【今回の記事】

【記事の概要】
①CM《引越し編》の中で、結婚生活を始めようとしている夫婦が新居に引っ越してきました。その引越し作業の最中に、旦那さんが奥さんに夫婦生活に対するある不安をこぼします。
「夫婦になるのに迷惑かけそうな気が…」
「夫婦なのに喧嘩ばっかりかもよ…」
「夫婦なのに幸せにできなかったら…」

②結婚にいちばん遠い場所にいるのは、どんな人かご存じだろうか?恋人のいない人ではない。結婚を言い出さない恋人と何年も付き合っている人なのだ。
(中略)最初は物腰が優しい男性だと思っていたのだが、お付き合いを始めてみると、雅弘はかなり変わった性格だった。「仕事を終えるとまっすぐ帰宅する。とにかく外が嫌いな人だったんです。デートはいつも彼の家。お互いに一人暮らしをしていましたが、一度も私の家に来たことがなかった」初めて彼の家に行ったときには、その散らかりように驚いた。ゴミ屋敷とまでいかないが、物が散乱し、掃除をしている形跡がなかった。「キッチンも使えるような状態ではなかったので、私がきれいに掃除をしました。外に食事に行くのが嫌いな人だったので、デートの食事は彼の家が多かった。私があらかじめ作った料理をタッパーに入れて持っていったり、泊まった翌日は、簡単な料理を作ったりしていました」
   1カ月後にメールがきた。「そのメールを読んで、彼の言っていることにあきれてしまって、やっと洗脳が解けました。“何が何でも結婚”という呪縛からも解放されました」メールの内容は、こうだった。「僕は、相手とけんかをするのが嫌いです。洋子さんはいつも、『私と結婚する気持ちはあるの?』とけんかをふっかけてきます。『外に食事に行くのは好きじゃない』と言っている僕に、『記念日だから』と外食を強要します。こうしたけんかがなくなり、その平和な状態が1年くらい続かないと、僕は結婚を考えられません」

【感想】
   この2つの記事に共通するのは、男性の結婚に対する不安な気持ちです。記事①はテレビCMでの会話ですが、「男性は女性をリードするもの」という先入観があるためか、この記事に限らず、同様の“煮え切らない男性”の存在は、皆さんも見聞きしたことがあるのではないでしょうか?また、このような人の背景にはどんなことがあるのでしょう。


背景にある人格タイプ〜愛着スタイル〜
   さて、上記記事の紫色部分の記述内容は、「回避型愛着スタイル」という人格タイプの人に見られる特徴です。それは次のような特徴に由来しています(「愛着の話 No.28 〜大人の愛着スタイル ②回避型愛着スタイル〜」参照)。
・葛藤を避けようとする
・何に対してもどこか醒めている
・面倒くさがり屋
恋愛に対してもドロドロしたものを嫌う淡白なところがある
頼られることは面倒事であり、面倒事を持ち込まれることは怒りを生む

つまり、とにかく面倒なことが嫌いな、ある意味偏った平和主義者です。そのため、「私と結婚する気持ちはあるの?』と問われることも「けんか」に、記念日だから」と外食に誘われることさえ「強要」になってしまうのです。

   今回の記事のように、自分の未来に対して明るい見通しが持てないタイプは、正にこの「回避型愛着スタイル」の持ち主なのです。
   先にように、回避型の人は葛藤を避けようとします。そのため、人とぶつかり合う状況が苦手で、そうした状況に陥るくらいなら、自分から身を引くことで事態の収拾を図ろうとします。つまり、毎日パートナーと暮らすことによって生まれるトラブルやわずらわしさが苦手で、それらから遠ざかろうとするのです。

恋愛や結婚に対して消極的になる愛着スタイル
   更に「回避型愛着スタイル」の人は、次のような理由から、恋愛や結婚に対して消極的になりがちです(「愛着の話 No.20 〜愛着は特に成人後の異性関係や子育てに影響する。〜」参照)。「乳幼児期に親からあまり構ってもらえなかった人は、他人との交流を避けがちで、恋愛対象との絆を何としても守ろうとする意志が弱い傾向にあります。それは、まだ自分では何もできないほど無力で幼かった頃に、どんなに親を呼んでも自分のところに来てくれなかった生死に関わる危機を経験したことによって、愛着対象を求めることを本能的に諦めるよう自分を変えてしまったためなのです。」「『親でさえ自分を守ってくれなかった』という不安感が、成長の過程で未来に対する絶望感や環境に対する怒りに変わり、誰かと心から人生を楽しむことができなくなります。また『誰も自分を守ってくれなかったのだから、自分のことは自分で守らなければならない』という意識が生まれるために、他者を信頼して積極的に交流しようという気持ちが薄れていきます。そのため、大人になって結婚適齢期になったときに、異性に対しても信頼感を持てず、結婚というハードルを越そうとする意欲が湧かなくなってしまうのでしょう。」

「回避型愛着スタイル」に陥る要因
   我が国の「愛着」研究の第一人者である岡田尊司氏は、「回避型愛着スタイル」の人がそのタイプに陥る背景として、乳幼児期に親からあまり構ってもらえなかったり冷ややかな養育を受けたりした経験や、複数のスタッフが入れ替わり立ち替わり子どもの養育に当たる保育施設等で過ごし実の母親との間に「愛着(愛の絆)」を形成できなかった経験、更に、幼少期に親からあまりほめられたことがなく、悪い点ばかりを注意されたような経験があることを指摘しています

相手の愛着スタイルに合わせる
   この「愛着」スタイルは、「第二の遺伝子」と言われる「愛着」の一つのタイプです。つまり、この「回避型愛着スタイル」も、大人になってからそのタイプを変更することは極めて難しいのです。即ち、このタイプの人の言動を責めることは得策ではありません。かえって両者間のトラブルを深刻なものにするだけでしょう。
   そこで、このタイプの考え方を認めて、そのタイプに合わせた接し方をする方が、ゴールへの道筋ははるかに明確なものになるに違いありません。例えば、相手の男性が外食が苦手であれば、出来る範囲で部屋での食事にし、外食の約束は明日明後日の急な話ではなく、前もって約束して相手が見通しを立てることができるようにする。また、「私と結婚する気持ちはあるの?!」のように相手に迫るような言い方ではなく、「(一般論的に)最近結婚したいと思わない人が増えているって聞いたんだけど、あなたはどう?」等とやんわり聞く、等、「この女性と一緒だと自分は安心できる」と思わせるようなお付き合いを心がけることが一番の近道だと思います。

   このように、相手の行動特徴を認め、その特徴に合わせた接し方をすることは、この「回避型愛着スタイル」に限らず、「安定型愛着スタイル」や「不安型愛着スタイル」・恐れ・回避型愛着スタイル」の他の不安定型の「愛着」タイプ、更に自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)等の発達障害の人に対しても同じことが言えます。“相手の考え方や立場を理解して、それに配慮する”ということは、実は極めて基本的なソーシャルスキルと言えるのではないでしょうか?
   なお、これまでの私の経験上、これら様々なケースに共通する効果的な接し方は、両者間の人間関係を親密なものにするともに、相手の人の気持ちを安心・安定に導き自己肯定感を高める接し方である「愛着7」であることは間違いないと思っています。