【今回の記事】

【投稿の目的】
 本記事では「中学受験」限定での内容になっていますが、受験の有無に関わらず、一般的に小学校高学年で学習の難易度が上がります。
 本投稿では、広い意味で小学校高学年の学習についていくために必要な親の支援のあり方について御紹介します。

【記事の概要】
「週5で習い事をさせている」「子どもがサボらないか、いつも監視している」、実はそんな家庭ほど、子どもの学力が上がりづらい理由とは?
 中学受験のプロとしてさまざまな実績とノウハウを持つ小川大介氏による著書「5歳から始める最高の中学受験」から一部抜粋・再構成してお届けします。

中学受験」がうまくいく家庭の特徴
 とっかかりになるのは、幼少期の頃からのいろいろな体験です。ただ体験をさせるだけではなく、親御さんも「わぁ!これはおもしろいね!」「あれ? 何でだろう?不思議だね」「なるほど、そういうことか!よく考えているね」と一緒になっておもしろがってあげると、がぜん子どもの心の動きが変わってきます。
 ただ、親御さん自身の気持ちに余裕がなければ、こうした関わりを続けるのはなかなか難しいですよね。1日のスケジュールをギチギチに詰め込んでしまうと、「あれもやらなきゃ!」「これもやらなきゃ!」とこなすことでいっぱいいっぱいになり、子どもと一緒に感動したり疑問に思ったりする余裕はないでしょう。
 もし中学受験を考えているのなら、いずれは更に忙しくなります。その時までに子どもの学ぶ姿勢が整っていないと、「宿題はやったの?」「いつになったら勉強をはじめるの?」と親がムリやり引っ張る状況に陥ります。それはあまりに大きな負担です。ですから、まだ比較的余裕のある幼い時に親の1日の過ごし方を少し工夫して、子ども自らが自然に学ぶ姿勢をなんとか育ててあげたいのです。

時間の主導権を子どもに渡そう
 子どもにとって何もしない時間はとても大事です。何もしない時間とは、何の予定も組み込まれていない“子どもの自由な時間”です。親から見ればボーッとしているような状態でも、その時間に何か面白いことを見つけていたり、自分が体験したことを振り返って“自分のもの”にしたりしています。
 ここで私がお伝えしたいのは、「時間の主導権を子どもに渡そう」ということです。わが子を大切に思うあまり、幼い時からあれもこれもと予定を詰め込んでしまうご家庭をよく見ますが、子どもの能力を伸ばすのは、かけたお金や与えたものではなく、親御さんの関わりです。
 私は長年、中学受験専門の個別指導教室の代表として、様々なご家庭の教育相談を受けてきました。特に多いのが「高学年になってから成績が伸びなくなった」というご相談です。そういうご家庭に「お子さんが小さい頃、どんな過ごし方をされていましたか?」とたずねると、多くが「習い事をたくさんさせてきた」「低学年から塾に通わせていた」と、とても教育熱心なのです。そしてお子さん自身もがんばり屋。こういう子はみんな低学年まではいい成績をとり続けますが、4、5年生あたりから一生懸命勉強をしているのに成績が伸びにくくなる子が出てきます。

急に成績を伸ばす子の特徴
 一方で、学年が上がるにつれてグングン伸びる子がいます。4年生の時は、「授業のスピードが速すぎてついていけない」「こんなにたくさんの宿題はできない」とムラッ気を見せていたのに、一度ペースをつかむと、まるで別人と思うほどメキメキと力をつけてくる。
 この違いはいったい何だろう?と考えてみた時、私はこれまでたくさんのご家庭を見てきた経験から、一つのことに気づきました。それは、小さいときにどれくらい熱中体験をしているか、が大切だということです。

 4年生の段階では勉強のペースがつかめなかったAくん。お母さんに話を聞くと、小学校低学年までは勉強は学校の宿題だけで、あとは毎日外遊びをしていたと言います。家に帰ってくると、ある時は「めずらしい虫を見つけた〜!」と手につかみ、ある時はきれいな形をした石をポケットに入れ、嬉しそうに見せてくれたそうです。そして「この虫、なんていう名前なんだろうね?」「この石は何でこんなにツヤツヤしているのかな」と、お母さんと一緒に図鑑を広げ調べていたそうです。
 子どもにとって楽しくて夢中になれることに対しては、学びのセンサーが全開になります。Aくんにとっては「遊び」でも、目の前にある色々なことに興味を持ち、それを知りたいと行動に移し、自分の知識として蓄えてきた。このことが、後の勉強へと繋がっていったのです。
 例えば理科の生物を勉強したとき、「あっ!あの時見つけた虫にはこういう特徴があるからこのグループなんだな」と理解が深まる。こうした繋がりが面白いから、理解した事が使える形で頭に残る。塾に通い出した当初はテキスト主体の勉強に慣れませんでしたが、勝手が分かってくるにつれ大きく伸びてきたのは、この「生きた理解」があったからです。

 そして、もう1つよかった点は、親御さんが夢中になるわが子の姿を温かく見守っていたことです。子どもはお母さんとお父さんが大好き。親の愛情を感じながら、自分が好きなことをして遊ぶというのは、子どもにとって何よりの安心感と幸福感をもたらします。こうした(親との関わりを通して培った)プラスの感情をベースに持ちながら幼少期にたっぷり遊んで学んだ子は、必ず後伸びします。幼少期に「満足がいくまで遊んだ」「納得がいくまでやりとげた」といった経験があると、たとえ途中で壁にぶつかっても、「自分ならなんとか乗り越えられる」という強い心が後押しします。そしてここぞというとき、ものすごい集中力を発揮するのです。

【感想】
後々にまで影響する幼い頃の体験
 幼少期からのいろいろな体験の積み重ねの中で「知らないことを知るのは楽しい」「答えがわかると気持ちがいい」という好奇心を働かせる体験をたくさんしておくと、勉強に対する抵抗感がなくなるという、中学受験のプロ小川大介氏の指摘です。
 株式会社ベネッセコーポレーションが、今年1月13日に成人式を迎える1,030人を対象に、成人の自己認識に幼児期の保護者の関わりがどのように関連するかを明らかにするために行ったアンケート調査でも、「自分で考えて行動する」「好奇心旺盛である」「将来に向けた夢がある」と思う人は、思わない人に比べて、幼児期に保護者に『やりたい事を大切にしてもらった』と感じていることが分かったとのことです。中学受験のみならず、20歳になっても幼い頃の体験が影響を及ぼしていると言うのです。

形式的な学習に命を吹き込む「生きた理解」
 理科の生物を勉強したとき、「あっ!あの時見つけた虫にはこういう特徴があるからこのグループなんだな」と、それまでは特に面白いとも感じなかった学校の授業に突然魅力を感じさせる、自分の自由な時間に経験した「生きた理解」。
 こう言うことは、他にも色々あります。例えば、覚える事柄が無限にさえ感じる程多い6年生で習う歴史授業も、その史実の背景に、自分が好きで見ていた大河ドラマで知ったある武士の戦(いくさ)の動機が隠れていたことが分かった途端に魅力あるものに見えたり、また、多くの子どもがつまずくと言われる5年生の算数で習う割合の学習で、自分が普段習っているスポ少の野球で経験していた打率を表す「◯割◯分◯厘」という歩合表示が登場した瞬間に、それまで意味がわからなかった「基にする量」「比べる量」の意味がストンと理解できたり…。ある時の「生きた理解」に基づく発見をきっかけに、それ以後の興味・関心がガラリと変わる、それが子どもというものです。
 自分が答えを知っている問題が授業に登場するだけで意欲が湧くのが子どもです。それが「自分の自由な時間」に五感を通して経験した「生きた理解」であれば、まるで教科学習に命が吹き込まれるような感覚ではないでしょうか。つまり、自分の自由な時間」にどれだけ多くの実体験をしていたかで、“学びの発見”がいくつできるかが決まると言っても過言ではないのです。

親が特に気をつけるべき場面
「比較的余裕のある幼い時に親の1日の過ごし方を少し工夫して、子ども自らが自然に学ぶ姿勢をなんとか育ててあげたい」との指摘がありました。
 子ども自らが自然に学ぶ姿勢を育てるための過ごし方の工夫、それはどんな工夫でしょうか?難しそうです。
 しかし、実はそのチャンスは、どのお宅のお子さんにもあると思います。それは幼児期に見られるある行動、例えば「入れ物に入っているおもちゃを全部出した後、直ぐにそのおもちゃを戻す。これを何度も繰り返す」「ティッシュをいつまでも出し続ける」等の一見意味の無さそうな遊びです。実はその遊びの中では、子どもなりの“好奇心”が働いていることが多いと言われています(本ブログ記事「理解できない子どもの行動 〜その背景にある人間の根幹に関わること〜」参照)が、ポイントはその時の親の対応の仕方です。それらを「やめなさい!」と制止しているようだと、就学後の子どもの学習に大きな悪影響を及ぼすことになりそうです。逆に、その時期に親が子どもへの望ましい対応の姿勢を身に付ければ、その後も、子ども主体の対応がなされるのではないでしょうか?

学習を支えるのは意欲
「子どもにとっては遊びでも、目の前にあるいろいろなことに興味を持ち、それを知りたいと行動に移し、自分の知識として蓄えてきた。このことが、のちの勉強へとつながっていった」との指摘がありました。
 ここで言われている力は、教師の世界で「問題解決能力」と言われている力のことだと思います。問題解決能力」というのは、生活場面の中から自分で「?」を抱き、自分の考えでその「?」を解決しようとする力のことです。通知表には、4つの観点、上から順に「関心・意欲・態度」「思考(考え方)や判断」「表現や技能(処理)」「知識や理解」とあるうちの「関心・意欲・態度」や「思考(考え方)や判断にその評価が表されます。
そこに働いているのは「好奇心」であり、更に、好奇心を働かせようと思うだけの「安心感」です。学習で大切なことは「分からないことを分かりたいと思う意欲」であり、それが無ければ、中学受験という大きなハードルを超えようと思うことができず、やる気が萎えてしまうのでしょう。
 また、「分かりたいと思う意欲」の大切さは、中学受験をしない子どもにとっても同様です。なぜなら、受験の有無に関わらず、高学年になってからの学習内容の難易度が格段に上がるからです。

意欲を支えるのは親が与える安心感
 学年が上がるにつれてグングン伸びる子どもの親御さんは夢中になるわが子の姿を温かく見守っていたと言います。
 因みに、先日テレ朝「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」に出演していた、総受験者20万人のうち0.2%しか合格していない難関試験・世界遺産検定マイスターに史上最年少の11歳で合格した、世界遺産博士ちゃんの中学2年生山本・リシャール・登眞くん。

 彼のお母さんは、彼が読みたいと言った大人向けの本に出てくる読めない漢字に全てルビをふってあげていたと言います。彼は「母の協力が無ければ今に僕はいない」と語っていました。こんな愛情を注がれていれば、彼ほどの意欲をみせるだろうと納得しました。
「子どもにとっては先ずは安心が第一優先。それが保証された時に好奇心を満たそうと探索行動(冒険)をする」(同上「理解できない子どもの行動 〜その背景にある人間の根幹に関わること〜」より)のです。