今日は、これまでランダムに紹介してきた考え方を、一連の流れに整理したいと思います。

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 以下の「愛着場面表」は、精神医学での愛着理論(「愛着が形成され安心感を提供する安全基地が保障された子供は、積極的に様々な探索行動を起こすことができるようになる」という考え)を2つの場面に分けて構造化したものです。

 なお、この2場面のそもそもの“源流”は、「愛着スペクトラム障害」(後天的な養育環境によるものであるため私は「愛着不全」と呼んでいるもの)の二大タイプで、一つは、親からの愛情が不足しているために陥る「回避型」タイプ。もう一つは、親からの愛情が過剰で偏っているために陥る「不安型」タイプでした(もう一つの「混乱型」はこの二つの併発)。
 更に私は、これらの愛着不全に陥らないために必要な要因として、まず愛情不足の「回避型」にならないために必要なものが、子供に適切な愛情を与える母性であり、愛情過多の「不安型」にならないために必要なものが、子供との距離を適度に維持する父性ではないかと考えました。

 ここまでの考えを2019年の日本家庭教育学会で発表しました。この時参観者から「母性と父性が必要だと考えている人は本当にいるのか?」と言う質問を受けましたが、それは後に、児童精神科医の権威であった故佐々木正美氏の「子供が健全に成長するためには母性的な要素と父性的な要素が必要であることは言うまでもない」と指摘する文献によって解決されました。

 さて、この中で、これまでは安心感が不足して問題を抱えている人がいる場面を「充電場面」と呼んできましたが、この場面にいる子供は皆安心感が不足した状態であり、必ずしもどの子も安心感を充足できるわけではないことから、今後は「不安場面」と呼ぶことにします。

 更に以下の「愛着三場面表」は、この「不安場面」と「活動場面」の2つに加えて、「ストローク(心の栄養)バンク」(自分の心の中にプラスのストロークが貯まっていると、他人に対してもプラスのストロークを発することができる)の考え方や、「登校拒否や自殺に至った子供の要因の多くが家庭での日常的な安心感不足だった」という調査結果を元に、日常的に安心感を貯めておくための「日常場面」を加えて、子育ての要素となる3つの場面を設定したものです。


 更に、以下の「子育ての基本の整理」は、その3つの場面と父母両性の働きとから、「どの場面でどちらの性の支援を行えばいいか?」を私なりにまとめたものです。

 支援を考えるにあたっては、先ず初めに、子供は今①〜③のどの場面にいるかを判断します(赤三股矢印①)が、これは容易にできるでしょう。
 その後、子供に問題がある「②不安場面」だった場合は、先ずは子供の気持ちに共感する母性の働きを施します。その後更に、その問題が深刻か否か?を判断(赤二股矢印②)して、深刻でない場合には更に父性による指導を加えますが、深刻な場合には父性の働きは加えず子供の「自力回復力」を待ちます。判断に迷うとすれば、この点しかないだろうと思うので、このくらいなら多忙な子育ての中でも活かすことができると思います。

 3つの場面と2つの支援。この組み合わせによれば、ほとんど落ちなく子育てシーンに対応することが可能だと考えています。

 なお、母性の働きに当たる支援は「安心7支援」です。この中で、問題のある子供に接する時に大切な支援は、子供を見て微笑んで「何か嫌なことがあったのね」等と穏やかに問いかけ、その後の子供の話を否定せず最後まで聞くことです。
 父性の働きに当たる支援は「見守り4支援」。この中で、子供が何かに熱中している時に大切な支援は子供の活動を温かく見守ること。また、問題を抱えた子供に母性の後に父性を施す場合には、子供の社会的な自立を促すために優しく助言すること(基本は子供からSOSが出た時)です。


《子どもが小さいうちは、育児の負担が大きくなりがち。限られた時間のなかで、仕事や家事、育児を毎日こなしていると、体調が悪かったり疲れがたまったりしたときに、いつもなら何でもないことが急に気になりだして、気づいたら子どもを怒鳴ったり叩いたりしてしまった…という経験は、子育てをしている親であれば誰にでもあるかと思います。》
 このような悩みに対して、「アンガーマネージメント(怒り感情への対処)」等、様々な方策が考えられると思いますが、私は「どんな時にどのように子供に接すれば良いのか?」という“見通し”をあらかじめ持っていることが、感情に流されないための一つの方策ではないかと考えています。
 例えば、親が「イラッ」とするのは大抵は子供が問題行動を起こした時(上記「②不安場面」)だと思いますが、その時に「先ずは『嫌なことがあったのね?』等と子供の気持ちを受け止める“母性”で接すれば良い」と“見通し”を持っているだけで、気持ちはずっと落ち着くはずです。更に、問題がそれほど深刻ではなく“父性”による指導が可能ならば、「子供の気持ちを受け止めた後に穏やかな口調で指導すれば、子供はその言葉を受け止めることができる」という“見通し”も親の気持ちを安定させるでしょう。因みに、先の佐々木正美氏は「子供は『自分の気持ちを分かってくれる親の言うことを聞きたい』と思っている」と強く主張しています。