今回は前回紹介した母親の2つ目の悩みに答えます。



②親「なぜあの子は乱暴なことをするのでしょうか」との悩みに対して

 結論から言うと、お子さんは、親御さんのことが嫌いなわけでも、何かに怒っているわけでもありません。

 “過敏性”の特性に対して外部刺激が強すぎた結果、パニック状態になったために起きていることが殆どです。

 例えば、苦手な五感刺激(聴、臭、味、触、視)や誰かの厳しく否定的な言動や表情に対して過度に敏感に反応してしまい不適応行動をとってしまいます。私が以前担任していた自閉症スペクトラム障害の男の子も、ある時、お母さんの「困った子」という表情を見て、その数秒後に母親の顔を平手打ちしてしまいました。それまでは何事もなく過ごしていたにもかかわらずです。

 しかし、その数日後にその男の子は、ある事をきっかけにして、すっかり「お母さん大好きっ子」に変身し、二度とお母さんに暴力をふるうことは無くなりました。その“からくり”については「4つ目の悩み」のスライドで紹介します。


 自閉症スペクトラム障害の子供の特性を紹介する関連スライドは下記の通りです。なお、前回お知らせしたように、自閉症スペクトラムの傾向は大なり小なり誰にでも見られるので、下記スライドで紹介する特性は健常域の人に見られる場合もあるはずです。

 また、下記スライドでは愛着不全(「愛着スペクトラム障害」)と比較して紹介していますのでご了承ください。







 上記のピンク枠部分は長所となることが多い特性を表しています。以下も同じです。

 上記の特定の興味や趣味に没頭できる探究心は、科学者や芸術家や職人などに見られる特性です。彼らにとっては自閉症特性がそのまま才能となっているのです。


 上記の「人への過敏性」は正式には自閉症スペクトラム障害の特性として挙げられているものではありません。ただし、このような人や状況への過敏性(「心理社会的過敏性」)は、様々な自閉症スペクトラム障害の人たちに見られる特性です。「自閉症の僕が跳びはねる理由」の著者で絵本作家の東田直樹さんも「周りの人からの冷たい視線が体に突き刺さるように痛かった」とおっしゃっていますし、先に紹介した母親の「困った子だ」という表情に反応して暴力を振るう男の子も同様でした。

 また、スライド内で表記している「肉屋のおじさん」とは、精神科医青木省三氏の名著「僕らの中の発達障害」(筑摩書房)で紹介されているエピソードですが、長く引きこもりに陥っていたある女の子が「いつも行っていた肉屋のおじさんに会いたい」と言って外に出ることができたというものです。その肉屋のおじさんはその女の子にいつも笑顔で気さくに話しかけてくれていたそうです。きっとその子にとってはそのおじさんが、愛着理論で言うところの「安全基地」としての存在になっていたのでしょう。社会の中にそういう存在の大人がいることは、“孤独”や“孤立”を防ぐ上でとても大切なことだと思います。


 なお、書籍「ふしぎだね?自閉症のおともだち」(ミネルヴァ書房)では、自閉症スペクトラム障害の子供の特性を漫画で分かりやすく紹介しています。