【今回の記事】
Eテレ「すくすく子育て」より

《助言専門家》
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
市川香織(東京情報大学 准教授/助産師/母性看護学)

【記事の概要】
《今回のテーマについて》
 2020年11月に行われた調査によると、0~5歳の子どもを持つ保護者の30.3%に、中等症以上のうつ症状があるとわかりました。今は、コロナ禍の影響も心配されます。

《専門家》
 はじめての子育てであれば、心が折れたり、苦しくなったりするのは当然です。コロナ禍以前に、そもそも子育てをパパ・ママだけで担うのは無理があるのです。コロナ禍で、そのことが改めてあぶり出されたと感じています。
             (番組とは関係のないイメージ)
 
《お子さん4ヶ月のママ》
 夫が仕事に行くと赤ちゃんと2人きりで、泣き声を聞くだけで心がモヤモヤしたり、思っていた子育てと違うと感じたり、憂うつな気持ちになって理由もなく気分が沈んでいました。
 気持ちが変わるきっかけになったのは、産後の1か月健診です。医師が私の異変に気づいてくれたんです。その後、パパに不安を打ち明けることができて、パパや家族が私を支えてくれるようになりました。今では子どもをかわいいと思えます。
《お子さん3ヶ月のママ》
 出産した病院で「赤ちゃんには母乳が一番」と指導され、母乳だけで育てたいと思い、どんなに眠くても辛くてもミルクを使いませんでした。見かねた家族から「ミルクをあげてみれば」と言われましたが、病院で言われた通りにしないと思って聞く耳を持てませんでした
 赤ちゃんが泣いているのは、自分がダメな母親だから泣いていると責められているようでした
 里帰りしていたある夜、突然、どうきと体の震えに襲われました。怖くなって実家の母に助けを求め、抱えている不安を全て打ち明けました。その後、母の勧めで地域の保健師に相談して、やっと母乳へのこだわりを捨てることができたんです。

《専門家》
親だけで子どもを育てる今の状況が前代未聞なのです。大家族がよいかどうかは別の考えがありますが、かつてはみんなで助け合いながら子どもを見守っていたのに、今はほとんどママひとりになっています。
ママが満たされると、満たされた愛情が子どもに注がれます。そのような循環が大切だと思います。

《お子さん3歳のパパ》
 寝不足のせいか、次第に妻がイライラをぶつけてくるようになりました。「仕事を早く終わらせて家のことをして」「昼は仕事して自分だけいいね」と言われたりもしました。妻も苦しんでいたと思います。ちょうど転勤したばかりで、気軽に相談できる家族や友人もおらず、夫婦で話し合う余裕もなく、孤立していました。
 その頃、毎朝5時に子どもと散歩に出るのが日課でした。夜泣きで疲れた妻を寝かせるためです。ある日、近所のおばあさんたちに「がんばってるね」と声をかけてもらえて —— その言葉に、どんなに救われたかわかりません

【感想】
 以下、記事中の記述(アンダーライン部)から、気が付いたことをお話ししたいと思います。

◯《そもそも子育てをパパ・ママだけで担うのは無理がある》
《親だけで子どもを育てる今の状況が前代未聞》
→本来人間には「共同養育」という地域集団の人間同士で協力して子育てにあたるという本能があると言われます。ましてや母親だけで“ワンオペ育児”をするのは到底無理なのです。
 以前、ある母親が衝動的に赤ちゃんを床に投げつけて殺してしまったという事件がありましたが、ワンオペ育児をさせている限り、どのお母さんが同じようになってもおかしくありません。今現在、そういう異常な子育て形態にあることを、先ずは育休取得率が僅か8%とされる父親達が気付かなければならないと思います。父親が目先の仕事を優先させたばかりに、母親が精神的に不安定になって褒める・叱るが極端になれば子供が「不安型」愛着不全に、更に状況が深刻化して母親が子供の世話を拒否することにでもなれば「回避型」愛着不全に、それぞれ陥ってしまい、「第二の遺伝子」とも呼ばれる愛着が不安定になり、その結果、子供の一生の人格に悪影響を及ぼすことも十分考えられるのです。
 そもそも日本社会に愛着不全現象が現れたのも、戦後高度経済成長期に、子育てに祖父母の協力が得られた三世代家族核から独立した核家族に移行したことがきっかけだったのですから。

◯《医師が私の異変に気づいてくれて、その後、パパに不安を打ち明けることができて、パパや家族が私を支えてくれるようになりました》
→先にお話ししたように、ワンオペ育児は無謀な行為なのですから、「もしうまくいかなかったら、その時には支援体制を強化する」のではなく、初めから、最低でも両親が分担して子育て体制を組む必要があると思います。

◯《赤ちゃんが泣いているのは、自分がダメな母親だから泣いていると責められているようだった》
→以下は、岡田尊司著「愛着障害〜子供時代を引きずる人々〜」(光文社新書)からの引用です。
「泣いてもお母さんが戻ってこないということになると、子ども(乳児)は泣くのを止め、しょんぼりと落ち込み、自分がお母さんから見捨てられたと思い、打ちひしがれる(「絶望」段階)。
 更に時間が経つにつれ、お母さんを求める気持ちはほとんど無くなっていき、自分が生き延びるために、止む無く自分が愛した存在を自分の心から消し去る(「脱愛着」段階)

 つまり、子供が「あなたはダメな母親です」と見限ったら泣いたりしません。赤ちゃんが泣いてお母さんを呼ぶのは、お母さんを頼っている証なのです。

◯《病院で言われた通り「母乳が一番いい」と思って聞く耳を持てませんでした。その後、突然どうきと体の震えに襲われ、母の勧めで地域の保健師に相談して、やっと母乳へのこだわりを捨てることができた》
《ママが満たされると、満たされた愛情が子どもに注がれます。そのような循環が大切》
→母親としての自覚から「赤ちゃんのことが一番優先」と考えてしまいますが、赤ちゃんにとっての母乳よりも、実はお母さんの心の安定の方が重要なのですね。

◯《近所のおばあさんたちに「がんばってるね」と声をかけてもらえて ——その言葉に、どんなに救われたかわかりません》
→このお父さんは、この事を声を詰まらせてお話しされていました。お母さんもお父さんも、きっと他者からの“助言”よりも、“慰労”や“共感”の言葉が大切なのだと思います。
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 初めての育児では、とかく「自分だけが上手く育児ができていないのではないか?」と思いがちですが、決してそうではないですし、「これではいけない」と思い悩むということは、より良い子育てを目指しているという証でもあります。

 いずれにしても、今の育児環境の異常さに気付いて、安心して育児に取り組めるようにするべきだと思います。