前回の続きとなるが、現在香港文化博物館にて開催中の、ブルース・リーエキシビションはそれこそ10回以上は足を運んでおり、以降特に新しいアップデートもなく、公式ガイドブックも購入済み、ドキュメンタリーも複数回鑑賞しているため、最近はもう目新しさも感じなくなっているのも事実。
にも拘わらず、今回の旅行で最初の目的地として選んだのは、サンフランシスコ在住の中国系アメリカ人、ジェフ・チン氏所有のコレクションが1年間限定で展示中だからだ。しかし、実はそうは言うものの、私自身、ブルース・リー関連のグッズと言えば、映像関係と書籍、サントラCD類程度しか所有しておらず、いわゆるコレクターではないため、そこまで強い関心があるという訳でもなかった。
とは言うものの、さすがに1万種類ものグッズを所有していると言われる、世界屈指のコレクターだけあり、初めて目にするのも多く、中には日本公開時のポスターなども展示されており、ブルース・リーを崇拝する者にとっては間違いなく至福のひとときを過ごせる場所であった事は間違いはなかった。
しかし、私にとってコレクション以上に感銘を受けたのは、壁にプリントされていたジェフ氏のメッセージだ。私もブルース・リーに憧れて早20年経ち、様々な映像や書籍により彼の人生を学んできたけども、それでもリアルタイムで当時のブームを体感してきた人たちの証言はいまなお貴重だ。しかし、ほとんどの日本人が彼を知った時、すでに彼はこの世の人間ではなかった。つまり、ブームはリアルタイムで体験出来てはいても、生前のブルース・リーがどのようにして世界に影響を与えていったか、それをリアルで知る日本人はさすがに稀と思われる。
それだけに、グリーン・ホーネットからのファンである、ジェフ氏のメッセージはとても貴重であり、改めて世界中の東洋人の地位が、ブルース・リーによってどれほどまでに向上されてきたかを実感する事となった。しかし、当然の事ながらそこにあるのは英文と中文のみ、もしかしたら大抵の日本人には彼の思いが伝わる事のないままこのエキシビションが終わってしまうかも知れない。そこで、写真撮影は不可のため、自分が覚えている限り、ここに日本語訳を載せていこうと思う。(翻訳・私 当然意訳多し)
"私(以下全てジェフ氏の事)が子供の頃、テレビドラマで見る中国人は全て悪役だった。彼らを見る度に、私は中国系としての誇り、自信を失わずにはいられなかった。とうとう、私の親はもうこれ以上そんなテレビは見るな、と言ってきた。しかしそんなある日、信じられない事にひとりの中国人が、主役のひとりとして「グリーン・ホーネット」に出演していた。ブルース・リー…その瞬間から彼は私にとって最高のヒーローになった。"
"私は小学校の頃、他にいたもうひとりのクラスメイトと同じく、いじめの標的にさらされていた。私は何も悪い事はしていないにも関わらず、たった「他のクラスメイトと髪の色、肌の色が異なる」と言う理由だけで―。そんなある日、ブルース・リーの映画が上映(私注・おそらく、ドラゴンへの道だったかと思う)された。その瞬間から、白人のクラスメイト達が自然と自分に集まってくるようになった。「お前はブルース・リーの親戚か?何か関係があるのか?」数日前までいじめの標的に過ぎなかった私たちが、「ブルース・リーと同じ髪、肌の色をしているだけ」でクラスの人気者になったんだ!"
"父親と「ドラゴン怒りの鉄拳」を見終えた後、ひとりのアフリカ系アメリカ人が父親に話しかけてきた。「ブルース・リーは本当に強いのか?彼のクンフーは本物なのか?」父親は胸を張ってこう答えた。「そうだ、彼は本当に強い、彼のクンフーは本物だ!"私はとても誇らしかった。"
他にもメッセージはあったが、特に印象深かったのは上記の3点だ。ブルース・リーがどのようにして世界を変えたのか、近年において、それはディスカバリーチャンネルのドキュメンタリーなどで改めて知る事となったが、それでも彼の存在が一般の中国系の人々の地位や生活にまで影響を及ぼすほどのものだったとは想像も付かなかったし、それはもちろん我々日本人においても同様だっただろう。また、当時のアメリカの東洋人の地位の低さも改めて知る事ともなったし、これを館内で読んでいる瞬間は自然と涙がこぼれてきたものだった。せめて文章だけでも収められれば、と思ったのは言うまでもない。
あまりの感動に、すぐに感想をフェイスブックにてジェフ氏へのタグ付きで英文でアップデートした。そうしたらSFはおそらく深夜帯だったのにも関わらず、間もなくジェフ氏からのコメントがあり大変に感激したものだ。この時点でまだチェックインも済ませておらず、ちょっと疲れも出てきたのでしばらくして博物館を後にしたが、彼のメッセージを拝見できたただけでも初日に来る価値はあったと思う。