【今回の記事】

【記事の概要】

――いじめの被害に遭っているとしても、なかなか話してくれない子どももいます。いじめの被害に遭っている子どもにあらわれる、言動の変化はありますか?
吉田先生:元気がなくなる、学校に行きたがらない、部屋にこもりがちになる、イライラしているといった行動がみられることがあります。また自分の持ち物が壊れている、持ち物にゴミが混ざっているなど持ち物に気になる兆候が見られること、他には親に八つ当たりする、「どうせ私なんて」「誰もわかってくれないし」などという投げやりな言い方をすることもあります。こういった言動や持ち物の変化が見られたら子どもの様子を注意深く観察してください。
――子どもからいじめの被害についての相談を受けたり、違和感が確信に変わったりしたら、親はどう対応したらいいでしょうか?
吉田先生:子どもの話をよく聴いて、学校の先生などいじめの現場にいる先生に相談してください。子どもに我慢させないでくださいね。いじめの対応中は、日常生活を変えないことが大切です。――生活を何を変えないのには、どんな理由がありますか?
吉田先生:生活の変化はストレスを生むからです。でもあたたかい雰囲気で過ごしてもらうのは、とてもいいことですよ。
――親として、必ず伝えておきたいことはどんなことでしょうか?
吉田先生:あなたは今のままでいい」と声かけをしてください。自信が持てなくても、泣いていてもいい。ありのままでいいと子どもが「いじめられた自分にも居場所がある」と感じられるメッセージを伝えてください。ありのままの自分でいい、と言われることは子どもの自己肯定感を育てることにつながります。

【感想】
子どもに表れる言動の変化
 記事中に挙げられた症状の中で、いじめ被害によるものとして分かりやすいのは「学校に行きたがらない」「持ち物が壊れている、持ち物にゴミが混ざっている」でしょう。
 一方で誤解しにくいのは、「元気がなくなる」「部屋にこもりがちになる」「どうせ私なんて」「誰もわかってくれないし」でしょうか。これらはいじめに直結しにくい症状です。
 更に「イライラしている」「親に八つ当たりする」に至っては、おそらく多くのケースで、単なる親への反発行為と捉えられて、子どもが怒られることになってしまうのではないでしょうか。
 これらについては、事前に「いじめ被害によって反抗的な症状が現れることがある」とあらかじめ認識していないと、正しい判断は難しいと思います。

 仮に、子どもから直接いじめ被害を伝えられて事態が明らかになった場合は、親は「話してくれてありがとう」と伝えることが大切だと思います。そのことで子どもは「弱音を吐いていいんだ」と考えることができるようになり、“心の療養”と言う次のステージへ移行しやすくなるはずです。

◯いじめ被害が明らかになった時の対応
「自信が持てなくても、泣いていてもいい。ありのままでいい」と子どもに伝えるべき、との指摘がありました。
 これは、要するに子どもにこれからどうしなさいと言うメッセージでしょうか。「『自信を持っていい』『泣いてもいい』と言われれば、あなたは自己肯定感が高まる、だから学校に行けるはず」という意味でしょうか。自己肯定感は以前より高まるかも知れません。しかし、それで当の本人は「これからも変わることのないいじめ行為に負けずに健全な学校生活を送れるだろう」という手応えを感じることができるでしょうか。

 もちろん、「あなたはありのままでいい」という言葉をかけることは大切だと思います。但し、普段その言葉を使い慣れていない場合は特に、このメッセージを子どもに確実に伝えるために心掛けなければならない事が二つあると思います。

 一つは、その言葉を伝える時だけではなく、言った後の親の言動や表情も一貫していることです。そのためには、安心7支援」の ①子どもとスキンシップをとり(「あなたを愛している」との意思表示)②見守る(「あなたに関心がある」との意思表示)、③微笑む⑤穏やかに話す⑥褒める(「今のあなたを肯定的に受け止めている」との意思表示)、④話を聞く(「あなたの苦しさを受け止める」との意思表示)等の行為によって、子どもを心から肯定的に受け止める態度を一貫して示すことが大切です。
 もう一つは、「ありのままで良い」と伝える親自身が「なぜありのままで良いのか」と言うことをきちんと納得しておくことです親が口では「ありのままで良い」と言っていても、心の中では「困ったことになった」と思っていると、その親のわずかな表情から、その言葉が嘘であることが子どもに分かってしまいます。

 では、なぜ「ありのまま」で良いのでしょうか。一番は、子どもの健康面です。いじめ被害の精神的ダメージは相当に大きいです。これ以上無理をしてストレスを溜めると子どもは心身ともに壊れてしまうでしょう。場合によっては自死に至る可能性もゼロではないことを、これまでの報道から親は自覚する必要があると思います。
 加えて、子どもに非は無いからです。記事中にもあるように、被害を受けた子どもはいじめられた自分には居場所がない」と思い込んだり、「いじめられるのは自分が弱いから」と考えたりしがちですが、そもそものきっかけは加害者が勝手にストレスを溜め込んだことによるものです(「いじめは加害者が溜めたストレスの発散行為」と国立教育研究所の滝充氏が明らかにしています)。
 つまり、「ありのままでいい」という意味は、何の非もなく、精神面でも限界に来ている子どもに対していじめから自分を守る事は当然の権利なのだから、堂々と休んでいなさい」と伝えてあげることだと私は考えています。

 また良い意味での「Let it be.」(なるようになるさ)という親の意識も、「ありのままでいい」と伝える気持ちをぶれさせないためには必要ではないでしょうか。今はとにかく、傷付いた子どもの心を癒すのが最優先(この優先順位は、私がこれまで目にしてきた専門家全てに共通していたこと)であり、その後どうするかは全て心の治癒が済んだ後でのこと。その時になるようにしかなりません。一番いけないのは、先の事を心配して、今しなければいけない治癒を蔑ろにすることです。
 子どもが心を休めようとした結果、仮に学校を不登校になったとしても、中学進学や高校受験という生活を切り替えるチャンスがあります。更に高校受験に間に合わない場合でも通信制高校、更に大学通信教育という道もあります。あくまでも極論ですが、私は、結果的にそういう道を進むことになったとしても、今親が焦って通常登校を子どもに押し付けることだけは避けなければならないと考えています。なぜなら、その親の“エゴ”を通して「がんばって行きなさい」等と子どもを更にいじめ被害に向かわせ苦しめてしまうと、子どもが親を信頼しなくなり、最悪子どもが部屋に引きこもって出てこなくなるという事態に陥ってしまう可能性も十分に考えられるからです。(→「どの家庭でも陥る可能性がある子どもの罵声、暴力 〜問われる子育ての基本〜」の「ケース①」参照)
 それよりも大切な事は、子どもに十分な心の療養をさせることであり、場合によっては“健全な不登校生活”(→「「幸せだった不登校生活」〜不登校を乗り越えた親子の記録〜」参照) を送らせるという発想も親には必要だと考えます。その中で、社会復帰に必要な2つの力「①コミニュケーション能力」と「② 昼夜逆転にならない生活リズム」(→「不登校8年を経て就職へ 〜社会復帰のために必要な力を磨く〜」参照)だけは失わせないようにし、子どもがいつ不登校を卒業してもいいような準備をしておくのです。
 しかし、親子間の愛着が崩壊した状態では、それさえも、不可能になってしまうのです。繰り返しになりますが、最後に待っているのは、社会復帰さえ不可能な、親子間の関係も崩壊し、暴言や暴力を伴う長期引きこもりの状態かも知れないのです。
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 今回は、いじめ被害が発覚した時に真っ先にしなければならない“被害を受けた子どもの保護”についてお話ししました。
 次回は、いじめの解決方法についての私なりの考えをお話しします。