【今回の記事】

フジ系列「ホンマでっか!?TV」(8月19日放送分)


【記事の概要】

 ローマ帝国のフリードリヒ2は、「人間は養育者が何もせず放っておいたら何語しゃべるのか?」という実験を行った。そのために、乳児をたくさん集め、栄養や温度・湿度等の養育環境は保った上で、養育者とのコミニケーションだけを完全に排除した。 (植木先生曰く「目を合わせない、赤ちゃんが泣いても応じない、笑っても笑い返さない」等) 。すると2年以内に乳児は全員死亡した。そのことによって「放っておいたら何を喋るか?」という結論に至る前に「人間はコミニケーションがないと命さえ失われる」と言うことが判明した。その後番組では「人間は生後2歳までのコミニケーションやスキンシップが重要」と紹介された。



【感想】

 番組の最後に「生後2歳までのコミニケーションやスキンシップが重要」と紹介されたとテロップが出されたのは、植木先生が言った「目を合わせない、赤ちゃんが泣いても応じない、笑っても笑い返さない」と言う非言語コミュニケーションの他に、「スキンシップ」もこの実験条件から除かれたと言うことを補足したのかもしれません。


 さて、百歩譲って、言語に関心があったのならば、言葉を発するコミュニケーションだけを条件から除けばよかったのですが、目を合わせない、笑わないという非言語コミュニケーションまで遮断してしまったという許されざる非人道的な実験でした。その結果、皮肉にも、生後の子どもにとって、目を合わせる、笑う、泣いた時に応じる等の非言語コミュニケーション、正に「安心7支援」に多く含まれる支援がどれだけ大切かということが分かったのでした。


 精神科医の岡田尊司氏は著書の中で、「愛着が不安定であると、ストレスに対して過敏でもろくなり、うつ病などの精神疾患や自殺に結びつくだけでなく、身体的・精神的健康、更には寿命にまで影響すると指摘しています。

 実は私は、この指摘を初めて見た時に「寿命にまで影響?本当かな?」と思っていました(岡田先生すみません🙇🏻)。しかし今回の禁断の人体実験の事実を知って、改めて驚きました。


コミュニケーションが無いと生きていけない訳

 ところで、なぜ子どもはコミュニケーションを受けないと死んでしまうのでしょうか?番組では、その結論しか紹介されていませんが、ここでは、その訳に迫ってみたいと思います。


 以下は岡田尊司著「母という病(ポプラ新書)での一節です。

「アカゲザルの子供は母親がいないとほとんど育たず死んでしまうが、母猿の人形を作って与えると仔猿がその人形に抱きつくと、どうにか育つことができる。抱っこして掴まれる存在が、生存のために栄養と同じくらい必要なのだ。

 なぜ抱きつく人形がなければ仔猿は死んでしまうのだろうか。愛着した存在に身を委ねるとき、愛着ホルモンであるオキシトシンの分泌が促され、それがその子の安心感を守り、ストレスを抑え、さらには免疫系の働きや成長ホルモンの分泌を活発にするからだ。愛着は単なる心理的結びつきなどではなく、成長と生命維持のために不可欠なものなのだ。それなくしては子供はまともに育つ事はおろか、生きていくことすら許されないのだ」


 仔猿が母猿に抱きつくこと(スキンシップ)でオキシトシンホルモンが分泌されます。同様に「目を合わせる、赤ちゃんが泣いたら応じる、笑ったら笑い返す」という愛着を形成するための非言語コミュニケーションによる愛情行為を施すことによってもオキシトシンが分泌されると考えられます。そのオキシトシンが抑えられてしまうと、免疫系の働きや成長ホルモンの分泌も抑えられるので、人間の成長が止まってしまうのです。成長ホルモンが抑えられたうえに、外部から侵入する細菌やウィルスから身を守る免疫の働きまでもが弱まるとなれば、命を維持することが難しいのも当然でしょう。

 つまり謎のカラクリは“ホルモン異常”だったのです。


改めて「1歳半」という時期が持つ意味

 また放送では「生後2歳までのコミュニケーションやスキンシップが大切」と指摘されています。

 岡田氏は著書の中で、それに近い1歳半までの期間について「脳や心を形作るかけがえのない時間」「神経繊維の走行や受容体の数といった脳の分子レベルの構造までが、その時間を母親といつも一緒に過ごすことができたか、よく世話をしてもらえたかによって影響を受ける」「生まれて間もない時期に、母親から短期間離されるだけでも、脳の構造に違いが生まれる」と指摘しています。

 今の平和な世の中にあって、今回のような命の存続という危機は、基本的にはあり得ない事態です。しかしだからと言って、今回の放送を見て「とんでもない時代があったものだ」と言って終わりにしてはならないと考えます。なぜなら、岡田氏が指摘するような人間の基礎を形作る繊細な時期に、今回のように決して「0」ではなくても、母親による十分な保護や世話を受けることができないということは、神経系や脳の機能がそれ相応の影響を受けるであろうことは想像に難くないからです。そのことこそが、少なくとも1歳半までは母親が子どもに没頭して関わること〜岡田氏はこのことを「母性的没頭」と呼ぶ〜が実現されなければ、子どもの一生の人格形成に大きな悪影響もたらすと岡田氏が警告する所以なのだと思います。


 改めて「1歳半」という時期が持つ意味(愛着形成の限界期)について考えさせられた放送だったように思います。