2021年02月19日 作成
昨年10月に42年勤務した会社を退職して以来生活激変が続いており、さらに来月からは活動の拠点を海外に移すことになった。退職前から需要・供給の関係からも次の仕事は海外かもと覚悟していたが、予想以上に国内からは声がかからなかった。もっともコロナ禍で当分海外渡航は難しいが、リモートワークの手段が発達して自宅に居ながらにして海外の研究開発系の仕事を受けることが簡単にできるようになった。
ここ数か月は無職というか幼稚園入園以来60年ぶりの無所属の自由を堪能したが、特に平日朝から海の間近のカフェ(休日は超満員)で江の島・富士山・サーファーたちを見ながらのんびりするのはいいものである。
そして2月8日(月)朝には久しぶりでスーパーボウルをTV観戦することもできた。
スーパーボウルとはアメリカンフットボールのNFL年間優勝決定戦(一番勝負)にして世界で最も大金が動く試合であり、日曜夕方に行われるので日本ではどうしても月曜朝になってしまう。
そして今年のスーパーボウルは史上最も注目を集める試合として、QB(クオーターバック・最重要ポジションで野球ならバッテリーと4番バッターを兼ねているようなもの)トム・ブレイディ率いるタンパベイ・バッカニアーズと、同じくQBパトリック・マホームズ率いるカンザスシティー・チーフスの対決となった。
トム・ブレイディは43歳(あらゆる高齢記録を更新中)にしてスーパーボウルに9回出場して6回優勝という個人記録どころかあらゆるチーム記録と比較してもさらに上をいく超人ぶりでニックネームはGOAT(Greatest Of All Times)又はTB12。
これに対してマホームズは25歳にして昨年のスーパーボウル覇者・そして5億ドルというあらゆるスポーツでの最高契約金額を更新したばかり。まさに史上最高vs現在最高の500億円男という夢のマッチであり、チームスポーツでは1974年ワールドカップ決勝のベッケンバウアー(西独)vsクライフ(オランダ)、個人スポーツでは1972年のスパスキーvsフィッシャーや1974年のフォアマンvsモハメド・アリに匹敵する大試合だった。
私はアメフトを一番熱心に観ていたのはO・J・シンプソン(写真下、現役1969-1979、1994年に妻に対する殺人容疑で大統領を超える超有名人に)の全盛期であり、当時のアメフトは19世紀末の創始時代からのラン戦法主体から現在まで続くパス戦法主体に変わりつつある時代だった。
なおアメフトはラグビーと異なりフォワードパスが認められている(ただし1プレイに1回のみ)のだから密集の中を走り抜けるラン戦法よりもパスの方が簡単そうであるがそうではない。これはアメフトではボールキャリアにタックルに来る守備側選手を攻撃側選手がブロックすることが認められている(これはラグビーでは重大な反則)からであり、このルールによりボールを持ったランナーは味方選手がブロックにより開けてくれた走路を走り抜けることができる。従って昔の大スターはだいたいRB(ランニングバック)であり、その最後の大物にして当時の史上最高のスターがシンプソンであった。
これに対してパス戦法を主体にするには常人離れした鉄砲肩と針の穴を通すようなコントロールとを持つQBが必要となり、その嚆矢が1969年のスーパーボウルを制したジョー・ネイマスであり、その完成形がGOAT・ブレイディと云えるかもしれない。
またブレイディは史上最高のスーパーモデルとされるジゼル・ブンチェンと結婚して史上最高同士のカップルとなり2児にも恵まれ、すべてを手に入れてこれ以上何が欲しいのか・・・
なおアメフトはバスケットボールほどではないにせよ黒人選手が多い(NFLでは70-80%)がQBだけは白人が多い(ブレイディもネイマスも白人QBであり、シンプソンは黒人RBであるがそれだけに白人妻の殺害がスキャンダラスな話題に)のを人種差別にからめて、QBにはスター性が必要とか司令官であるから頭脳が必要などと言う人がいる。実態は全くそんなことはなく、QBは唯一鉄砲肩が必要なポジションなので白人が有利なだけであろうし、陸上競技でも黒人優勢の種目が多いが投擲競技は白人優勢である。
それなら日本人のような黄色人種はというと、これは白黒に比べて小柄なのはやむを得ないので、身体のサイズが問題にならない―Size matters というと別の意味(笑)になってしまうが―競技が向いている。例えばサッカーでは大柄なディフェンスの間をすり抜けてゴールに迫るにはむしろ小柄な方が有利でマラドーナやメッシは160cm台である。
42年(これまでの人生の約2/3)にわたる前の会社では色々なことがあったが、最も幸運であったのは日本がその歴史上唯一の世界最先進国であったJapan as No1の時代を青壮年期に過ごすことができたことであった。当時は世界中どこに行っても世界最先進国から来たと遇してもらえたし、ペンタゴンでは世界の平和は日本(の技術)が護りますと云ってもまあそうだろうなという雰囲気であった。そして25ヶ国ほど廻ったが日本円はどの通貨より強く豪勢な旅行じゃなくて出張を味わうことができた。
しかしながら失われた10年だか20年だかが過ぎて状況は激変した。日本は先進国の地位を滑り落ちつつあり、特に国民・政府の縮み志向は将来の足枷になりそうである。
そして私もだんだんと使える人・モノ・金が少なくなり(研究開発はギャンブルみたいなものであるから、誰の研究にチップを張るかといえば若くて勢いのある人に将来を託するのが会社として当然の態度であろう)、ついにはお前の研究に投資する資源はないということで退職する流れになってしまった。
その流れの中でも最後の輝き?は日記
にも書いた2015年のフロリダ・メキシコ出張であり、エンジニアリングセラミックスでは世界で最も権威がある国際会議での研究プレゼンが好評で、還暦を前にそろそろやめようかと思っていたのがもう少しと続けることになった。そしてあれから5年たちいよいよ決断(まあ決断せずに残りたくても残れない状況ではあったが)したというわけである。
そしてその米国滞在中に観たのが今年と同じ2月7日(日)のスーパーボウル2015年であり、トム・ブレイディ率いるNEペイトリオッツが自身にとってもチームにとっても4度目のスーパーボウル優勝を果たし、史上最高の名勝負と謳われた。この時のブレイディ―は38歳であり当時は史上最高齢優勝QB、シンプソンの引退以来ロングパスが飛び交う近代アメフトに馴染めずNFLへの関心が薄れていたのだが、とんでもない選手がいるものだと再びアメフトを観るようになった。
そしてブレイディの最高齢記録の更新は終わらなかった。2017年・2019年のスーパーボウルでも優勝して優勝回数は6回、チームとしても優勝回数6回は彼が所属するペイトリオッツのみ(2002,2004,2005,2015,2017,2019)のダントツであり、ペイトリオッツ“王朝”と呼ばれNBAのマイケル・ジョーダンがいた時代のシカゴ・ブルズ王朝以上の存在とみなされるようになった。
しかしながらブレイディにも年齢の影は忍び寄ってきた。2020年のスーパーボウル出場を逃すとペイトリオッツから解雇。このまま引退と誰もが思ったが弱小チームと看做されていたバッカニアーズに電撃移籍。さすがに43歳だしましてやルーキー時代から20年過ごしたペイトリオッツから離れ新天地に移って活躍できるはずはない(ジョーダンだってキャリア最後にブルズから移ると何もできなかったし)と誰もが思ったのだが・・・
ところがブレイディ率いるバッカニアーズは次々と予想を覆し、次は負けるだろうと思われながら何とかスーパーボウル2021にたどり着いた。しかし待ち構えるのは若き500億円男が率いる前年優勝チームであり、前評判やオッズは絶望的であるがあのブレイディ―なら何とかするのではないかという根拠のない期待だけが高まり史上最高の盛り上がりでいよいよ試合開始となった。
私が昨年10月に退職した時はまさにコロナ真っ盛りで次を探すには最悪に時期にと思ったが、考えてみると絶好の機会かもしれないと思い直した。前の会社から私の研究にはもう投資できない(だからやめてほしいという意)と言われたのもコロナで経営状態が悪化したという事情も大きく、これはむしろ私の気力体力から考えると他所へ移る最後のチャンスかもしれない。そしてコロナの影響でリモートワークが盛んになりTV会議システム等の環境も整ってきたので海外の仕事を受けることも容易になってきた。
ZOOMは既に3億人が利用する必須のシステムになりつつあり、中国では国家方針で面倒な手続きなしにはZOOMは使えないということでZOOMをパクったVOOV(笑、しかしZOOMよりサクサク動くし新機能として顔をプリクラ並みに“盛る”機能が付いていてスッピン女子に好評だとか)を1億人が利用しているなどTV会議がコロナ時代には当り前の会議形態になりつつあって、これはコロナが収まった後も変わらないのではないだろうか。
こういう時代を背景にして、新職場では年間3-4か月の海外出張以外は自宅でのリモート勤務となり、海外出張といっても現在のコロナ禍ではどこにも行けない。リモート勤務といってもTV会議(時差もあるのでホストが米州・欧州にいれば深夜・早朝は当り前であるが)に月数回出席する時間以外は完全に自由であるので、休日平日の区別や勤務時間という概念は完全になくなった。まだ業務量がはっきりしないので、日本にいる時はとてつもなくヒマなのか逆に昼夜を問わず働き詰めになるのかは不明であるが、まあ成果次第というところだろうか。
年俸は前の会社の3-4倍(といっても労務付帯費が0であるから先方にとってはそれほどの負担ではないだろう)になったが、1年契約だし双方異存がなければ1年後には自動更新になっているものの実際には切られるかもっと良い契約を求めるかで現状維持はなさそう・・・という以前に1年契約そのものも違約金を払えばお互いにいつでも解約可能という非常に不安定な立場であり、被雇用者というよりフリーランスに近い立ち位置である。
もっとも実質的に雇用関係がないというのは不安定ではあるものの悪いことばかりではない。通常の日本の雇用環境では研究開発の成果物(典型例は特許権)は雀の涙の対価で実質的には会社に帰属するが、今回の契約では別途契約を結ぶことになっているので実質的には青天井である。そして特許明細書は私しか書けない(私以外でも書けるというのであればそもそもその発明に対する私の貢献度は?ということになる)のであるから出願前に契約を締結すれば後日もめることもない。
まあそんな取らぬ狸の皮算用以前の問題で、42年間国内の1社の経験しかない人間がグローバルな環境で通用するかどうか・・・やってみなければわからないし失敗したところで別に失うものもない。
スーパーボウル2021は大方の予想に反し31-9でバッカニアーズの圧勝に終わり、ブレイディ―は3本のタッチダウンパスを通し7回目の優勝を飾った。ペイトリオッツに残っていれば仮に同様に7回目の優勝をしてもまた勝ったかという程度で評価はそれほど上がらなかったと思われるが、新チームに移っても勝ったということで評価はさらに跳ね上がり、スポーツ界を超えた(シンプソンのような超え方ではなく)超有名人になった。
私も大いに興奮して(淡い)期待通りの結果で大満足であった。高倉健の仁侠映画を観た帰りに肩を怒らせて歩くファンの心境だろうか。
2021年02月20日 追記
アメフトは米国では宗教的な大人気なのに、日本では(というか他の国でもか)サッパリです。以前にブレイディを取り上げた記事でジゼル・ブンチェンの夫(笑)と紹介されていてのけぞったこともあります。
やはりルールが複雑で何をやっているのかわからないからかな。サッカーやボクシングはあれ何やってるのということはないですから。
例の日大事件の時も、マスコミがフットボールをわかっていないためひどい報道でした。
あのプレイ?は野球で言えばバッターがマウンドに駆け寄ってピッチャーをバットで殴りつけたようなもので、“コーチから相手のエースをやっつけてこいという指示があったから”と釈明したとすれば・・・
2021年02月22日 追記
考えてみるとブレイディの勝因の一つにコロナを味方につけたことも挙げられるかも。
いや最初は味方どころではなく、自分も含め主要メンバーの大半(実に今回のスーパーボウルで得点した選手全員)が今シーズンから入団という急造チームがコロナのため充分な準備もできずシーズン開幕時は散々だったのだが、段々調子を上げてきて・・・
そして最後のスーパーボウルでは史上初のホーム(タンパベイ)開催の上、通常なら両チームホーム及び全米から観客を集めるのにコロナだからということで観客は地元のみで大声援。
おまけにコロナのため相手は試合前日にマイナス5 ℃のカンザスシティから25℃のフロリダに移動。
最後はコロナまで味方にしてしまうというブレイディ恐るべし。
勝ち将棋鬼の如しともいうが、勢いがつくとどんなマイナス要因でもプラスに転じてしまうのでチャンスを逃さないようにしなければ。
2021年03月10日 追記
いよいよ今月から新業務が始まった。
拘束時間は月に数回のTV会議のみなのであるが、やはり”仕事”をしている時間は土日も関係なしに深夜まで・・・というか何が仕事なのかわからない状態になりつつある。
海外に出るのは6月から・・・の予定であるがコロナがまだ収まっていなければさあどうなるか。
在宅で仕事をしているとキリがないしメリハリもつかないので海外に出た方が気楽のような気もするが。
2021年06月05日 追記
今月中にコロナワクチン注射も終了し、いよいよ来月から海外が中心の仕事体制になる。
いつまで続けられるかはわからないが、モットーである“生涯現役”を全うしたいものである。
2023年04月02日 追記
ブレイディは翌年のスーパーボウル出場を逃すと引退、ジゼルとも離婚した。人生とはこんなものか。
そして人生で輝いていた時期が終わっても、それよりはるかに長い期間人生は続いていく。