前回からの続きです)
   さて、私の学会での発表後に、お2人の方からご質問をいただきました。

Q1.今回提案された「回避型」と「不安型」について、『自分の子どもがどちらのタイプであるか?』についてはどうしたら分かるのか?また、「安心7支援」と「見守り4支援」の支援の方法をどのようにして世の親御さん方に伝えようと思っているのか?

Q2.今の世の中で、「安心7支援」と「見守り4支援」のような考え方をしている親御さんはあまりいないのではないか?また、江戸時代や明治時代はどうだったのか?その点はどう考えているのか?(この質問は、私の発表の中で「これらの行為はどれも普段皆さんが無意識に行っているものばかり」と述べたことを受けてのものだったと思います)
 
   まず、「Q1」についてですが、私は次のような旨を答えました。
「岡田尊司氏の著書『愛着障害~子ども時代を引きずる人々~』の巻末に自己診断のための設問が掲載されているので、そちらで診断すると分かります。また、二つの支援方法については、自治体のホームページをお借りしてSNSを通して発信することによって可能になると考えています。」
 
   次に、「Q2」については、次のような旨を答えました。
「ポイントは、『母性』や『父性』についての捉え方が今の時代に即しているか?ということにあると思います。私はこれら両性について、それぞれ先行研究から『母性』は『子どもの言動を受容し愛情を注ぐこと』、『父性』は『子供に自立を願い世の中のルールを教えること』、と捉えました。私はその捉え方に基づいて、それぞれの支援方法を考えました。」

   なお、このQ2の「今の時代と“かい離”しているのでは?」という趣旨の質問に答えた後、私の頭の中に、ある“後悔”が生まれました。私は発表の中で「保育所の利用は、愛着の形成に欠かせない『特定の人』との関わりが確保されにくい」とする岡田尊司氏の指摘を紹介したのですが、そのことが「愛着理論は今の社会の現状に即していない」という印象を与えてしまったのではないか?という思いです。確かに、保育所利用のデメリットを挙げはしましたが、保育所の利用自体を否定してしまっては、それこそ現状の改善に役に立たない提案になってしまいます。それはむしろ逆で、母親という特定の人との関わりが持ちにくい社会になっているからこそ、少ない時間の中で意図的・効率的に愛着形成を行うために「安心7支援」という具体的な愛情行為が必要になるのです。
 例えば、仕事から帰って来た母親が、比較的精神的に安定している時に、声をかけてきた子どもに対して、「安心7支援」のうちの①視線を送り②微笑むことは、意識次第で十分可能です。母親がそのことを日常的に実践することによって、子どもは母親に対して敏感に“優しい雰囲気”を感じ取ります。それだけで子供の母親に対する安心感が増し、両者の心の距離感が縮まります(私はこの安心感を増す“優しい雰囲気”のことを「安心オーラ」と呼んでいます)。因みに、中京大学でご退官された発達心理学者の鯨岡峻先生は、感覚過敏の子ども対して大人が否定的・支配的な表情や言動をとることで発せられる、子供の安心感を妨げる雰囲気のことを「させようオーラ」(「きちんとさせよう」「みんなと同じようにさせよう」と焦ることによって生まれる“厳しい雰囲気”)と表現しています。母親が①子供に視線を送り、②微笑むことで発する「安心オーラ」は、「させようオーラ」とは正に極にあるもので、日常的に子供に対して実践できる行為です。
   私は以前、究極の”安心欠乏症”ともいえる「自閉症スペクトラム障害」の5年生の男の子を担任したことがあります(因みに、“安心感”という尺度で考えれば「愛着不全」もやはり”安心欠乏症”と言えます)。その男児のお母さんは、男児の不適応行動を前にして、男児に対して「困った子だ」という表情を見せることがあったのですが、その表情が男児にとっては「させようオーラ」として受け止められていたようで、男児の不適応行動は続きました。しかし、その母親に「安心7支援」の行為を紹介したところ、お母さんは「『微笑む』なら私にも出来そうなので、それからやってみますね」と、実践を始められました。すると、驚くことに男児の様子は180度変わり、典型的な”お母さん大好きっ子”になりました。親御さん自身が出来る行為から実践しても効果があることをそのお母さんから教えていただきました。

 更に、子どもと接する時間が少ない親御さんに私がお勧めしているのが「5分間抱っこコチョコチョじゃんけん」です。親が子どもを自分と対面するように膝の上に抱っこして、子供とじゃんけんをします。勝った方が相手をコチョコチョくすぐるというものですが、実はこの行為の中に「安心7支援」のほとんどの行為が含まれています。これは私が考案した方法ですが、「どんな行為が愛着を形成するうえで大切なのか?」ということを具体的に定義したことで考え出すことができたものです。同様に世の親御さんも、それぞれの生活場面に即した支援を考えることができるものと思います。

   これらの、いわゆる「愛着形成は“量より質”が大切」という考え方、このブログでは、これまで皆さんにお話ししてきたことなのに、いざ発表となると、肝心な事を伝え忘れてしまう。誰かに伝える、話すことで初めてそのことに気がつきます。情報発信の経験は大切だと改めて痛感しました。
 
 さて、発表後には、ある参観者の方がわざわざ私の元へいらして、「遠藤先生が指摘された『人間を含め全ての動植物は一つの例外もなく、いつの時代であってもオスとメスとがそれぞれの役割を発揮し合うことで健全な子孫を残してきた』という指摘は全くその通りだと思いました。」と感想を伝えてくださいました。更に、何人もの方が名刺を持ってご挨拶にいらしてくださり、私も今回のために即席で作った名刺を持参しお渡ししました。

(次回、午後の講演会へとつづく…。この中で、私にとってある驚くべき出来事が起こります!)