【今回の記事】
テレビ寺子屋(第2162回)
《テーマ》
「子育てに役立つメンタルトレーニング」
《講師》
メンタルトレーニング上級指導士 田中ウルヴェ京

【記事の概要】
 子育てで先ず大切なことは、子どもの周りにいる大人、つまりお父さんやお母さん、あるいはおじいちゃんやおばあちゃんが、子どもの「セキュア・ベース(安全基地)」になることです。勿論、帰る家があること自体が生活の面でまず安心なのですが、ここでの「安全基地」とは「心の面での安全、安心」という意味です。

 さて、人がどんな感情になっているかを考える時、4つのゾーンに分けて考える理論がありますが、その「安心」はその一部分を指しています。


横軸は、「プラスの感情なのか、マイナスの感情なのか」を表し、縦軸は「心臓がドキドキしている(交感神経が働いている)か、安定している(副交感神経が働いている)か」を表しています。それぞれのゾーンには、楽しい、怒り、焦り、悲しい、落ち込み等の感情があります。
 子どもの心の安全基地になるためには、子どものこれらの感情を大人がよく聞いてあげることが必要です。更にそのことによって、子供には、怒ってもいいし、焦ってもいいし、悲しんでもいいし、落ち込んでもいいんだと言うことを知らせます。
 ありがちなのは、子どもが怒っていることに対して親自身も怒ったり(「そんなことで、こっちに八つ当たりされたら迷惑よ」等)、子どもが焦っていることに親も焦ったり(「何そんなにイライラしてんのよ!」等)してしまうこと。子どもの思いを丸ごと受け止め、その感情を聞いてあげましょう。親が怒ると子どもはそれらの感情を我慢しようとします。すると、溜まった感情はいつか爆発してしまいます。怒ったりイラついたりすることは何も悪くありません。悪いのは、それらを我慢した結果、感情が爆発することなのです。


 さて、子どもの話をきいた後、親はその子どものマイナスの感情を解決してやろうとアドバイスしてしまいがちですが、そこで絶対に解決してはいけません。マイナスの感情を解決する力は子ども自身に育てなければならないのです。

 子どもは、親にマイナスの感情を聞いてもらうと脳の前頭前野が活性化し、より良い方向に押し進めようとする建設的な思考が働くと言われます。「昨日は友達を許せなかったけど、聞いてもらって今日になったらやっぱり友達に謝ろうと思うようになった」と変わるのも、この前頭前野の働きによるものなのです。


 また、子どもはマイナスの感情を持ってはいけないと親から締め付けられると、新しい事に挑戦しようとする気持ちが無くなってしまいますが、逆に、イラついても良いと子ども自身が気付くと、いろいろなことに挑戦してみようとする気持ちが湧いてくるようになります。その後、実際に挑戦をするとマイナスの感情を抱くこともありますが、たとえそうなったとしても、親に聞いてもらうことで前向きな気持ちが生まれることが分かっていると、子どもは安心して挑戦を続けることができるようになります。

 親が子どもにあった嫌なことを聞いてあげることが、正に子どもにとっての安全基地としての役割を果たすことになるのです。


【感想】
 今日のテーマは、愛着を語る上で最も必要不可欠な「安全基地」。とてもとても重要な内容の話です。

 さて、今回のメンタルトレーニング上級指導士でもいらっしゃる田中さんのお話の内容については私がどうこう言う必要のない素晴らしい内容です。しかし、このように講演や書籍から様々な情報を得ても、それらがバラバラのままでは、膨大過ぎて私達の記憶に留めることはできません。認知心理学では、新しい情報を記憶に組み入れるためには、自分が既に持っている知識に新しい知識を繋げる必要があるとされています。今回の私の役目は、田中さんの話の内容を普段私が指摘している考え方と繋げることです。

 まず、田中さんによると、親には、子どもの話を聞いてあげる働きと、子どもに直接アドバイスをせず自己解決する様子を見守る働きとが必要であることが分かります。これらは、正に前者が子どもを受容する“母性”の働き(「安心7支援」)、後者が子どもの社会的自立を願う“父性”の働き(「見守り4支援」)そのものです。

 また、子どもに悩み等ができた時には、子どもの方から話しに来るものですが、「安心7支援」には次の2つの支援があります。
子どもから声をかけられた時には、子どもを見る
子どもから話しかけられた時には、子どもの話をうなずきながら聞く

いつもは「子どもを見る」「子どもの話を聞く」「子どもとのスキンシップを図る」等と行為内容だけを列挙することが殆どでしたが、実はそれぞれの前半には、「子どもが求めてきた時には」という旨の断り書きをしてあります。今回の記事のおかげで、改めてこれらの意義に目を向けることができました。因みに、同様のものは他にもあります。
子どもからスキンシップを求められた時には、その求めに応じる

 この断り書きには、今回指摘されている「子どもの求めに応じること」はもちろんですが、「子どもが必要としていない時の働きかけは避けて過保護や過干渉にならないようにすること(精神科医の岡田尊司氏は『過保護や過干渉は母性が陥りやすいウイークポイント』と指摘)」「『子どもが求めてきた時だけでいい』と断ることで、親の精神的な負担を下げること」というねらいも込めています。

 また単に「聞く」と言っても、親がスマホ等に気を取られて話を聞く“ながら聞き”では、子どもの前頭前野が活性化するはずがありません。「聞く」の他に「見る」も伴わなければならないのです。
 私は以前、「萎縮したり内向したり抵抗したり等して、立ち止まっている子どもに母性の働きを加えると、子どもは前に進むこと(=探索行動)ができる」とも話してきました。それを「愛着理論の全体像」として表しているのが以下の表です。

「場面①」から「場面②」へと移行する際のエネルギーは「安心7支援」でした。その中に子どもの前頭前野を活性化させる「④聞く」と「②見る」の行為が含まれています。

 例えば、不登校や引きこもりの我が子に対しては、親はつい「学校に行きなさい」と「子どものマイナスの感情を解決してやろう」としてしまいますが、そんな時も、「④聞く」「②見る」の作用が必要です。
 ただし、「何が嫌なの?はっきり言いなさい!」という言い方をすると子どもは自分の気持ちを話してはくれません。「④聞く」「②見る」の他に、「③微笑む」「⑤穏やかな口調で話す」の作用を伴って「何か嫌な事があるんだね。話してくれる?」等と働きかけることが必要なのです。