マカオ。言わずと知れた、香港の南西約70キロに位置する、面積は世田谷区程度の小さな小さな元ポルトガル植民地。香港の上環と尖沙咀からそれぞれフェリーが出ており、さらに入国審査を通らず香港国際空港から直接向かう事も可能でもあるため、香港に来たらせっかくだからマカオも…というのは必然だ。
私が初めてマカオに足を踏み入れたのは、2回目の香港旅行である2011年10月4日だ。ただ、香港とは異なり、軌道系交通機関の存在しないマカオ、選択肢はバスかタクシーに限られる。後者はどうしても使うのに抵抗があったため、基本バス1択しかないのだが、そのためには小銭使用が大前提だ。しかし、日本のように両替機など車内に存在しないため、事前に用意しとかなければならないのだが、外国人にとってはそう容易とはいかないものだ。そこで、香港のオクトパスカードごとく、マカオにもマカオパスなるものがあるのだが、実は到着地のフェリーターミナルでは購入する事が出来ず、徒歩圏内にも買える場所は存在しない。
大馬路をまっすぐ行ったところの世界貿易中心の1階で購入出来るのだけれども、香港で宿が確保出来ないという大失敗があったせいか、迷う事に対しての恐怖心がぬぐえず、さらにフェリーターミナルのどこから歩道に脱出出来るのかも分からなかった。バスターミナルは目の前にある、しかしそれは使えない、タクシーももちろん、2時間800HKD前後のガイドなんてもってのほか。結局、情けない事に2時間近くフェリーターミナルに居た結果、何もせずに香港に帰ってしまった。
結局フェリー代の無駄となってしまったのだけれども、それが影響して、重慶に泊まるようになってからも、マカオに足を伸ばすことはなかなかなかった。ようやくそれが実現したのは、ちょうど2年後の2013年9、10月の旅行においてでだった。
とりあえず、マカオパスさえ手に入れればなんとかなる、と思った私は、ターミナルを出てすぐの歩道をまっすぐ進み、そのまま徒歩で世界貿易中心へと向かっていった。ちょうど11時過ぎぐらいだったと思うが、マカオは香港とは異なり、セナド広場などの繁華街を除けば人もまばらだ。また、香港とは異なり知り合いはもちろん、周りに人も誰もいない状態で数分歩いて行ったため、香港よりはるかに小さいのに「一人旅をしている」自分への高揚感がいやおうが上に盛り上がっていったものだった。
マカオパスは120パタカぐらいで購入出来たと思うが、マカオ半島内のバスならどこに行っても2.2パタカ程度だったため、1日観光ならほぼ気にせず乗り放題だ。バスマップも案内所で無料でもらえるのだが、マカオの道は一方通行が多く、一度間違えるとなかなか厄介でもある。で、いきなり妙な方向へのバスに乗ってしまい、しばらく人気のない山の方をしばらく歩く羽目となってしまった。
マカオは大陸に近いせいか、香港以上に大気汚染が酷く、せっかく高台に登っても遠くはかすんで真っ白だ。そこから徒歩で下へと戻っていったが、華やかなホテルやカジノに対し、一般庶民の住宅は延々とスラム街のような通りが続いており、なんだか張りぼてのような印象を受けた。
結局、観光の中心となるセナド広場や、聖ポール教会に着いたのは大分後になってしまった。マカオは道が狭いうえに迷路みたいな作りになっている場所が多く、グーグルマップも使えないとなると迷う事は必至だ。それも旅の醍醐味であると言えば間違いないし、実際に香港よりも旅をしている感覚を強く覚えたからそれはそれでいいのだけれども、まだまだ炎天下の9月の移動はかなりしんどいものがあった。
そして、マカオで何をするかだが、前述のように香港ほど好きな訳でもないし、まして自分はギャンブルは一生しないと誓っている人間、さらに世界遺産や博物館などにもさほど興味はない。では、なぜわざわざ片道1時間かけて向かったか、それは、ブルース・リー映画の撮影スポットがここマカオにも存在していたからだ。
最初に向かったのは、おそらくリスボア近くの映画館だ。こちらはDragon The Bruce Lee Storyの危機一発のプレミアで、ブルース・リーが群衆に担がれ称えられた伝説のあのシーンの撮影場所だ。なので、別に本人が訪れた訳ではないのだけれども、大変ドラマティックなシーンであるため、ファンには欠かせない場所だ。
お次は、ドラゴン怒りの鉄拳の例の公園のシーン、ルイス・カモンエス公園だ。地図上ではすぐ見つかるものの、そこまでの道のりでかなり迷ってしまい、大分時間のロスとなってしまった。実際は聖ポールからすぐに行けるのだけれど、妙な方向から行ってしまったのがあだとなったのだろう。こちらは、もちろんブルース・リー本人が実際に訪れた記念碑的場所であり、当然門もそのまま残っているものの、画質の影響からか本編とは微妙に違う印象であり、ぶっちゃけさほど感動はしなかった。
3つ目は、死亡遊戯のランドの屋敷として使われた、ロウリムック(盧廉若公園)公園だ。こちらは当時の面影をほぼそのまま残しており、個人的にも好きなシーンの一つとはいえ、本物のブルース・リーは出てこないのにも関わらず大興奮したものだった。ここにいると、どこからかランドの叫び声が聞こえてきそうになる。
あとは、ブルース・リーが人力車で通訳を運ぶシーンもマカオで撮影されており、しかも聖ポールからカモンエス公園に行くときに必ず通る道だったらしいのだが、この時はそれを知らず、1年半近く経ってようやく写真に収める事になった。
自分にとっては、世界遺産よりも世界遺産なブルース・リー映画の撮影場所、そこを訪れてしまえばマカオでの目的はほとんど終わったようなものだった。しかし、それだけではまだまだ時間があまってしまう。そこで目星をつけたのが、ホテル・リスボアだ。
こちらの1階には、中国大陸からの売春婦が延々と往復しており、誰が名付けたが日本ではそれを回遊魚と呼んでいる。当然見るだけであったが、中には微妙なのもいるものの、容姿レベルは大変に高く、見ているだけでも十分目の保養になる。日本ではまずお目にかかれない、マカオならではの異様な光景であったが、あいにく2015年初頭に警察の一斉捜査が入ってしまい、全員御用となってしまった。よって、今行っても誰もおらず、あのにぎやかな通りが一変してしまった。
最後の目的地として選んだのはマカオタワーだ。高所恐怖症なくせに展望台が好きな私は、夜になる辺りで見に行くと決めていたが、日本ではありえないぐらに柱が細い作りであり、今にも倒れそうな感じであったため、展望台に着いてしばらくは外側まで歩けなかった。こちらでは屋根を歩くスカイウォークや、さらには世界最高のバンジージャンプも可能となっているが、窓のある展望台ですら恐ろしかった自分では挑戦など到底考えられなかった。夜景も、くすみがあるとは言え、綺麗なのはホテルとカジノの周辺のみなため、予想はしていたが香港のそれには到底及ばないものであった。
結局、香港へのフェリーへ乗ったのは午後10時の便だった。ほとんどが重慶のある尖沙咀行きの便であり、上環行きは1度しか乗った事がないものの、後者の方が席が豪華であり、時間帯も15分に1回は出ているため、優越感はあるだろう。また、フェリーターミナルも尖沙咀より作りが豪華であり、プレイスポットのクーポンなどもこちらで購入する事が可能だ。
順番は逆になってしまうが、午前便は大体ダフ屋が買い占めているので、急ぎの場合は大抵彼らから買う羽目になってしまう。しかし、何故か正規の値段より安かったりもするので、別に損はしないだろう。復路は午後1030出発の便であるが、席さえあれば何時でもいいようだ。大体、合計350HKDなので、正規に買うよりかはいくぶんお得だったりもする。
ポルトガル語は未だに公用語であり、公的な場所やお店の看板の表記は必ず中国語とのバイリンガル表記だ。しかし、ローカルでの通用度は皆無に等しく、博物館などにまれにいる、極々少数のポルトガル系住民からわずかに聞こえてくるぐらいだ。ホテルや、観光地のお店ではそれなりに英語が通用するので、観光のみであれば英語で十分だろう。しかし、ローカルの住民の英語力は、香港に比べるとかなり低いので、期待しないほうが無難だ。ファストフードやコンビニは香港系なので、ポルトガル語ではなく英語表記のメニューとなっている。
なので、正直ポルトガル語が公用語である意味はほとんどない感じではあるものの、日本ではおおよそ考えもつかない「ほとんどの住民が話せない言葉が公用語」という、なんとも不思議な空間を体験出来るのは、マカオならではと言っていいだろう。
そんな不思議な街マカオ、香港ほどではないものの、その後も色々記事などを読んでいったりして興味は尽きないのだけれども、やはり何度も足を運ぶと飽きてくるし、イミグレを通過するのも面倒、さらには大抵の場合で中国人観光客のツアーと重なるため、ついに前回マカオに足を運ぶ事はなかった。実際、プレイスポットなどでも、円安の影響もあって、日本人客の減少が顕著らしい。また、先日もあったように、ここ1年でフェリーの事故が多い、というのも怖いものがある。
ただ、欧州風の街並みや、無駄に豪華で派手なホテルやカジノなど、マカオにしかない魅力は間違いなく数多く存在するので、香港に行く機会があれば、ぜひマカオにも足を運んでもらいたいものです。マカオパスを忘れずに。