今回は、前回紹介した、教師の指導に従わない「周囲から受け入れられにくい子供達」(「自閉症スペクトラム障害」及び「愛着スペクトラム障害」)がどんな障害特性を持っているのかについてお話しします。


 自閉症スペクトラム障害、横文字で言うと「Autistic Spectrum Disorder」、略して「ASD」とも呼んでいます。

 まず「自閉症スペクトラム」、「AS」という概念そのものからお話しします。「自閉症スペクトラム」とは「一方に自閉症の障害者を、その対極に健常者を位置づけ、両者を主に社会性の程度で関連づけ、双方を別ものとして捉えるのではなく一つのスペクトラム体、つまり連続したまとまりとして捉える考え方」のことです。「スペクトラム」とは「連続した」という意味です。しかもその特性は先天性つまり生まれつきのもので基本的な特性は大人になっても変わりません。

 そのうえでASDとは「障害者から健常者まで含む連続体の中でも自閉症スペクトラムの程度が特に強い障害域にあるもの」のことを指します。つまり「AS、自閉症スペクトラムの傾向がDisorder(障害)域にある」のでASにDが加わり「ASD」と言うわけです。ですから、たとえ自閉症スペクトラムの傾向が障害域には無くても「健常者を含む全ての人が大なり小なり自閉症スペクトラムの傾向を持っていて、その傾向が弱い健常の人から特に強い障害域の人まで連続して分布している」ということになります。因みに「障害域の人は全体の約3%、グレーゾーン域の人は10%程度いる」と言われています。

「誰もが大なり小なり自閉症スペクトラムの傾向を持っている」ということは「健常者と自閉症者とは別世界の存在」と思うのは間違いということになります。

 なお、学校現場では「自閉症スペクトラム障害」という名前以外にも幾つかの呼ばれ方をしています。単に「自閉症」、また「広汎性発達障害」、更に知的遅れの無い自閉症スペクトラム障害に限って「アスペルガー症候群」と呼ぶ場合もあります。尚今日の講義では単に「自閉症」と呼ぶ場合もあります。


 次に自閉症スペクトラム障害の特性についてお話しします。

 その根本となる特性は「過敏性」と考えられます。それは外部からのわずかな刺激に対してとても敏感に反応する特性のことです。それらを強過ぎる刺激として不快に感じ精神的に不安定になり、様々な不適応行動、例えば、激しく怒る、暴れる、他者に危害を加える、泣き叫ぶ、行動が止まる、等の言動が見られがちです。本人からすると、いつ不快刺激におそわれるか分からないのでいつも不安感に悩まされています。



「愛着」とは児童精神科医ボウルビィが提唱し始めた考え方で、一言で言うと人と人との間で心の中に結ばれる「愛の絆」のことです。この愛着の考え方においては「ある他者と愛着で繋がっている時、子供がその相手を『安全基地』として認識し、『この人は信頼できる人だ』という安心感が確保され、それによって、『外界を冒険しよう』、例えば『一人で歩いてみよう』『親を離れて登園・登校しよう』『辛いことも我慢しよう、』『新しいことに挑戦しよう』等という意欲を持つことができる」と考えられています。いわゆる「子供に愛情を注ぐ」とは「支援者と子供との間に『愛の絆』を作ること」と解釈できます。

 ここで重要な事はこの愛着、愛の絆が先天性、つまり生まれつきの性質よりも、生まれた後の大人の育て方によって決まるという後天性の性質の方が強いということです。つまり子供との間に愛着が形成できるかどうかは多くの場合大人の努力次第で決まり、場合によっては一度不安定になった愛着を修復することも可能であるということです。ですから私は、一般的に「生まれつきの特質」という印象が強い「障害」という表現は使わずあくまで「愛着が完全ではない状態」という意味として「愛着不全」という言い方をしています。

 なお親がこの愛着を形成するのに最もふさわしい時期は、1歳半までとされていますが、仮に親との間に不安定な愛着が形成されてしまった後でも教師が学校で適切な接し方をすれば、その子供との間に安定した愛着を形成し直すことも可能ですし、更にそれをきっかけにして子供と親との関係までも良好なものにできる場合もあります。


 ではその「愛着不全」とは具体的にどのような状態を言うのでしょうか?

 愛着不全とは親と、愛着、愛の絆が不安定であるために安心感が欠落し、そのことが人格面に表れた問題症状と捉えられます。例えば、大人に反抗的、他者への共感性が低い、自己否定感が強い等が挙げられます。

 更にその愛着不全には大きく分けて二種類あると考えられています。まずは「反応性愛着障害」と呼ばれる、親による極端な虐待、養育放棄等によって引き起こされる深刻な人格面の問題症状があります。

 今回取り上げるのはこれではなくもう一つの「愛着スペクトラム障害」と呼ばれているものです。これは「障害と健常との区切りが無く連続的、つまりスペクトラムに分布する、どの家庭でも起こり得る人格面の問題症状」のことを指します。出現率は約30%にも上ると言われています。

 なおこちらの愛着不全は更に大きく二つに分けられ、一つは親がいつも怒ってばかりいたり子供に対して関心不足だったりした場合に陥る、他人を避けがちな「回避型」愛着不全、もう一つは親が気分次第で接していたり神経質だったりした場合に陥る、他人の愛情に対して不安感を持ちがちな「不安型」愛着不全があります。更に重篤な場合にはこの二つが併発、つまり同時に起こるケースもあります。


 この後、まず自閉症スペクトラム障害の子供の困難特性について紹介していますが、それについては以前投稿した下記記事(自閉症スペクトラム障害・愛着スペクトラム障害共通に見られる特性と自閉症スペクトラム障害特有の特性)を参照してください。




 次に愛着不全特有の特性についてお話しします。

 まず「反抗的な言動」がありました。例えば、親や権威のある人に攻撃的・挑発的な態度をとる、わざと危険なことをしようとする、社会のルールや決まりを破る、他虐的で動物や自分より弱いものに残酷である等の特徴が見られます。これは他者との“愛の絆”が弱く、人間社会そのものを敵対視しているためと解釈できます。

 そして「自己肯定感の低さ」でした。例えば、自分自身や人間関係に否定的な考えを持っている、忍耐力や集中力が低く課題達成をあきらめている等の特徴が見られます。これは他者との絆を大切にできない自分に端を発して「自分はダメな人間」という投げやりな意識があるためと解釈できます。

 なおこの二つについては、特に人との交わりを避けがちな「回避型」愛着不全に見られます。


 更に「他者への依存性の強さ」がありました。例えば、相手が怒っていないかどうか過度に気を遣う、相手に嫌われることを過度に恐れるため反対意見が言えない等の特徴が見られます。これは気分に一貫性が無い相手に対して必死に気に入ってもらえるよう焦っているためと解釈できます。これについては、特に他者の愛情に対して不安感を持ちがちな「不安型」愛着不全に見られます。



 次回は、これまでに述べた自閉症スペクトラム障害と愛着スペクトラム障害の特性を踏まえたうえで、前回紹介した下記のような状況下での望ましい支援の仕方について紹介します。