ち合った二人が国名に因んだコントをする、というものだ。コント自体はしょうもないものだったが、そこまでのいきさつがドキュメンタリーテイストでかなり面白く、おそらく特番で一番人気だったシリーズだったと思う。
そこで未だはっきりと覚えているのが、おそらく1996年ぐらいに放送したフランスとスイスのシリーズだ。前者がウド氏で、後者が天野氏担当であったのだが、元来真面目な天野氏はすでに旅慣れており、それなりの英語を駆使して危なげなく進行していった。そこで、天野氏が「Money」と発音したのだが、当然現地のスイス人に対してのため、実際の発音は発音記号通り「マニー」としていた。もちろん、完全にこれが正しいため、ここで笑うところではないのだが、悲しいかな大半の日本人はローマ字表記に近い「マネー」と発音してしまっているので、まるで天野氏の発音が間違っているかのように字幕で「マニー」を強く強調し、笑いにもっていってしまったのだ。
まだ英語を真面目に勉強する前の自分ですら、本来の発音がマニーに近い事自体は知っていた。わざとなのか、それともスタッフの無知なのかは不明であるが、まあ英語学習者からすればあまりにもナンセンスな笑いへの持っていきかただったと思う。
続いては自身の経験。初めての本格的な香港旅行となった2011年10月、そのうち2日間のみ現地の友人の方に案内させてもらったのだが、当時の自分は香港の地名をガイドブック通りに発音していたため、赤柱(Stanley)をそのカタカナ読みの通り、彼女の前でスタンレーと発音してしまったのだ。彼女は4ヶ国語に堪能な才女であったので、当然発音記号通りに近いスタンリィ?と聞き返されてしまったのだが、そこで初めて綴りのleyはリィに近い発音をする事を知った。つまり、シリコンバレーはシリコンバリィであり、最近亡くなったマカオのカジノ王の名前も、スタンリィ・ホーである。
飛行機のアナウンスで知ったのは、アフリカ大陸の国であるシエラレオネだ。まだ桃園経由で香港に行っていた時代の話であるが、成田に着地直後に検疫のアナウンスが流れていたのだが、そこで英語のターンになった時、シエラレオネはシエラ・リオーンと発音していた。この時に正式な発音を知ったのだが、もしこれを知らずに英語話者の前で日本式発音をしたかも知れないと思うと、背筋が凍る思いがしたものだ。
カタカナ英語発音のオンパレードと言えば、プロレスだ。Aussie Suplexを、オースイ・スープレックスとしてしまったり、どう聞いてもヴィンス・マクマーンとしか聞こえないWWEの総帥、Vince McMahonの発音も未だに見た目通りのビンス・マクマホンだ。日本のプロレスとアメリカは切っても切れない関係であるし、英語に精通したプロレス記者も多いはずなのに、このありさまである。その中でも個人的に印象深かったのだが、最初は新日本、その後UWFインターでブレイクし、最後は全日本で活躍したゲーリー・オブライトなのだが、新日本に初来日した時はオルブライトという発音だった。
綴りはALBRIGHTなので、一見新日本読みの方が正しく思えるのだが、実際はオブライトが近い。そう、ALLの原理と同じであり、ALでオーと読むのである。なので、もしオルブライトであればALLBRIGHTと書くのが正しい。のちのアメリカのオルブライト国務長官も、綴りを見ただけでそう判断してしまったのだろうが、当然この場合もオブライトが正しかったのだ。
それ以外の体験と言えば、NYCのタイムズスクエアのマクドナルドで、思いっきり「サラダ」と発音していた日本人を見たりもしたが、それはもう論外と言っていいだろう。まあ、実際に悪いのは彼ではなく、適当に外来語を輸入し、それが英語なのかポルトガル語由来なのかもはや区別のつきようをなくした日本社会が悪いのだ。
で、これらの何が問題かと言えば、当然英語話者は正しい発音をしているにも関わらず、そのままでは大抵の日本人には通用しないため、あえて相手に合わせる日本式カタカナ英語で発音しなければならない、と言う事である。香港人も広東語での会話中に英語が混じる事が多いらしいが、それはそのまま英語として認識されるため、日本のそれとは意味合いが違う。中華圏のように、外国人の名前も漢字に直すことなく、そのままカタカナとして表記出来るのは便利ではあるものの、やはり和製英語とカタカナ英語は、日本人の英語話者にとっては迷惑なことこの上ないのである。