【今回の記事】

「お母さんが一緒にいてくれたから幸せだった」不登校の日々を振り返って思うこと 野原広子さんインタビュー(後編)


【今回のねらい】

 今回取り上げる記事の事例は、子どもへの接し方がご両親ともに適切で、貴重な成功事例です。そこから、“正しく引きこもる”イメージを私達が持つこと、それが今回のねらいです。


【記事の概要】

元気で友達も多く、不登校とは無縁だと思っていた娘が突然言い出した『今日だけでいいから学校休ませて』。まさかそのまま学校に行けなくなってしまうなんて…。」

(不登校期間があったことで何か困ったことは)親としてはないですが、子ども自身はあったと思います。実際に教室に戻って元気に過ごしていたように思いますが、本来の娘に戻るまでには1年くらいかかったように感じています。再び教室に通うようになってみて改めて、中途半端にエネルギーを充電した状態で教室に戻してはいけないんだということは感じました」

今は社会人として働いています。初めての一人暮らしを始めて楽しく過ごしているようです。あの頃、娘に寄り添ってくれた先生とお友達に本当に感謝しています」

「不登校は子育てしてきた中で一番の大変な出来事だったのですが、娘と密に過ごせた貴重な時間だったと思います。一緒にお風呂に入るというのもその頃すでに終わっていたのですが、不登校の時期は一緒にお風呂に入り、庭でお弁当食べたり、昼間からお買い物に行ったり、海をただ眺めに行ったり。娘が幼い頃に戻ったような楽しい時間として記憶がすり替えられています。都合いいな~と思われるかもしれませんが、都合よく考えることにしています」

「娘が中学生の時に不登校の時のことを『あの頃は幸せだった』と言ったことがあったのですが、その理由を聞いたら『お母さんが一緒にいてくれたから』って言ったんです。

涙が出ました」

「当時、校長先生が早く教室に戻そうと焦る私に『お母さんはただ笑って側にいるだけでいいんです』って言っていたのは本当だったのだなと改めて思いました。また、当時のが一切娘のことを責めないでくれたことが本当によかったと思っています。 あの時責めないでいてくれたから今でも父娘関係がとても良好であるのだと思います」

「親御さんへのアドバイスは、子どもと一緒になって沈み込まないようにしてもらいたい、ということです。寄り添うのはいいのですが、親まで落ち込んではダメです。家庭ごと沈んでしまいます。悩んでいるのは子ども。元気になるように見守るのが親。と分けて考えてください。何を根拠に?と思われるかもしれませんが、『大丈夫大丈夫。なんとかなる』と嘘でも明るくしてください。そして子どもから見えないところで、時々吐き出してくださいね」


【感想】

 元気で友達も多かったものの、ある日突然『今日だけでいいから学校休ませて』と言い出したという娘さん。面倒見が良く周囲を和ませ、ユーモアセンスもある感覚過敏のHSCだったのかも知れません。しかし現在は、社会人として働いているとのこと。実際に不登校を経験し、そこから社会復帰を果たしたという成功事例から学ぶことが出来るのはとても貴重です。

 因みに、このインタビューに答えていらっしゃる野原広子さんは、不登校になったこの娘さんのことを書いた「娘が学校に行きません 親子で迷った198日間」の著者でもいらっしゃいます。


 HSCについては、このところ何度も取り上げていますが、5人に1人もいるということに加えて、「成績が下がった」「最近『太った?』と言われた」「皆の前で体調不良で倒れた」等のちょっとした理由〜親が暗に求めてくる“完璧”が崩れた時(森津純子著「うつ、ひきこもり、拒食症、パニック、暴力…子供の心の悩みと向き合う本」より)〜から陥る不登校という深刻な事態となれば、当然重要視せざるを得ません。


 以下では、上記記事の中から、特に印象に残った点について、私なりの感想をお話ししたいと思います。


♦︎「中途半端にエネルギーを充電した状態で教室に戻してはいけない」

→子どもが復学するという「活動場面」(下記表)に移るためには、不登校と言う「充電場面」(同表)にいる時に、それだけの愛情エネルギーを補充することが必要だと言う愛着理論の通りのようです。


♦︎「『あの頃は幸せだった』と言ったことがあったのですが、その理由を聞いたら『お母さんが一緒にいてくれたから』」

→こういう不登校時期の親子の過ごし方があると言うことを知ることができたのは本当に貴重でした。本当の意味での愛情エネルギーの補充になっていたと思います。


♦︎「当時、校長先生が早く教室に戻そうと焦る私に『お母さんはただ笑って側にいるだけでいいんです』って言っていた」

♦︎「子どもと一緒になって沈み込まないようにしてもらいたい。寄り添うのはいいのですが、親まで落ち込んではダメです。家庭ごと沈んでしまいます」

→ 補充する愛情エネルギーの源は母親の笑顔(「安心7支援」の「微笑む」)です。この校長先生はそのことを分かっていたのでしょう。その子どもの太陽とも言える母親が沈み込んではいけないという指摘だと思います。


♦︎「不登校の時期は一緒にお風呂に入り、庭でお弁当食べたり、昼間からお買い物に行ったり、海をただ眺めに行ったり」「当時の夫が一切娘のことを責めないでくれたことが本当によかった」

→ご両親そろって、子どもを温かく包み込む方だったのだと思います。だからこそ、社会復帰ができたに違いありません。一方で、「8050問題」のように、40〜50歳になるまで引きこもりが深刻化してしまうのは、「いつまで引きこもっているつもりだ!」等と、親が子どもを受容せずに否定しまうからかもしれません。


 私は、今回の記事のおかげで、“正しく引きこもる”イメージを持つことができました。

「不登校とは無縁」と思われていた女の子でさえ突然陥る不登校。子どもにとっては、飽和した不安感を解消するうえで必要な“休養”ですが、親御さんからすると「この先どうなるのか?」と焦るかも知れません。しかし、事前に「こういうスタイルの不登校生活がある」と知っていれば、知らないでいるよりも、だいぶ見通しが立つのではないでしょうか。

 仮に親御さんが精神的な余裕を持って我が子の“非常事態”に対応できない場合、5人に1人いるとされるHSC(人一倍敏感な子ども)のように感覚が敏感な子どもほど「親は私に休んでほしくないと思っている」と察知します。それによって、その狭間でさらに大きなプレッシャーを受けるでしょうし、その結果、十分な愛情エネルギーが補充できず、学校を休む期間がさらに伸びるかも知れません。それだけ、親が見通しを持っているということは大切なのです。


 それにつけても、不登校に陥らずに生活できれば、それに越したことはありません。そのためには、ちょっとしたことで“愛情エネルギー不足ランプ”が灯らないように、普段から「安心7支援」でエネルギー補充をして、“愛情エネルギータンク”をいっぱいにしておくことが大切だと思います。