その上司はなかなかのひねくれ者で、切れ者で、よくわからない人だった。
お洒落が好きで、花火が好きで、東北のご出身と聞いたことがあるが、まるで江戸っ子のような感じがした。
今月末で長のお勤めを終える上司は、今日が最終出勤日だった。
じめっとした涙のお別れは好まないのだろう。
私達にもいつも通りを求めて、動いているように見えた。
まるで早退するかのようにいつも通り、薄い通勤カバンを片手に帰ろうとしたので、慌てて2メートルにも満たない花道を私達は作った。上司は苦笑いしながらくぐって行って、その後はさっさとドアを開けて出て行こうとした。
一度だけこちらを振り返りながら。
ひとりずつに、それぞれの名前を書いた封筒に入ってる分厚い手紙と、誰もが名前は聞いたことがあるような上等な銘柄の日本酒の小さな瓶を残して、上司は去って行った。
自宅に胡蝶蘭を手配しているのはうちの部署のいつもの習わしで。
この季節に花束はきっと花がかわいそう。それに、彼はすぐそのまま飲みにでも行くのかもしれなかった。
でも花束はあの上司に結構似合ったような気がした。
働き終えた人が持つ花束は、ただの幸福ではない重さがあるに違いないのだ。
私も何か贈りたかったな。これから送ろうかな。
江戸っ子のような東北人の上司に、手ぬぐいを送りたい。
この夏使ってもらいたい。
好みにうるさそうだから、気に入らなければ布巾にでもしてもらって構わない。
手紙に、自身を潔癖症と称していた。
私はあの上司がちょっと苦手だった。でも、よいなと思うところもたくさんあった。
天邪鬼な、多分(いや、絶対)、寂しがり屋に違いない上司。
返事はいらないけどたまに葉書を書こうかな。
メールをやり取りするほど近しくはなかったけれど。
くださった手紙の封筒に書かれた宛名の字は、くっきりとしていて、読みやすく、厳しいけど、根本のところでは暖かさのある、彼らしい字であった。