【今回の記事】
【記事の概要】
   景気回復と自殺対策の成果があってか、国民全体の自殺者数は減少傾向にある。2000年の年間自殺者数は3万251人と3万人を超えていたが、2017年には2万465人と大きく減った(厚労省『人口動態統計』)。この間に自殺者は3分の2に減少したことになる。
   しかし、子どもの場合はそうではない。思春期の10代前半を見ると、年によって凹凸はあるが、おおむね増加傾向にある。2016年の年間自殺者は71人だったが、2017年では100人と大幅に増えている。中学生の自殺が頻繁に報じられていることからも実感があるかもしれない。 


   下記<図1>は子どもの自殺率の推移だ。年による凹凸が激しいので、3年次の移動平均(当該年と前後の2カ年の平均値)の曲線も添えた。こうすることで、大局的な推移も読み取りやすくなる。 

   青色の自殺率の実値をみると、凹凸しながらも上昇傾向で、最新の2017年の数値が最も高くなっている。子どもの自殺率は戦後最高だ。赤色の移動平均から、凹凸を排した滑らかな傾向を見て取れるが、2010年以降の上昇が際立っている。スマホの普及期と重なっていることが分かる。 ネットいじめ、自殺勧誘サイト......思い当たる事象は数多くある。自我が未熟な青少年には、情報化社会の影の部分が直接投影される。

   子どもの自殺の心理として、「苦しみが永遠に続くという思い込み」「心理的視野狭窄(自殺以外の解決手段が浮かばなくなる)」というものがある(文科省『教師が知っておきたい子どもの自殺予防マニュアル』2009年)。こうした認知の歪みを是正する必要がある。 

   それでは、子どもの自殺動機にはどのようなものが多いのか。いじめを苦にした自殺が多いと思われるかもしれないが、データで見るとそうではない。過去5年間の小・中学生の自殺動機を示すと、<表1>のようになる。延べ数467件の内訳だ。 

首位は「家族からのしつけ・叱責」2位は「親子関係の不和」、3位は「学業不振」となっている。いじめや学友との不和よりも、家族関連の要因が多いことが分かる。 

   日本の人口構成が逆ピラミッドになる中、子どもへの期待圧力が強まっている。過度の期待で子どもを自殺未遂に追い込んだ親の事例もあるが(「
神童に過度の期待、子供の自殺未遂で気づいた親の愚かさ」NEWSポストセブン、2019年2月23日)、養育態度の歪みには注意しなければならない。

【感想】
   小中学生の自殺動機の中で、いじめは僅か2.4
%であるのに対して、圧倒的に多い家族関連の要因。これには驚かれた方も多いのではないでしょうか?

   さて、上記記事「神童に過度の期待、子供の自殺未遂で気づいた親の愚かさ」の概略はおよそこうです。
「3才で文字を、5才で九九を覚えた息子を、両親は、“神童”とばかりに自慢に思い、将来を期待していた。その後両親は、当時荒れていた中学校に見切りをつけて中学2年生から高い授業料の進学塾へ通わせることに。しかし、学校で基本すら習っていなかった息子は、塾で最下位の成績を取ってしまい、。やる気をなくしてしまった。そんな息子の様子に、両親は焦り、成績が上がらないのは怠けているからだと決めつけ、毎日のように怒鳴りつけた。そんな中学3年生の11月、塾から帰ってこない息子は、成績を上げられない申し訳なさから、6階建てのビルの屋上から飛び降り自殺を図ろうとする。母親の制止で思いとどまった息子は『ごめんなさい、ごめんなさい、もう許してください』と、その場で赤ん坊のようにわあわあ泣き崩れた。母親はこの時ようやく、自分がいかに愚かな親だったのかに気づいた。」

   子どもが秀才ぶりを発揮すれば“神童”と過度な期待を寄せる一方で、成績が振るわなければ一転して「月5万円も払ってんだから、もっといい点数を取ってこいよ」「このままじゃどこの高校も入れないわよ!バカ息子!!」等と、これも過度に叱責する両親。この事例のような“神童”とまではいかなくても、やはり我が子に大きな期待を寄せている親御さんは多いと思われますから注意が必要です。
   このように、“過度の期待”と“極端な失望”によって形作られる不安定な人格タイプのことを「不安型愛着パターン」と呼びます(大人の場合は「愛着スタイル」と呼びますが、子どもの場合は、まだそこまで完成されていないということから、「愛着」研究家の岡田氏は両者を区別して呼んでいます)。
   このタイプに陥らないためには、“いい成績が取れた時だけ褒める”という「条件付きの愛」ではない、無条件の愛」(「愛着の話 No.107 〜子供を安定した人格の大人に育てるために必要な「無条件の愛」とは?〜」参照)を子どもに向けることが必要になります。この「無条件の愛」とは、文字通り、何の条件も必要なく享受できる愛情を言います。
   上記参考記事の中では、この「無条件の愛」について、①子どもを褒める時、②子どもを叱る時、③普段の時、それぞれどうすれば「無条件の愛」を子供に伝えることができるか?についてお話ししています。
子どもががんばった時はもちろん褒めます。
②逆に子どもが何らかの失敗をしでかしてしまった時には、「人間だもの、そんな時もあるよ」「次に同じ失敗をしないようにすれば大丈夫だよ」等と、失敗を受け止めて励ましたり応援したり、「あなたらしくありませんよ!」「今のあなたは本当のあなたではありません!」等と、その子ども本来の姿を信じて言葉をかけたりしてあげます。
普段の時では、太陽の日差しが子どもを包みこむように、目の前にいる子どもを「愛着7」のような肯定的な愛情行為(見て微笑む、穏やかな口調で話しかける等)で温かく包み込んであげます。

   この「不安型愛着パターン」は、“過度の期待”が裏切られた結果、親が感じる“失望”は、“叱責”という形で子どもに降りかかります。その場合子どもの心は、「親に見捨てられたくない」という“愛情飢餓”状態に陥ります。
   その一方で、家族からの“期待”が殆どなく、“厳しい叱責”だけが繰り返された場合には、「この親とともに生活することは自分にとって不利益にしかならない」と本能が学習し、“愛情拒否”状態に陥ります。場合によっては、幼い頃に受け続けた叱責に対する怒りが蓄積して、親に対して暴力的な行動を見せる場合もあります。思春期に親に暴力を振るう子どもは、このケースが多いと思われます。この場合の「愛着」タイプは「回避型愛着パターン」です。先の「不安型」の出現率が全体の10%程度であるのに対して、この「回避型」が15〜20%という精神科医の岡田氏の指摘を考えると、厳しい叱責による養育が最も陥りやすいケースだと言えます。
   先の事例の「不安型愛着パターン」だった子どもは「ごめんなさい、ごめんなさい、もう許してください」と親の期待に応えることができないことに罪悪感を感じていました。しかし「回避型愛着パターン」の場合は、親の期待に応えようという気持ちさえ湧いてきません。糸の切れた凧のように、親の元から離れていってしまいます。その「糸」こそが、親子間に築かれる「愛着(愛の絆)」なのです。この“絆”が失われると、子どもは自分の心の居場所を失い、生きることに対する意欲を失ってしまうこともあります。そして、この子どもと繋がる“愛の絆(「愛着」)”を築くために必要なものが、やはり「愛着7」のような愛情行為なのです。