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健景は信洛の手勢を突撃させて、酒井隊を摩耗させて味方の損耗を少なくする。

 武士としては卑怯な振る舞いである事は信洛にも分かっていたし、多くの将兵を死傷させている、傍観している味方に腸が煮えかえる思いであったが、僅かな手勢で敵の陣立てを次々に突き崩す姿を見せる事は八百長家の名を上げることになり、朝倉家における立場も強くなるという冷徹な思いが胸中にあった。

 渡河する際に波飛沫を立てながら、騎馬武者、足軽が主力の健景隊二千五百余りが信洛隊が切り開いた進撃路を進み、突出部で苦戦している残存将兵を救うべく、急速前進した。

 風にたなびいた白地に三つ盛木瓜の旗指物を差した軍勢が迫ってくるのが、突出部からも見えた。

「味方が救援に駆け付けたぞ! 怯むな、もう少しの辛抱じゃ!」信洛は悪鬼の如く戦った。
 
 顔には汗が迸り、返り血も沢山浴びていたので流血している様に見えた。

 総大将自ら太刀を振るい、大音声を上げながら意気軒高に戦う姿を見た味方は劣勢状態にあったが、逃げようとする者はただの一人もいなかった。

 正兵、寛時も負傷を負っているにもかかわらず、手傷を被り動けなくなった味方を援護し、自慢の大太刀、長巻を振るい、数に勝る酒井勢を蹴散らす。

 手負いの者は百余り、残った戦闘可能な百で方円を形成して、猛攻を凌いだ。

 健景隊が到着し、押されていた戦況が変わり再び押し返す事に成功した。

 そこに長槍を携えた一騎の武者が信洛に近寄ってきた。

「信洛! 凄まじい突撃じゃ、本国の御屋形様にも、そちの活躍伝えるぞ」

 熊頭形兜に漆黒の当世具足に身を包んだ健景が馬上から労った。

 信洛は慌てて、馬から降りた。

「はは、有難き幸せ! そのような言葉を頂戴いただけるとは、この信洛は日の本一の果報者にござる」

 戦場では怖いもの知らずであったが、主家に対しては平身低頭を表向き繕っていた。内心は隙あらば、伊勢新九郎や斉藤道三のように国を乗っ取ろうという野心を抱いていた。

 いや、欲深さに関しては底なしの信洛、越前一国どころではなく、全国を平らげる積りでいた。

 今は、朝倉家に忠節を誓う家臣に成りすまし力を蓄えて、戦場で武功を挙げて内外にその武勇を知らしめる、戦の規模が大きければ大きいほど闘争心に火が付く。

 捨て石くらいに思っているだろうが、今に見ておれ、お前たちを越前から追い出して、俺の国を築いてみせる。

「戦場は我が武功を挙げる、掛け替えのない舞台でござる!」というと馬に乗り、健景隊と共に敵軍へと突撃していった。