今回もEテレ「すくすく子育て」よりご紹介します。

【今回のテーマ】
「乳幼児のしつけってどうすればいいの?」

【助言専門家】
東京大学名誉教授 汐見稔幸(教育学)
白梅学園大学教授 福丸由佳(臨床心理学)

【相談①】
 長女(5)食事のマナーについて。椅子にきちんと座らずに食べたり、年長になっても食べこぼしが多かったり、食べている途中で指遊びを始めたりと目につくことが多いとのこと。


≪母親の話≫
・家族以外の人と食事をした時に恥ずかしくないようにしつけたい。
・子どもの将来のためについ厳しく言ってしまう。
・あまり言わないほうがいいのかなとも思う。
・上の子はしっかりしつけたいが、1歳3ヶ月の妹に対しては、つい甘やかしてしまい上の子と下の子でしつけの基準が違ってしまっている。
・保育園では食事のマナーはできていると聞く。

≪助言≫
・それぞれの家でのしつけがあって良いが、家の外でしつけの仕方が違うと言うのは好ましくない。
・親の言うことが分かるのは4歳過ぎてから(自我が芽生え始め、人が自分のことをどう見ているかが気になり始めるため、しつけが入りやすい)
・保育園ではできているので、正しいマナーについては理解していると思われる。
・だめなところを注意するよりも、できていることをこまめに褒めてあげる方が良い。

【相談②】
 長男27ヶ月のしつけについて。つい「あれダメ!」「これダメ!」と怒り口調で言ってしまう
≪母親の話≫
・この頃子どもがごめんなさいばかり言うようになりさすがに怒り過ぎかなと思い始めている
・穏やかに言うにはどう言えばいいのかがわからない

≪助言≫
・しつけの前に親子の温かい関係づくりをすることが大切。そのためには、子どもが何気なくやったことや頑張ってやったことに気づいてあげたい。
15分間は子どもと遊ぶ意識で接する。その時に大切なのは、親が子どものリードについていく姿勢。その時の声掛けで意識するポイントが3つある
①具体的に褒める
「積み木を分けてくれてありがとう」「ぬいぐるみをお片づけできて偉かったね」等のように「…してくれてえらい」と具体的な行為を褒める。
②会話を繰り返す
「これぼくの本だよ」と子どもが言えば「そうだね〇〇ちゃんの本だね」と繰り返す。
③行動を言葉にする
「お人形を撫でているんだね」「椅子に座っているね」等のように子どもが普通にできていることを言葉にして返してあげる。

・良い関係ができるとそれを土台にして指示を出しやすくなる。
・指示を出すときには、やるべきことを肯定文で伝える。「椅子の上に乗っちゃっだめ」よりも「椅子から降りなさい」と言う。「乗っちゃっだめ」だと「別の椅子に移ればいいのかな?」「椅子の上でぴょんぴょん跳ねればいいのかな?」等と思ってしまう。
・伝える事は1回に1つ それができたらきちんと褒める。
・子どもができてないことを注意するだけでなく、子どもができたことを認めるのもしつけ。
・親子の良い関係は一朝一夕にはできない。じっくり時間をかけて。

≪自宅で福丸由佳の指導を受けた後の母親の話≫
コツ(上記の3つのポイント)を教えてもらってからたった1週間だが、「ここまで変わるのか?」というくらい変わった。例えば、「公園からそろそろ帰ろうね」と言うと素直に「うん」と言うようになった。

【相談③】
怒ってばかりだと子どもの人格形成にどんな影響が出るのか?(母親)

≪助言≫
・注意する時に、子どもの人格までは否定しない。「ほんとあなたはドジなんだから」等のような人格否定をすると、子どもが自信をなくしたり、子どもの成長に明らかな悪影響が見られたりするようになる。
・怒っている親の真似をするようになる。
・怒るまでは大丈夫だなと学習してしまう。
・人格ではなく、どう行動すればいいのかを教えれば子どもは納得する。

【相談④】
まだ言葉が通じない子どもへのしつけはどうすればいいのか?

≪助言≫
・否定語、禁止語、命令語は使わないのが原則。
・言葉の意味がわからない子どもに、注意をすると逆にその行為をするようになる
・良くない行動した子どもがいたら、その本人に共感してあげる「何何したかったんだよね、わかるよ」〜友達に噛み付いた子どもには、「何々が嫌だったんだね」(噛み付く以外に自分の嫌な気持ちを表現する仕方を知らないため)

≪まとめ助言≫
・きつく言い過ぎたと思ったら後で謝る大人は子どもにとって良いモデルになる 謝りなさいと教えるよりもずっと効果がある
・あまり厳しくしつけしすぎると自分で考えられない人間になってしまう バランスが大事
 
【感想】
 ここでは、上記の4つの相談について、それぞれふりかえってみたいと思います。
                                                                                                        
相談①「食事のマナー」について
「だめなところを注意するよりも、できていることをこまめに褒めてあげる方が良い」との専門家の指摘。
 とかく私達は、正しい行動を教えるというと、子どもにダメ出しすることをイメージしがちですが、できていないところを注意するのではなく、できていることを褒めることでも「正しい食べ方とはどんな食べ方か?」を教えることができます。
 子どもは気分にムラがあるため、いつもマナー良く食べれるわけではありません。しかし、その中でもきちんとできている時もあります。そういう時を“探す目”で見ていると、必ずそのアンテナに子どもの良い行動が引っかかってきます。その時に「こぼさないで上手に食べているね」「ちゃんと座って食べているね」と褒めれば、子どもは「こぼさず食べるのが良い食べ方なんだな」「ちゃんと座って食べるのが良い食べ方なんだな」と良い食べ方とはどんな食べ方なのか?を知ることができます。
 子どもは、どんな場でもできるだけ褒められたいと思っているため、“良い食べ方”を知ってさえいれば、保育園のような場で望ましい行動をとることができるのです。
 
相談②「怒り癖」について
「しつけの前に親子の温かい関係づくりをすることが大切。そのためには、15分間の子どもとの遊びを通して、子どもが何気なくやったことや頑張ってやったことに気づいてあげたい」との指摘。
 親が子どものリードについていく姿勢を学ぶ上では「15分間の子どもとの遊び」は有効だと思います。しかし、日常の温かい親子関係を築くならば、子どもを見る、子どもに微笑む、子どもにうなずく等の「安心7支援」を日常的に意識することの方が現実的・効果的だと思います。
 
相談③「怒ることの悪影響」について
「注意する時に、『ほんとにドジなんだから』等のように、子どもの人格を否定せず、どう行動すればいいのかを教える」との指摘。
 他にも、「ドジ」「バカ」「頭悪い」「いくら言ってもできない」「弟(妹)よりできない」「幼稚園からやり直しなさい」「赤ちゃんみたい」「つかえない」等は全て人格を否定する言葉です。そうではなく、子どもがどう行動すればいいかをできれば肯定的に伝える。仮にとっさに適切な言葉が出てこなくても、指示や注意は穏やかな口調で「椅子の上に乗らないようにしようね」等のように「…しようね」(勧誘形)で伝えることが大切だと思います。その後に、椅子の上でピョンピョン跳びはねるような的外れな行動をした時には「降りるんだよ」と訂正してやればいいと思います。
 
相談④「言葉が通じない子どもへのしつけ」について
「噛み付く以外に自分の嫌な気持ちを表現する仕方をまだ知らないため、良くない行動した子ども本人に共感してあげる」との指摘。
 私にとっては、この指摘が一番「目からうろこ」でした。確かに、子どもが不適切な行動をするのは不快な気持ちを感じている表れです。「何かが嫌だったのだ」と察して、その気持ちに共感し、不快な環境を取り除いてあげること、それがまだ言葉が分からな子どもへの本当の意味でのしつけなのでしょう。
 
まとめ
 食事のマナーを過度に教え込もうとしたり、子どものする事なす事にいちいち怒ったりすることは、子どもを自分の価値観に無理に近づけようとする、いわば“過干渉”行為です。“母性”の働きは子どもを母親自身に受け入れる“受容”ですが、その度が過ぎると、その域に達してしまいます。そういう養育を受けた子どもは「不安型」の愛着タイプの大人になってしまう危険があります。
 そういう意味から、しつけをする場合には、適度な距離を保ちながら子どもを見守る“父性”の働きが必要だと思います。もともと、“父性”の役目は世の中のルール常識を教える社会的自立であり、“しつけ”はそのための教育行為に他なりません。つまり、しつけの場面では母性から父性へのギアチェンジが必要と言えるでしょう(以下※)。
 
 その一方で、ややもすると、しつけというと、厳しい父親像がイメージされるように、できないことへのダメ出しと思われがちですが、今回の記事を通して、ベストのしつけをするうえで大切なことは、子どもができてないことを注意するよりも、子どもができたことを認めることだと思いました。つまり、子どもと適度な距離を保ち見守りながらも、父性の働きである「見守り4支援」の中の「④子どもが自分の力でできた時には子どもを褒める」ことが大切です。
 特にしつけの場合は、たとえ小さなことでも子どもができでいることをこまめに褒めることが重要です。その「小さなことからこまめに褒める」方法については、本ブログ記事「【褒め方】〜生活意欲を高めるために、“子どもの中の良さ”と“努力”と“人への貢献”を褒める〜」中の「◯子どもの“中”の良さをほめましょう」の項で紹介しています。ご参照ください。
 褒めることによって子どもの自己肯定感を育みながら、正しい行動の仕方を教える、それこそがベストの父性の働きと言えるのではないでしょうか。
 
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※登校渋り等のように子どもが前に進めないでいる時は、動き出せるだけの安心感を与える母性の働きが必要。一方で、世の中のルールや常識に欠ける等のように進み方を間違えている時は正しい進み方を教える父性の働きが必要だと思います。
 しかし、安心できる外部環境が整った時の自閉症スペクトラム障害の子どもの規範意識の高さを考えると、私は、正しい母性が施されさえすれば、子どもは進み方を間違えることはないのではないかと考えています。自閉症の子どもは感覚過敏の特性があるため、不適切な外部刺激は徹底的に排除しようとするので、理想的な環境を作り上げる場合もありますが、健常の子どもは少々の不安感でも排除せず“我慢”できてしまいます。それを心の中に抱えたままでいる時に、間違った進み方をしてしまうのではないでしょうか。あくまで現時点での個人的な仮説ですが…。