【今回の記事】

【記事の概要】
   最初は車の中だった。昨年秋、長野県の母親(31)は、当時1歳だった長女(2)がぐずってチャイルドシートから抜け出そうとするのをなだめようと、スマートフォンを取り出した。長女自身が遊ぶ様子を映した動画を見せると、吸いつけられるように画面に見入った。運転に集中できるよう、動画を見せるようになった。長女は自分が映る動画やアンパンマン、色をテーマに歌う英語の動画が気に入り、繰り返し見た。見たい動画を自分で選び、画面上に母親宛ての通知が入ると指で消すようになった。ネット関係の仕事をする母親も父親(32)もそんな長女を好ましく思った。「今どきスマホは生活の一部。早くIT機器が使えるようになった方がいい
   スマホを見る時間はまたたく間に増えた。起きてまず動画を見る。その間に母親は朝食の支度。母親が家事をしている間も娘は動画。公園では、遊具で遊ぶ合間に動画を見に母親のもとに戻ってきた。入浴中は透明な袋にスマホを入れて風呂場に持ち込んだ。寝る直前まで動画を見た。


   動画を見せ始めて約一ヶ月後。長女は目をパチパチと瞬かせるようになった。動画を見ている最中ほとんど瞬きをしていなかった。動画を見せないと大声で泣きわめき、手足をバタバタさせ、激しいかんしゃくを起こすようになった。心配になりネットで検索すると、スマホ育児に警鐘を鳴らすサイトが多数見つかり、不安になった。
   今年1月、動画を見せるのを車に乗るときだけにした。意外にも2日間ぐずっただけだった。絵本を持ってきて「読んで」とせがみ、目をしょぼつかせることもなくなった。最近は動画を見せなくてもチャイルドシートに座っていられる。動画は1日1〜2回、5分ほど自宅で見せる他、外食時などに見せることもある。「長女は動画に関心が無くなったわけではない。どのような使い方なら悪影響がないのかが知りたい。」と言う記事だった。

   宇津見眼科医院(横浜市)の宇津見義一院長は、「夜にスマホを長く見ていると、体内時計が狂い、生活リズムが崩れる恐れがある。」と話す。近いところを見続けると、焦点を合わせる目の中の筋肉が緊張し近視になりやすい。「スマホをみる時は30センチ以上離し、1時間したら遠くを見るなど5〜10分休みましょう。」と話す。2〜5歳の子が感情のコントロールや課題をやり抜く力、柔軟に考える能力を育む一番いい方法は、オンラインの教育プログラムではなく、友達との遊びや保護者とのやりとりだと強調。2〜5歳の子がスマホなどを見る場合、就寝1時間前は避け、時間を1日1時間以内に制限し、保護者が一緒に視聴するべきだとした。
   埼玉県学校保健委員会が昨年、県内の幼児から高校生までの約2300人を調査したところ、ゲームなどのネット依存の可能性がある小学生が1割いた。調査に参加した峰小児科(さいたま市)の峰真人院長は、「自分の行動を抑制できるようになる小学校高学年になる前に、既にネット依存になっている子が結構いる。使い始める時に、使う場所や時間などの約束事を決めるべきだ。」と訴える。

【感想】
   幼児をあやす人間が自分しかいない、でも食事を作らなければならない、車で移動しなければならない、鉄道などの公共交通機関を使わなければならない等といった生活場面は、他に育児を手伝ってくれる家族がいない核家族であるなら、誰でも同じ経験をする可能性は十分にあります。
   そんな時に、スマホの動画やゲームは、手軽に子どもを静かにさせるツールとしてとても便利です。しかも、スマホは大人になれば、誰でも使うものですから、今のうちから使わせておくことは“一石二鳥”と、このご夫婦と同じ判断をしたとしても全く不思議ではありません。
   しかし、使わせ過ぎれば、必ずその末には子どもの異常症状や異常行動が待っています。記事中での「動画を見せないと大声で泣きわめき、手足をバタバタさせ、激しいかんしゃくを起こすようになった」という異常行動もその1つです。この症状は依存症に特有な“禁断症状(依存している対象を使用できなくなった時に起こる異常症状)”です。

   結論から言えば、スマホ動画視聴の使用ルールを決めて上手に使わせることができれば、異常症状や異常行動は起きずに済みます。その“上手な使わせ方”とは、上記の専門家によれば、以下のようなことに配慮した使わせ方です。
・スマホ動画をみる時は30センチ以上離す
・スマホ動画視聴は1日1時間以内に制限する
・就寝1時間前は使用しない

   ところで、このご両親は、子どもの事情に気づいたときに、「動画を見せるのを車に乗るときだけ」にしました。このように、動画の視聴を“完全禁止”にしなかったことが、その後の子どもの問題の改善に繋がったと思います。これは、今回のようなスマホの使用に限ったことではなく、様々な依存症の実態を改善するうえで、とても大切なことです。一度依存的な症状を示した子どもに、依存対象との関わりを完全に禁止してしまうと、取り返しのつかない程の禁断症状を起こすことが多々あります。そのため、始めはAだけ禁止にする、それができたら次にAとBを禁止にする、それができたらAとBとCを禁止にする、と言うように、スモールステップを踏んで、少しずつ問題の改善を図っていくようにする必要があります。
   また、この女の子が、「激しいかんしゃくを起こすようになった」時に、親が子どものかんしゃくに負けて動画を見せ放題にした場合でも、子どもに“誤った学習”をさせることになり、いっそう重篤な依存症状に陥らせることになっていたでしょう。
   更に、記事中では、「使い始める時に、使う場所や時間などの約束事を決めるべき」と されています。しかし誤解のないように言うならば、「使い始める時」ではなく「使い始める前」に約束事を決めて守ることを約束させてから 使用を許可することが大切だと思います。その約束の中には、守れなかった場合の“ペナルティー”にも触れておく必要があります。約束を守らなかった時に、自分にとっての重大な不利益が生じることが分かっていれば、大きな抑止力となります。なお、スマホ使用のルールについては、次の記事が参考になると思います(必要だと思う項目を親御さんの判断で選んで頂ければと思います)。

   また、記事中で宇津見院長は次のように指摘しています。
「2〜5歳の子が感情のコントロールや課題をやり抜く力、柔軟に考える能力を育む一番いい方法は、オンラインの教育プログラムではなく、友達との遊びや保護者とのやりとり
これは、他者とのアナログなコミュニケーションが重要であることを指摘しています。特に親が「愛着7」のような接し方で子どもと接することが必要不可欠だと思います。
   なお、「愛着」研究の専門家によって、母子間の「愛着(愛の絆)」を育むことは、子どもに様々な力を育むことが指摘されていますが、その中に“自律心(自分の弱い気持ちに負けない心)”が挙げられています。つまり、特に母親との「愛着(愛の絆)」が育まれやすいとされる1歳半までの間に、母親から「愛着7」のような愛情行為をたくさん受けた子どもは、“ぐずり”も少ないと言えるのです。私の経験上、小学生でも、すぐに泣く子どもは、家庭環境が不安定である場合が多かったです。

公共の場で他人に迷惑をかけないこと」を第一に、出来るだけ限定的な利用にしたいものです。

   なお“スマホに頼らない育児”については、以下の記事でお話しています。