後付けVibrola(ヴァイブローラ)搭載の問題ですが、
その1、強く弾くと弦がサドルの弦ミゾから外れる。

ベンディングするとピキンとノイズが出る。
 

これは、中華製ブリッジサドルの弦ミゾ形状がルーズなのが主要因ですが、サドルを押さえつける力が弱いのも要因となっています。

その2、これが最大の問題ですが、ボディが響かない。
元々、ボディの薄いSGは中音域のボディ鳴りが良いはずなのですが、弦だけが鳴っている感じでボディの響きが弱く感じます。
生音のボディの響きが出てこない感じです。


浮きフレット程ではありませんが、鳴らない原因は、やはり弦がサドルを押し付ける力が充分ではなく振動が伝わり切れていないからでしょう。

これは、弦の末端ボールエンドとサドルの角度が緩やかである事で起こります。

弦のテンションが50㎏(弦の両端に50㎏の張力が掛かっているという意味です)掛かっているとした場合、ボールエンドとサドルの角度が30°と10°ではサドルに掛かる合成荷重は以下のようになります。


F1、F2はサドルを起点とした長さではなくてベクトル荷重です。

計算は以下のサイトで自動計算です。
https://seihin-sekkei.com/calculation-tool/resultant-force/

約26㎏と9㎏では大きく違いますね。
これが振動の伝達、つまり響きの差を出しているものと思われます。

ちょっと話がややこしくなりますが、「テンション」に触れておきます。

ボールエンドとサドルの角度を弱めると弦のテンション(張力)が弱くなるというのは良く聞かれる話ですが、間違いです。


角度が1度であれ、90度であれ、弦のテンションは変わりません。
図にしてみればすぐ分かります。弦の両端に50㎏のテンションが掛かっているとしてサドルで角度を変えたとしても50㎏のテンションは変わりません。

ここからがややこしくなる話です。
弦のテンションは厳密にいえば弦の両端に掛かる荷重ですので同音程のチューニングであればテンションが変わる要素はスケール(弦長)だけです。
ロングスケールのギターは弦のテンション(張力)が強く、ショートスケールのギターはテンションが弱い。となるわけです。

ところが、サドルに掛かる荷重も「テンション」とひっくるめて言われる場合があるので話がややこしくなるのです。
正確には、張力と合成荷重のまったく別の事柄です。

更に、話がややこしくしているのが、「トレモロ付のギターは弦のテンションが柔らかくベンディングがやり易い」という話です。
これも、まったく別の話ですがごちゃ混ぜになって「テンション」とひとくくりにされてしまっています。

ストップテールピースと違ってヴァイブローラはストラトキャスターのトレモロと同じで6本の弦のテンション(張力)をバネの
テンション(反発力)で釣り合わせています。
例えば2弦を全音ベンディングする場合、2弦のテンション(張力)は、音程が上がるのでテンションが上がっていると分かります。
しかし、2弦のテンションが上がる事でバネが引き伸ばされて他の弦のテンションは下がることになります。
もちろん、2弦のテンションも下がるので、音程を合わせようとすると更にベンド量を増やさなくてはなりません。
単に弦をベンディングする行為だけならバネが伸びるおかげでやり易くなりますが音程を合わせようとするとベンド量を増やさなくてはならないので
運動力学的にはベンディングが楽になるとは言い難いわけです。

まとめると弦の「テンション」と簡単に言いますが、


・物理的弦の張力
・サドルに掛かる弦張力の合成荷重
・トレモロ等のバネ伸縮による張力変化


の3つがあって、全く別の話なんですね。

では、話を戻して、サドルに掛かる荷重の低さで引き起る前述した問題ですがこれを解決するためにボールエンドとサドルの角度を強くしてやれば良いわけです。

これは、ブリッジを高くしてやればOKなのですが、セットネックのギターではネックの挿し込み角度を変えられないので限界があります。
そこでボールエンド側を下げる事にします。

一言で言えば、トップを掘り込んでヴァイブローラを落とし込んでやるわけです。

加工は難しくはありません。ヴァイブローラの外形に合わせてトップをルーターで数mm掘り込んでやるだけです。

更に今回、板バネのボディ干渉を無くすために板バネ部だけ更に深く掘り込もうと思います。


というのも、ヴァイブローラーでアームダウンすると、板バネがボディに接触して動きが制限されるのでタッチが変わってしまいます。


ボディ側を掘り込んでやると板バネの干渉がなくなりますので自由にアームダウンができるわけです。

まぁ限界はありますが。

先ずは、ヴァイブローラを取り付けた状態で外形をトレースしてからヴァイブローラーを外します。

再塗装するので直接マジックペンで書いてます。


ルーター作業の邪魔になりますので電装系は全て外しておきます。



ブリッジのスタッドアンカーはマスキングしてからルーターで掘り込みます。今回は6mm掘り込みました。




塗装して終了。電装系を再度組んでいきます。


塗装するとル-ターガイドがぐらついてデコボコになったビット跡が鮮明になっちゃいますな~まぁ隠れる場所だからイイんです。


板バネ部が当たる場所には底当たりを柔らかくするためにウレタンシートを貼り付けておきました。

ついでにアース位置もアウトプットジャック横から取り直しました。



今回6mm程掘り込みましたが、実際にどれくらいヴァイブローラを落とし込むかは、ヴァイブローラの基部に挟み込むスペーサーの厚みで微調整できるようにしました。

今回は1.5mm厚のスペーサーがちょうど良いようでした。

 

ヴァイブローラを落とし込みにする事でアームの位置がボディトップに近くなり過ぎて操作し難くなりますのでアームの取付部にスペーサーを挿入して基部を延長してやります。
 

アルミブロックを削り出してΦ13mm×5mmのパイプを作って挟み込む事でアームの位置を補正しました。



6弦側は、無負荷でこのくらい落し込んでいます。



ちょっと見ただけではヴァイブローラを落とし込みしているなんて分かりませんし、返ってスマートに見えませんか?



サドルの弦の角度もこれくらいあれば充分です。



ボディ鳴りも高域側にレンジが広がった感じでカッチリ感が出てきました。
やっぱりこうじゃなきゃ!

ボディ鳴りが改善されたら今まで気づかなかったフロントとセンターのピックアップカバーの共振音が出ることに気付きました。


次にバラす時に、コイルとカバーの間に接着剤を流し込んで固めましょう。
ついでにネックジョイント部の塗装クラックもリペアしておきました。

 

しっかし、中華ヴァイブローラの精度の悪さには手が掛かる…。

純正品だと何の問題もなくバッチリ決まるんでしょうかね?