【今回の記事】

【記事の概要】
①大津市で2011年10月、中学2年の男子生徒=当時(15)=が自殺したのは元同級生によるいじめが原因として、遺族が元同級生3人と保護者に計3800万円の損害賠償を求めた訴訟で、大津地裁は19日、元同級生2人に約3700万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
    裁判で元同級生側は男子生徒に馬乗りになるなど一部の行為自体は認めたものの、いじめではなく「遊びだった」等と反論。いじめと自殺の因果関係が大きな争点になったが、西岡裁判長は「いじめが自殺の原因で、予見可能性はあった」と述べた。
   大津いじめ事件は、いじめの問題を社会に広く投げかけ、学校に常設の対策組織を置くことを明記した「いじめ防止対策推進法」が成立するきっかけとなった。
②判決で大津地方裁判所の西岡繁靖裁判長は「当初は、友人だった同級生らとの間で、いじる側といじられる側という関係が固定化するようになり、同級生は男子生徒を“格下”とみなして暴行などのいじめ行為をエスカレートさせていった。友人関係が崩壊し上下関係に変わっていく中で、男子生徒は無力感や絶望感を深め、死にたいと思うようになった」と述べて、同級生が男子生徒を精神的に追い詰めたと判断しました。
③父親は「この判決を勝ち取った息子は、亡くなったがよく頑張った。いじめは必ずしも暴力を伴うとは限らず、仲間外れや執拗な屈辱を与える行為も、自死に追いやる危険な行為です。いじめの被害者が司法救済を受けられる仕組みづくりを急いで」と語った。

【感想】
    実に画期的で意義の深い判決でした。

“いじり”が常態化した“いじめ”
    今回の事件が起きた最大の要因は、「いじる」と言う「(単なる)遊び」が日常化する中で、“いじる側といじられる側”という関係が固定化し、それが“いじめる側といじめられる側”という“上下関係”に変化していったことでした。結果的に、被害側が精神的苦痛を感じていればいじめである、と定義する現在の「いじめ防止対策推進法」が生まれました。今回の判決によって、加害側の「ただの遊びだった」「いじっていただけだった」という主張は許されない、ということが再確認されました。

いじめが起きるメカニズム
    今回のいじめでは、顔に落書きするズボンをずらしたりする、更には、死んだハチを食べさせようとする、等のいじめ行為があったと報道されています。このような常軌を逸した行為でさえ「遊びだった」としか思っていなかった同級生達の認識の甘さには驚くばかりです。
   しかし、ある専門家が、いじめが発生するメカニズムについて「加害者の子どもたちは、自分が置かれている環境(家族や学級等)に適応できず不満を抱き、それによってストレスを溜め、それを被害者の子どもに向けて発散している」と結論付けているように、それだけ、その子ども達が置かれていた環境がストレスフルなものだったということだと考えます。
    更に、今回の重篤ないじめ行為が、ごく一部の子どもによって引き起こされているものであることを考えれば、そのストレスフルな環境は、学校よりも家庭での養育にあったと考えるのが妥当です。ましてや、いじめの加害者となった我が子をかばい、いじめられた子どもの家庭に責任転嫁した加害者の親による養育など推して知るべしです。

いじめの要因と厳罰
    今回その親は、自分の子どもが多額の賠償金を命じられたことで罰則を受けましたが、なぜ今回のような事態に陥ってしまったのかについては、現時点でも分かっていないはずです。そしてそれは、全国で同じようにいじめに加担している子どもの親達も同様です。「なぜ自分の子どもが人様を傷つけるようになったのか?」について微塵も理解していないのが実情でしょう。
   その要因が分からず子どもに対する接し方が変わらないままで、今後も加害者に対する罰則が強固になっていけば、加害側の親達に対するプレッシャーだけが大きくなっていくでしょう。そのことで更に生まれる親のストレスが子どもにぶつけられることになれば、今よりも更に重篤ないじめが発生することも十分考えられます。つまりは「なぜいじめが起きるのか」が明らかになり、そうならないための養育方法が世の中に周知されることが必要不可欠であると考えます。

いじめが起きない養育の方法
   その養育方法とは、“親が子どもに正しい愛情をかけ子どもが親を信頼する”という両者間の“愛の絆(「愛着」)”を築く、「愛着7」のような具体的な愛情行為に他なりません。その中では、子どもは親の見守りの下で安心感や自己肯定感を抱き、本来満たされるべき欲求、例えば「所属・愛情の欲求(誰かと愛の絆で繋がっていたい)」や「承認・尊重の欲求(他者から認められたい、他者から大切に思われたい)」が満たされたストレスの少ない生活を送ることができるのです。

陰湿ないじめ行為の予防
    更に、「仲間外れや執拗な屈辱を与える行為も、自死に追いやる危険な行為である」という父親の指摘も重要です。今回の事件では、人間の常識から著しく逸脱したいじめ行為が追求されましたが、父親が指摘したような陰湿ないじめ行為も被害者に同様の精神的苦痛を与えるのです。今は、教師さえがクラスの子どものいじめ行為を黙認したり、その場の雰囲気に流されて子どもをいじったりする時代ですから、そんないじめ行為を受けている我が子を救えるのは親しかいません。暴力的ないじめは行為や怪我が外部から分かりやすいですが、陰湿ないじめ行為は、子どもが親に話さなければいじめの事実を知ることはできません。しかし、いじめを受けている子どもはそのことを親に言えない場合が多いと言われます。我が子が親にヘルプが言いやすい環境を作り、「親は自分の話を親身に聞いてくれる」と言う安心感の下、生活できるようにしてあげたいものです。

   今回の判決が、今後のいじめ問題の改善につながることを心から祈っています。