そのひとのことを知りたいと思うなら本箱を見ればいいと真面目に思っている。本箱は頭の中。彼(女)の宇宙がぐるぐる渦まいている。とある植物の名前を知りたいとき数年に一度だけ開く図鑑を捨てずにとってあったり、ふと思い出した詩の一行を読み直したくて真夜中に文字の海を漁ってみたり、死の深淵を思いながらため息をついたと思ったらうっとりしてみたり、誰かを殺したいほど憎いと思いながら頁をめくるのがおろそかになったり、官能に浸りながら手をさまよわせることもあったり、そういういろいろが渦を巻く。

それから、そのひとの鞄の中を見ればその横顔以上にいろんなことがわかってしまう。どんな携帯電話を使っているのか、手帳は毎年変えているのか、すっかりくたびれた皮の手帖を愛用しているのか。音楽を聴きながら何かするのが好きなのか、それとも自分の内側のせかいだけに浸っていたいのか。どんな音楽が好きなのか。どんな眼鏡をかけているのか。近視なのかただのサングラスなのか。光に弱いのか老眼なのか。名刺を持ち歩くのか。ピルケースを持ち歩いてるきみ。なんの薬が入っているのか、なんてことを。きっと知ることができてしまう。いつか出かけた映画のもぎとられた残骸。そんなものひとつひとつがそのひとを形成しているみたいで。鞄を覗き込むことは淫靡なことのような気がしてどきんとしてしまう。

なんてことを妄想しながら旅行鞄を片づけた。こんな自分は十分にヘンタイの素質があると思ったりしている。