【今回の記事】

【記事の概要】
 子どもの「自己肯定感」をいかに育むか。男の子と女の子では少し違ったアプローチが必要かもしれません。『男の子の「自己肯定感」を高める育て方』の著書がある開成中学校・高等学校の柳沢幸雄校長が伝えたいこととは? 

息子の「自己肯定感」を伸ばすお母さんの接し方
「自己肯定感の高い低いは生まれつきのもの」と思っている方もおられるようですが、自己肯定感は遺伝でもなんでもなく、育った環境によって培われるものです。(しかし)「自己肯定感を育てる」ように言われても、いったいどうしたらいいのか、何をすればいいのか分からない、という方も多いのです。

 子どもの自己肯定感を育むうえで、思春期は親が関われる最後のチャンスです。この後になると、子どもは自分自身の手で、自らの自己肯定感を作り上げていかなければならず、親の働きかけも響かなくなっていきます。

 では具体的に、どのような関わり方をしていけばいいのでしょうか。実は驚くほど簡単な方法があります。しかし、簡単な割に実行している方はそれほど多くないというのが、私の印象です。
 それは「お手伝いをさせる」ことです。娘にはお手伝いをさせるのに、息子にはそれほどうるさく言わないご家庭もあるでしょう。かわいい息子のために、大きくなっても身の回りの世話をあれこれ焼いてしまうお母さんも多いものです。また「手伝ってもらうと、かえって面倒」という理由で、あえてお手伝いから遠ざけている方もいます。

家庭の中で役に立つという経験をさせ続ける
 しかし、これではいけません。お手伝いはただ単に、家事のスキルを身に付けさせるためのものではありません。それは子どもに、「家での居場所」や「家族の一員」としての、安心感を提供することにもなるものです。「自分はここにいる必要がある」「自分はこの家族に必要だ」という気持ちは、その子の自己肯定感を土台で支えるものになります。

 現在のように「お手伝いはいいから、勉強してなさい」というような家庭では、「勉強」という柱を失った途端に、自分の自己肯定感を支える拠り所がなくなってしまいます。そして「勉強」で支えられた自己肯定感は、いとも簡単に崩れ去るものです。進学校に進めば自分よりできる人は、掃いて捨てるほどいるものですし、親の期待の学校に受からなかっただけで、自分の存在価値を見失ってしまう子もいます。
 ですから、勉強とは別の部分で、家庭の中で役に立つという経験をさせ続けることが、その子の自己肯定感を維持するうえで役に立つのです。例えば、お母さんがだんだん辛くなってくる力仕事、重い新聞を出す、ゴミを出す等を任せるのがいいでしょう。自分が母親の役に立っていると感じることに加えて、「母親より力持ちになった」と自分に対しての成長を感じることにもつながります。また、余裕がないと出来ないことを頼むのもいいですね。自転車のタイヤに空気を入れてもらう、靴を磨くなどは、男の子にぴったりのお手伝いです。

 大切なことは、それがたとえルーティンになったとしても、きちんと言葉にしてお礼を伝えることです。「最近、重いものを持つのが辛かったから、助かるわ」「靴がきれいで、気持ちがいいわね」。このように具体的なほめ言葉を聞くことで、男の子は自分のした仕事が役に立っていると認識することができるからです。

息子の話を聞こう
 もう一つ簡単な方法があるのですが、これはどうも世のお母さん方には、非常に難しいようです。それは「息子の話を聞く」ということです。
「相手の話を聞く」ということは、「あなたのことを認めている」というサインになります。ですから息子さんの話を聞くことができれば、それは息子さんに「あなたのことを認めている」と伝えることになるわけです。

「そうはいっても、うちの子何の話もしないんです」と言うお母さんのご意見もよくわかります。ただ、ちょっと振り返ってみてください。お子さんの話に、もしかしたら「意見」をしてはいないでしょうか?お母さんは、意見をしたい気持ちをぐっとこらえて、聞き役に徹してください。感覚的には、「子2:親1」くらいがベストです。話を聞くだけで、子どもの自己肯定感を上げられるのだとしたら、やらない手はないはずです。

【感想】
なぜ「思春期は親が関われる最後のチャンス」?
「子どもの自己肯定感を育むうえで、思春期は親が関われる最後のチャンス」とはどういうことでしょうか?
 第二反抗期は「自我の発達」とされ、自我(自分らしく生きるために自分を支える機能)が大人と同等になる時期です。日本には、中学校を卒業する頃の男女を対象に、成人したことを誓う「元服」という武家の古式を再現した儀式を行う文化があるように、以前は、思春期、即ち第二反抗期を境に親に保護・養育される時期を卒業すると考えられてきたのです。もしかしたら、義務教育が中学校で終了する意味も関連があるのかもしれません。
 第二反抗期の前は、どの子も親からの助言や指示を素直に受け入れますが、“分かれ目”はその第二反抗期です。「子どもの自己肯定感を育むうえで、思春期は親が関われる最後のチャンス」ということになれば、その時期に子どもに自己肯定感を育んでやれなければ、発達段階上は、それが欠落したまま大人になってしまうのです。

難しい思春期指導
 そのような意味からすると、思春期に自己肯定感を育めるかどうかは極めて重要である一方で、かなり難解な課題と言えます。なぜなら、思春期の子どもは親からの働きかけを敬遠しがちであるからです。
 その課題を、子どもとの微妙な会話のやり取りによって乗り越えようとすることは、微妙な“さじ加減”を間違えると、親子関係の不和を生んでしまうリスクを含んでいます。それよりも、思春期の子どもに“自己肯定感を育む場”を設定する方がずっと上手くいくでしょう。それが「親の手伝い」という家庭内のシステムの構築です。あくまで、手伝ってくれた子どもにきちんと感謝の気持ちを伝えるという条件付きではありますすが、毎日のルーティンの中で、自然と子どもの自己肯定感が育まれるのであれば、もはやそれをしないという選択肢はないでしょう。
 もちろん思春期に入ってから手伝いを始めさせることには無理がありますから、思春期に入る前から当たり前に手伝いをさせておくことが望ましいと考えます。

手伝い”という“勉強”以外の居場所作りの大切さ
 さて、記事にあるような「お手伝いはいいから、勉強してなさい」というような家庭では、自分の自己肯定感を支える拠り所がなくなってしまう確率が高くなります。なぜなら「勉強」は、テストの成績という、子どもがコントロールしにくい“結果”によって評価されてしまうからです。
 それに比べて、「手伝い」は、その行為をするという“努力”次第で評価してもらうことができるというメリットを持っています。それだけでなく、 記事中で挙げられているような「最近、重いものを持つのが辛かったから、助かるわ」「靴がきれいで、気持ちがいいわね」という感謝の言葉をかけてもらい、更に、それまでスーパーウーマンのように思っていた母親が自分の力を頼りにしてくれているという経験は、自分の居場所作りに 絶大なる効果を発揮することでしょう。
 私事で恐縮ですが、大学生だった頃、実家に帰省した時に、当時小学校の学級担任をしていた母親から「暢宏、この算数の問題どう教えたら良いと思う?」と聞かれた時の状況も場所も嬉しかった気持ちも、まるで昨日の事のように覚えています。

子どもの話をきちんと聞く方法
 記事にある通り、「子どもの話を聞こう」と思っていても、つい親の意見を押し付けてしまうという事は誰にでもありがちなことのように思います。
 話は変わりますが、外出する際に、戸締りをしたかどうか不安になることは誰でもあると思います。私たちはそのためによく“指差し”をします。“指差し”という行為をすると、それに伴って必然的にその先を見るからです。
 私は、それと同じように、相手の話をきちんと聞くためには、“うなずく”という行為が大切であると考えています。私達は“うなずき”という行為をすると、それに伴って必然的に相手の話を聞くように思うのです。逆に、うなずきながら自分の話をするという事の方が難しいのではないでしょうか。「安心7支援」にも「⑤子どもから話しかけてきた時には子どもの話をうなずきながら聞く」と明記してあるのはそのためです。
 つまり、努めて“うなずく”という行為を心がけることによって、必然的に子どもの話をよく聞くことができるようになると思います。

【補足】
 今回の記事は母親限定の内容でしたが、子どもが手伝いをした時にお礼を伝えるのは母親だけの役目ではありません。父親も同様です。
 確かに子どもを見守り社会のルールや厳しさを体験させる父性の働きが主目的の父親ではありますが、父性の働きである「見守り4支援」には「子どもが自分の力でできた時には子どもを褒める」がありますし、父親が母性を併せ持つこと十分可能です(もちろんその逆も然り)。そうでなければ、一人親家庭では教育が成り立たないことになってしまいますが、もちろんそんなことはありません。事実、立派にお子さんを育てている親御さんは世の中にたくさんいます。
「母性」「父性」については、あくまで最低限果たすべき役割をお伝えしています。

 また、“家での居場所作り”の大切さは男の子に限ったことではありません。最近では、家庭での生活に寂しさを感じて、SNSで見知らぬ他人との繋がりを求める女の子も増えているようです。同様の接し方が必要だと思います。