【今回の記事】

【記事の概要】
 車上生活者――。道の駅等の無料駐車場で長期間、車で寝泊まりする人々がいる。「家賃を払えない」「人間関係がうまくいかない」。様々な事情を抱え、車上生活の果てに命を失う事例も出てきている。

相談者急増――いま支援の現場では
「なぜ車で暮らしているのですか?」。あるNPOのメンバーが声をかけると、返ってくる言葉は様々だ。
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中略)
 ある中年男性は医療従事者だという。しかし人間関係がうまくいかず、職場を転々とするなかで車上生活を繰り返してきたと話した。
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中略)
 さらに、支援を求めている人ばかりでもない。「人との関わりを避けたい」。そうした理由で車上生活に至った人も少なくないからだ。NPOが支援の手を差し伸べたとしても、握り返してもらえるとは限らない。
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中略)
 ある時NPO越冬の会は駐車場の見回りをしていた。真っ暗な駐車場のど真ん中、トイレに近い場所にぽつんと、荷物を満載した古い型の軽自動車が止まっていた。一目見て車上生活だと分かった。しかし支援は拒まれた。頑なな態度から、“頑固なおじさん”というのが最初の印象だったという。それでも、NPOのメンバーで代わる代わる何度も通うと、少しずつ食料を受け取ってくれるようになった。やがて、自分のことも話してくれるようになり、男性メンバーには仕事の話、女性メンバーには家族の話を語り始めた。(中略)
幼子を連れて……極寒の車上生活
「これまでに3組だけ、“家族”で車上生活をしていた方がいました」(NPOメンバー)そのうちの一人、30代の松尾恵理子さん(仮名)から話を聞くことができた。恵理子さんが車上生活をしていたのは3年前。当時妊娠8カ月だった。夫と1歳の長女とともに、軽自動車で車上生活を送っていたという。
 なぜ、家族は車上生活に至ったのか。きっかけは、恵理子さんが結婚した6年ほど前にさかのぼる。
 結婚したのは20代前半。当初、夫婦は恵理子さんの実家で暮らしていた。夫は土木業の仕事をしていた。恵理子さんの父親も同業だったため、初めのうちは同居もうまくいっていたという。しかし、夫が仕事を辞めると関係は悪化。二人は実家を出て、転職を繰り返しながら各地を転々としたそうだ。
「夫は……人間関係がなかなかうまくできないんです。どこに行っても仕事が長続きしなくて……」
夫は実の両親と疎遠で、友達付き合いもほとんどないという。頼ることができたのは、わずかに交流のあった親戚だけだった。しかし1年と経たずにその同居も解消することに。身を寄せる場所は車しかなかった。
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中略)
 どこにでもいる普通の家族だ。ただほんの少し人付き合いを続けるのが苦手なだけ。助けてと言える距離感に、助けてと言える人がいなかっただけ。先々の暮らしを見通せるほど、経験豊富でなかっただけ――。小さな「だけ」がいくつも積み重なって、気がついた時には元の生活に戻るのが難しくなっている。それは、誰の身にも起こりうることではないだろうか。
 NPOメンバーはこう言う。
「今の社会に足りないのは、人に対する優しさではないでしょうか。ずいぶん冷たい社会になっているような気がしますね。勝ち組と負け組がはっきりしていて、人間の交わり自体も分断が進んでいるのではないかと思います。『勝っている者』同士、『負けている者』同士の社会があって、それを超えたところの繋がりが消失している。だから、世間の『道』から外れて負け組に入ってしまうと、真っ逆さまに転落してしまう。その歪みのようなところに、車上生活者がいるんじゃないかと思います」

【感想】
 今回の事例で紹介された方々を見て私が感じたのは、自閉症スペクトラムの傾向が強い人達が多いのではないかということでした。
 
自閉症スペクトラムとの関係
 改めて自閉症の主な特性とは(自閉症スペクトラムの特性一覧より)以下の3点です。
  1. ①社会性の不足
  2. ②コミュニケーション能力の不足
  3. ③こだわりの強さ、想像力の弱さ

 因みに、上記の「社会性の不足」とは「人と交わるのが苦手」という特徴を、「こだわりの強さ、想像力の弱さ」とは、「限定的な対象に対する興味関心の強さ」を、それぞれ含んでいます。
 
 上記の特性一覧では、「その他」に分類されている感覚過敏ですが、私は①〜③の特性の根底にあるものこそが感覚過敏ではないかと考えています。なぜなら、そう考えないと「上記①~③がなぜそうなのか?」ということが説明できないからです。
 因みに、以前も一度紹介しましたが、私は感覚過敏である自閉症スペクトラムの傾向が強い人のイメージは、感覚過敏のために不快に感じる外部刺激を無意識のうちにシャットダウンするシールドのようなもので被っている以下のようであると考えています(遠藤オリジナル)。詳しくは以下の説明部分をご覧ください。

 
「①社会性の不足」は、シールドに覆われているために自分以外の社会一般に対するアンテナが非常に弱くなっているため、「②コミュニケーション能力の不足」は、シールドの内と外とではコミュニケーションスキルの質が異なるため、「③こだわりの強さ、想像力の弱さ」は、シールド内の世界を強固なものにし守り通すための自身の信念の強さや、自分以外の世界に対するイメージはシールド外のことであるために疎いため、とそれぞれ説明できます。因みに、この事実現象を説明するためにイメージを定義する“モデリング”の考え方は、私が2年間の大学院研修で学んだものです。

 これらの自閉症スペクトラムの特性に照らし合わせて、今回の事例を考えてみたいと思います。
「ある中年男性は医療従事者だという。しかし人間関係がうまくいかず、職場を転々とするなかで車上生活を繰り返してきた」
⇒「医療従事者」という仕事が具体的にどのようなことであるかは不明ですが、一般的に医者や学者や法関係者等の高学歴者には、自分の関心のある限定的な対象に対して人一倍強いエネルギーを傾ける自閉症スペクトラムの傾向が強い場合が多いと言われます
「頑なな態度から、“頑固なおじさん”というのが最初の印象だった」
⇒こだわりが強く、他者との関わりを避けたがるタイプ
「『人との関わりを避けたい』という理由で車上生活に至った人も少なくない」
⇒他者との関わりを避けたがるタイプ
「夫は人間関係がなかなかうまくできない」「夫は実の両親と疎遠で、友達付き合いもほとんどない」
「どこにでもいる普通の家族だ。ただほんの少し人付き合いを続けるのが苦手なだけ。助けてと言える距離感に『助けて』と言える人がいなかっただけ。先々の暮らしを見通せるほど、経験豊富でなかっただけ」
⇒感覚過敏のために、他者からの強い刺激が苦手で距離をおきがちだったり、シールド内の目前の出来事に注意を奪われ、シールド外の複数の事柄を見通すのが苦手だったりする、「段取りが苦手」という言い方をされる場合もあります(経験不足のためであるとすれば、それは対人関係が苦手で職場経験が少なかったため)。また、「どこにでもいる家族」と言うのは、今回のケースが決して特殊ではなく、他の人とスペクトラム(連続)に分布していて区切りが分からないということの表れだと思います。

 補足ですが、「感覚過敏」という点ではHSP(人一倍敏感な人)も同じですが、HSPの人は他人への共感性が高いため、人との繋がりを作りやすいですし、創造性も高く職務上のアイデアを持っていると思います。順応性もあり少々辛い集団にでも耐えて自分の身をおくことができるでしょう。現に、私がこれまでに出会ってきたHSPタイプの人は皆、規範意識の高さを武器に、組織の中で立派に仕事をされていました。
 
これからの社会に求められること
 実は、「車上生活者に自閉症スペクトラム傾向が強い人が多い」ということを指摘することが今回の目的ではありません。本当の目的は、当人達がどうすれば良いのか?周囲の人達はどうすれば良いのか?を考えることにあります。
 
 さて、「NPOのメンバーで代わる代わる何度も通うと、少しずつ食料を受け取ってくれるようになった。やがて、自分のことも話してくれるようになった」との記述がありました。
 先ずは、感覚過敏の人達が、人が嫌いだから他者との距離をとっているのではなく、その人がどんな人か分からなかったり怖かったりするために距離をおきたがっているということを知る必要があります。ですから、この事例のように、相手が安心できる人であることが分かると交わりを持てるようになるのです。

 また、「今の社会に足りないのは、人に対する優しさではないでしょうか」(NPO関係者)という指摘がありました。
 きっとこの事例で紹介されたご家族も。過去に誰かに助けを求めたことがあったと思います。しかし、たまたまその時に対応した人の態度が冷たかったために、感覚過敏の特性によってそれに気後れして、結果的に人間社会と距離を置くことになったのではないでしょうか。特に、他者との繋がりを避けたがる「回避型」や、他者からの愛情を過度に求める「不安型」等の人が誰かから困り事を相談されると、それぞれ「面倒くさい」や「困っているのは私の方」という気持ちが表情に表れることが予想されます。
 しかし世の中には穏やかで優しい方々もいらっしゃいます。安定型の愛着スタイルを持っているとされる人は7割程度もいるとされています。その人達が全員、親身に相談に乗ってくれるとは限らないとは思いますが、少なく見積もっても、5割程度の人は信じても良いのではないでしょうか。
 精神科医の岡田尊司氏は「不安定型愛着不全タイプの人は、安定型愛着タイプの人によって愛着を修復できる」(岡田2016)との旨を指摘しています。自閉症スペクトラムと愛着不全とは診断名こそ違いますが、どちらも安心感の不足が原因です。安定型愛着タイプの人がもたらす安心感は、きっと自閉症スペクトラム傾向が強い人の心も開いてくれるはずです。なぜなら、安定型愛着タイプの人が無意識に行なっている「安心7支援」は、愛着不全の人だけでなく自閉症スペクトラム傾向が強い人やストレスを抱えた安定型愛着タイプの人の問題症状を緩和してくれる支援なのですから。その人達を探して、見つけて、頼りにして、何とか社会との繋がりを築いてほしいと思います。

 更に、今は相談されるほど心に余裕がない人が多い社会かも知れませんが、感覚過敏の自閉症の人でも抵抗なく交わることが出来る人間社会を創るために、これから大人になる子供達を安定型愛着の大人に育てることも必要不可欠な課題と言えるでしょう。