【今回の記事】
《助言者》
大豆生田啓友(玉川大学 教授/乳幼児教育学)
宮里暁美(お茶の水女子大学 教授/保育学)

【記事の概要】
Q. 小学校にあがった時、子どもが授業中ずっと座っていられるか心配
A. 小学校の学習指導要領が改訂され、2020年度から「スタートカリキュラム」という取り組みが始まっています。小学校の教育も、幼児教育で大切にされてきた「遊び中心の生活」からスタートさせようというものです。園と同じような活動からスタートすることで、子どもが安心して自分を表現できるように工夫されています。そこから、少しずつ座って聞くような時間を作っていくわけです。このように、親世代が経験した授業とは違うことを知っておきましょう。
 この時期は、子ども自身がやりたいこと・興味があることを大事にしてください。熱中できることからスタートすることが大事です。例えば、家のリビング等で、親子で10分ほど座って本を読んだり、絵を描いたりしてみましょう。勉強でなくても、ふだんからやっていることでいいんです。そのような時間を作って楽しみながら取り組めるといいですね。

Q. 身のまわりのこと。どのように準備してあげたらいい?
A. 例えば、子どもが自分から服を着たときに前後ろ反対だったり、靴が左右逆だったりする場合、着心地歩きやすさを考えて直してあげてもよいでしょう。そのとき、「すごく頑張ったけど、こっちとこっちで履いたほうが歩きやすいね」のように、子どものやりたい気持ち・自分でやったという気持ちを損なわないようにしましょう。そのように着替えの手順やコツを教えてあげることは大事です。
 学校は、始まる時間・終わる時間が決まっています。その時間をいい状態で臨むためには、早く寝て、早く起きて、朝ごはんを食べるといった生活リズムが大事になります。この生活のリズムを作るのは、大人の親の役割です。

Q. 好き嫌いが多いので、給食時間に全部食べれるか心配
A. 親の中には「給食を全部食べるまで居残りをさせられた」といった苦い経験を持つ方もいます。でも、今は基本的にそのようなことはありません。食に関して言えばアレルギーを持つ子もいますし、いろいろな子どもがいます。その子に合った量や種類、食べるペースなどを認めながら、食事の時間をとっているので、心配するようなことはありません。もちろん、食べたいという気持ちや、嫌いなものにもチャレンジしてみようという気持ちは大事です。
 例えば、親子で一緒にお好み焼きを作ってみたり、おにぎりをにぎってみたり。自分が作ったものだとパクっと食べられることもあります。食べることができたという経験で、「これだけ食べられるから、給食もきっとおいしい」と思えることもあります。そのように、家では食に親しむ経験を積んでおくといいかもしれません。

Q. 小学校にあがった後、ひとりで通学させるのが不安です。何か準備できることはありますか?
A. 安全に関わることなので、入学前に学校までの道を歩いて確認しておきましょう。練習というよりは、お散歩でよいと思います。親子で学校までの道を散歩して、「こんなすてきな場所があるね」「ここを曲がったほうが安心だね」といったことを、ひとつひとつ確認できます。何度か楽しみながら歩いてみると、子どもも親も安心ですね。

Q. 小学校で友だちができるか心配です
A. 気が合うというのは、共通項を持つことでもあります。同じ保育園でなくても、同じ通学路だったり、家が近所だったり、いろいろな共通項が見つかっていきます。心配するほどのことではないかもしれません。
 子どもたちは、楽しみな気持ちがある一方で、新しい環境や人間関係にストレスを感じるものです。特に1年生は、知らない人ばかりの場所で過ごして、ヘトヘトに疲れていると思います。だから、学校から帰ってきてゴロンゴロンしていても「友だちと遊ばないの?」といったことは言わないでほしいのです。家で本来の自分に戻ってゴロンゴロンする。そういう時間があるから、また安心して学校に行くことができると思います。

【感想】
 上記の相談毎に、私が気が付いた事を「→」以下でお話ししたいと思います。

Q. 子どもが授業中ずっと座っていられるか心配
→ 前回の「学習編」でも紹介しましたが、2020年度から「スタートカリキュラム」という取り組みが始まっており、親がイメージしているような“座学スタイル”ではなく、“遊び・体験スタイル”(以下時間割例の「なかよしタイム」「わくわくタイム」等)による授業が入学後しばらく続くようです。

 とは言っても、「“座学スタイル”が増えてきたら心配」という親御さんもいらっしゃるかも知れません。その場合は、「家のリビング等で、親子で10分ほど座って本を読んだり、絵を描いたりしてみましょう」と助言にあるように、子供の関心・意欲がある対象物(本に限らず、子供が描いた絵やおもちゃ等も含む)について、テーブルに着席したうえで読んだり話したりすると、だんだん慣れてくるかも知れません。

Q. 身のまわりの準備どうしたら?
 時間割に従って動く学校生活に適応できるように、早寝・早起き・朝ご飯等の生活習慣を身につけさせるのは親の大切な役割という助言は全くその通りです。
 また、子供は服などを誤った身に付け方をしていても、「こんなものだ」と思ってしまい、直すことなくそのまま着続けてしまうことが多いもの。そこで、きちんと身に付けた場合とそうでない場合との活動のしやすさの違いを前もって体感させておくと、もしも学校で間違って身に着てしまった時でも、自分の判断でそれを直そうとするのではないでしょうか。

Q. 好き嫌いが多く給食時間に全部食べれるか心配
→食べ始める前に、自分でおかずの量を調節させる場合も多くなっているようです。
 また、給食で出るであろう食材の中で、無理に食べさせると嘔吐したりアレルギー反応を示したりするものがあれば、事前に給食が始まる前に必ず提出することになっている家庭環境調査票で担任に知らせておけば、必ず配慮をしてくれます。因みに、私が過去に教えた子供の中に野菜を全く食べれない子供がいました。ただ、家庭環境調査票で「食べれない食材はない」と確認済みでしたので、その子供に小指の爪ほどの量を食べさせてみたところ、直後にそれまで食べたもの全てを嘔吐したと言うことがありました。子供の食の実態を親が適切に把握することは大切です。
 また、「自分が作ったものだとパクっと食べられる」との助言がありました。調理以前の問題がある場合には、例えば、野菜が苦手な子供がいれば、その野菜をプランターで育てさせてみてはどうでしょうか。自分で種や苗を植えて、毎日水やりをし、ある日とうとう芽を出した…!ともなれば、野菜に対する印象も変わるかも知れません。

Q. 一人で通学させるのが不安
→親だけでなく子供も不安で、感覚が敏感タイプの子だと、そのことも登校しぶりの原因になる場合もあると思います。助言にあるように、親と一緒に安全を確認しながら学校までの道を歩き、ついでに学校の敷地内に入れるようなら、一緒に入って校庭の遊具で一緒に遊んで、楽しさで不安を少しでも和らげてあげたいものです。
 また、子供によっては、初めての建物自体に不安を覚える子供もいますから、たとえ敷地に入れなくても校舎を外から見て回って、親が「あそこが玄関で、朝にはきっと先生がお迎えしてくれるよ」「あの部屋は面白い本がたくさん置いてある図書室という部屋だよ」等と子供に見通しを持たせることも有効だと思います。

Q. 小学校で友だちができるか心配
→「♪友達100人できるかな?♪」等という歌は今も就学前に歌われているのでしょうか?「学校では誰とでも仲良くするもの」と考えると、親にとっても子供にとってもハードルが上がります。そもそも大人である私達でさえ、果たして職場のどのくらいの人と交流できているでしょうか。
 その意味でも、助言にあるように、学校から帰ってきてゴロゴロしている子供に「友達と遊ばないの?」等と促すのは、やはり好ましくないと思います。友達と遊びたければ自分から出ていくでしょうし、そうしないと言うことは、慣れない学校生活で相当の“安心エネルギー”を使い、それを補充しているはずです。

 また、助言にはありませんが、私は友達を作るうえでは、子供が「ありがとう」「ごめんなさい」を言えるかどうかが大きなカギを握ると思っています。
 例えば、自分が落とした鉛筆を友達が拾ってくれた時に「ありがとう」と言えば、言われた友達は嬉しくなって必ず相手に対して好意を抱くでしょう。また、たとえ間違ってでも友達にぶつかってしまった時等にも「ごめんなさい」と言えば、相手の子供は「自分を大切に思ってくれている」という印象を受けるでしょう。人は誰でも「承認されたい」という承認欲求と、「尊重されたい」という尊重欲求を持っていますから、友達のそれらの欲求を満たしてあげる言動をとれるかどうかは、友人関係を大きく左右することになるでしょう。
 子供が「ありがとう」や「ごめんなさい」が言えるかどうかは、何よりも親の手本が大きな役割を果たしますが、意図的にそれらの言葉を使う機会を増やしたい場合は、本ブログのダイジェスト記事「【しつけ】〜人間社会で一番大切なスキル「ありがとう」「ごめんなさい」を家族の中で身につける〜」を参照ください。

(長くなってしまいました🙇🏻)