【今回の記事】

【記事の概要】
   今春、東京目黒区で起きた船戸結愛ちゃん(当時5歳)虐待死事件は、世間に大きな衝撃を与えたが、このような痛ましい事件は後を絶たない。統計によると、虐待による死亡事例は年間50件を超え、1週間に1人の子どもが命を落としている
   これ以上、虐待される子どもを増やさないために、私たちに何ができるのだろうか。認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事であり、子どもの人権を守るための多数の委員を歴任、虐待防止や家族の笑顔を増やすための講演活動を行う高祖常子氏に話を聞いた。

「他人事ではない」と思う保護者は少なくない
   私は現在、育児を主としているママやパパのストレスを軽減させること、そして、子育てにたたく、怒鳴るは不要ということを浸透させていく取り組みを行っています。そのことが、暴力がエスカレートして子どもの命を奪ってしまうという悲しい事件を減らすことにもつながると考えています。
   全国各地で開催している「感情的にならない子育て」講座、「叩かない怒鳴らない子育て」講座では、講座終了後に「子どもに手を上げてしまった」「必要以上に怒鳴りつけてしまった」と涙ながらにお話しに来てくださる保護者の方が実にたくさんいます。
   虐待のニュースを「他人事ではない」と思う保護者は少なくないのです。頑張って頑張って子育てしていた、でもイライラしてつい言うことを聞かない子どもに当たってしまう紙一重のところで、悩み苦しんでいるママやパパ、そして子どもがいるのも事実なのです。


虐待事件の加害者は近隣とのつながりが薄い傾向
   今回の結愛ちゃんのケースは、引っ越ししたばかりでした。今回に限らず、虐待が起こったときによく指摘されるのが、近隣との関係が希薄であるということです。
   厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」という報告書によると、心中やそれ以外の虐待死事例で、地域社会との接触が「ほとんど無い」「乏しい」傾向が強いのがわかります。
   また、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2018年2月に発表した「子どもに対するしつけのための体罰等の意識・実態調査結果報告書」でも、次のように報告されています。
「『イライラする』『孤独を感じる』『両立が難しい』『引きこもる』の4つの経験事例それぞれについて、『(子供を叩いたことが)日常的にある』『時々ある』を選択した回答者の、子どもをたたいた経験を分析した(上記報告書の「グラフ17」参照)。その結果、4つの経験事例いずれにおいても、過去に子どもをたたいたことが『日常的に』『時々』『1~2回』あったと回答した人(つまり「回数を問わず叩いた経験がある」と回答した人)は約8割にのぼり、全体平均約7割よりも明らかに多かった。特に、『イライラする』については、子どもを叩くことが『時々あった』と 回答する傾向が強くみられた。」
   
   怒り(「イライラする」感情)は、身内に対してより大きくなり、爆発する傾向があります。近ごろは「ワンオペ育児」「密室育児」といった言葉も生まれているようですが、養育者が一人で閉じこもり、育児を抱えこむことでストレスがたまり、そのはけ口が「叩く」という形で子どもに向かってしまう危険性が高いのです。
   ですから、育児をしている人は、赤ちゃんの泣き声を漏らさないように窓を閉めて引きこもるのではなく、できるだけ外に散歩に出掛けたり、近くの子育て広場などに出向いて支援者と話をしてみるよう努めましょう。
   この他にも、相談できる機関はたくさんあります。パソコンやスマートフォンで「育児 相談」と検索してみれば、自治体や地域の子ども家庭支援センター、子育て広場、保育園など、相談に乗ってくれる機関がたくさん見つかるでしょう。
育児中でない私たちにもできること
   そして、育児中ではない周りの人々にも、虐待を減らすためにできることがあります。それは、子育て中の親子を温かい目で見守ったり泣いている赤ちゃんにほほ笑みかけたりママやパパの話を聞いて悩みに共感してあげたりすることです。ささいなあなたの言動が、子育て中の親子の心の支えとなることがあります。
   子育て世帯をはじめあらゆる世帯を孤立させず、地域の中で助け合っていくことが、子どもの虐待という悲しい事件をなくすと信じています。

【感想】
   記事中に次のような重要な指摘がなされています。
「虐待が起こったときによく指摘されるのが、(当事者と)近隣との関係が希薄であるということです。」
つまり、人間関係能力”が低い(“知人作りが苦手”という)人は、虐待行為に走る危険が高いということが言えると思います。この“人間関係能力”は、母子間の「愛着」が育む最も大きな能力とされています。つまり、「愛着」形成が最もスムーズに行われる生後1歳半までの間に、直接母親から適切な療育を受けなかった子どもは、大人になっても”人間関係能力”が育まれないために、親になった時に虐待行為に走る危険性が高いと言えそうです。

   また、以下のような指摘もありました。
「『イライラする』『孤独を感じる』『両立が難しい』『引きこもる』と感じている人達は、これら4つのどの経験事例においても、 『(回数に関わらず)子供を叩いたことがある』と言う人の割合が8割にも及んだ」
「特に『イライラする』と感じている人は、子どもを叩く割合が高かった」
「『ワンオペ育児』や『密室育児』のように、養育者が一人で閉じこもり、育児を抱えこむことでストレスがたまり、それが『イライラする』感情に結びつき、そのはけ口として子どもを叩くという行為に繋がってしまう危険性が高い」

   これらのことから、特に、イライラ」という怒りの感情を抑えるためには「ワンオペ育児」のように母親に負担がかかる育児を避けることが必要だと言うことが分ります。同様に、「孤独を感じる」「両立が難しい」と言う母親も、「ワンオペ育児」に陥らず、“誰かの協力”を得ることが効果的だと言えそうです。
   しかし、これらの事は、お母さん一人の努力で解決できるものではありません。一番近い位置にいる旦那さんの協力が不可欠です。育児や子育てを母親に任せきりにしていることが、母親のストレスを増やし、場合によっては子供への虐待行為に発展させるかもしれない、ということを理解していただいて、ぜひ健全な子育てを行ってほしいと思います。

   また、「引きこもる」タイプの母親は、やはり“人間関係能力”が高くないという人だと思いますが、記事中にも「できるだけ外に散歩に出掛けたり、近くの子育て広場など外に出向いて支援者と話をしてみると良い」と 指摘されているように、自分が安心できる知人安心できる場所などを見つけて、できるだけ足を運ぶことが 大切だと思います。
   例えば私なども、スーパーなどに買い物に行く時でも、客をきちんと見て笑顔で接し話し方が優しい店員さんのレジにさりげなく並び、自分自身の気持ちを癒すことがよくあります。つまり、私の自己肯定感を高めてくれる「愛着7」の愛情行為を自ら受けに行くのです(「愛着7」の愛情行為は、決して特別なものではなく、無意識のうちに行なっている人はたくさんいます)。それによって、間違いなく私の心は癒され温かくなるのです。
   また、私は好んで地域の図書館に足を運びますが、そこでは、皆が静かに読書や調べ物をしているので、誰かから急に声をかけられるようなことは 滅多にないので、安心して過ごすことができます。
   先に「“人間関係能力”が低い(“知人作りが苦手”という)人は、虐待行為に走る危険が高い」と  お話ししました。しかし、この“人間関係能力”に大きく影響する人との「愛着」は、生まれた後の生活環境によって作られる後天的な性質を持っているので、大人になった今からでも、「愛着7」を備えた人と出来るだけ接するように心がけることで、“人間関係能力”を高めることができると考えます。